紹介患者さんの治療。

患者さんの主訴は

治療した左上の奥歯で物を咬合すると痛みがある

であった。

患者さんによれば、何年か前に某市で歯牙移植して補綴した歯だという。

その時はラバーダム防湿も行っていたという。

となるとここで最大の関心がある。

移植した歯は親知らずである。

しかも当時は初期根管治療で移植している。

つまり治療で感染が起きる要素しかこの治療が失敗する要素はないのである。

根管治療で感染を極力抑えるにはどのような工夫が必要だろうか?

前医は

①ラバーダム防湿

②可及的に無菌的な道具の使用

③根管充填前のGutta Percha Pointの消毒

④根管充填直後の速やかなる支台築造処置

⑤可及的に速やかなる補綴治療の完了

を全て満たしていたという。

しかし今回、このような問題が起きてしまっている。

歯内療法学的診断が行われた。

#13 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#14(#16) Cold N/A, Perc.(+), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#15 Cold+3/5, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#14と表示してあるが、これは#16を移植して根管治療してから補綴したものだという。

口腔内に装着されているセラミッククラウンの適合は極めて良かった。

Do Well Dental社の鋭い短針(ENDODONTIC EXPLORER-JW17)で触れてもステップなどはない。

レベルの高い治療が行われていると思われる。

PAは以下になる。

偏近心撮影でもっとも近心側の根尖部、いわゆる口蓋根に根尖病変が確認できる。

ここが患者さんの主訴と一致しているのだろう。

CBCTは以下になる。

最頬側

この親知らずは臼歯の典型的な形態ではなく、小臼歯型であったことが予想できる。

クラウンは遠心にリーゼントのように伸ばしてコンタクトポイントを設定させており、オーバーカントゥアだが適合はいい。

ただ抜歯時に傷がつかないだろうか?そこのみが心配である。

適合がいいだけになんとかしてあげたい。

が、この患者さんはオープンバイトである。

これはIntentional Replantationの予後には不利な要素の一つだ。

もし術後に激しく動揺がでれば…クラウンは除去しなければならないだろう。

次に頬側面観である。

根尖病変はない。

次がCBCTの最大の醍醐味の断層像。

問題はあまりないように思われる。

が、その後ろの根管の根尖部は問題があるだろう。

中央部根管

これはきちんと細菌を除去しなければならない。

最後に口蓋側根管。

ここも病変が存在していた。

さて、歯内療法学的診断は以下になる。

#14(#16) Pulp Dx: Previously treated, Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Intentional Replantation

クラウンを除去しないことに一抹の不安はあるものの、Intentional Replantationを行うことになった。


Intentional Replantation時(2022.5.10)

★以下、外科動画/画像が出てきますので視聴に不快感を感じる方はSkipしてください。よろしくお願いいたします。

①歯牙脱臼・抜歯

ラクセーターで脱臼させてダイヤモンド鉗子で抜歯を計画した。これが首尾よく抜けるか?であるが、術前のCBCTを見てみよう。口蓋側の歯槽骨が全くない。ということは歯牙を脱臼させて頬舌方向に振れば抜歯が可能であるということを示している。

 

問題なく抜歯ができた。

抜歯窩は観察することをおすすめする。予期しないものが入り込んでいる場合があるからだ。

 

 

抜歯窩の肉芽組織を全て除去する必要性があるか?であるが、これは

以前にLiterature reviewで行った, Lin 1996 で示した通りの考え方が答えである。

歯根嚢胞の嚢胞は除去しなくても問題ないと述べる根拠の1つとしてOehelersの文献を引用している。

嚢胞は除去しなくても感染や炎症が減少すれば、抜歯後小さくなるか消失するから

だとしている。

根尖病変を除去しないものを経過観察した。

根尖病変をそのサイズの大きさで3つに分類している。

病変の大きさ⇨10mm以上、5mm以上、5mm以下

10mm以上以外は9ヶ月以内に病変を掻爬しなくても骨が治癒した。

10mm以上は9ヶ月以内に36%は完全に骨が戻ったが、64%は骨が完全には戻らなかった。

ただその64%のうち、病変が大きくなったものは0%である。言い換えれば、

64%は全て一応根尖病変が小さくはなっているのである。

また64%(9ケース)のうち6ケースを生検すると、

全て非炎症性で病変は静止・退行を示唆しており生体には害をなしてない

と論じている。

つまり、

大きい病変は小さくなるけども全て戻らない可能性があるが、感染源を完全に除去していれば非炎症性で体に害はない

という意味である。

だから全て除去不要というわけである。

ということで肉芽組織を私はいちいち除去しようと試みていない。

さて話はだいぶ横に逸れたが、次に抜歯した歯を観察してみた。

Apex付近を観察してみた。

口蓋側はGutta Percha PointがApexよりも外部に露出していた。

もともとそうした解剖学的形態であったのか?

治療により外部吸収が起きたのか?

治療後にそうした変化が起きたのか?

私には分かりかねる。

Apexを超えた根管形成を行うと歯牙にマイクロクラックが入ることは知られているが、もしかすると元々クラックがあった歯なのかもしれないし、前医のテクニカルエラー?なのかもしれない。

しかし、総じて非外科的歯内療法はきちんとできていたと思われる。

前医はかなり優秀な先生だ。

また、破折などはないと思われた。

それらしい部位などが確認できなかった。

根尖部の切除を行った。

2. 歯根端切除

バーを定規のように使用して外科治療を行うことを徹底すべきである。

3mm切断したければ、バーをどのように使用するのが適切だっただろうか?

また切断面を観察するとこの歯の根管がどう考えても再治療ではCleaning and Shapingできないことが分かったと思う。

根管治療の限界がここにあるのだ。

その限界はどうしたら越えれるか?と言えば、外科治療意外に壁を壊す作業はない。

メチレンブルーで染め出し、切断後の平面を表示した。

以下のようになる。

逆根管形成するとアルファベットのYの字になることがわかるだろうか?

以下のようなイメージである。

ということで、逆根管形成をGCのMIバーで行った。

3. 逆根管形成

逆根管充填材が3mmとなるように窩底の深さをCheckしながら逆根管形成を行った。

問題ないと判断し、逆根管充填した。

もちろん、Lid techniqueである。

4. 逆根管充填(Lid Technique)

予想通りの逆根管充填形態になった。

PAを撮影して逆根管充填の精度を確認した。

問題ないと判断し、指で圧をかけて再植した。

PAを撮影した。

問題はないと思われる。

最後に再植後の注意事項(定着にかかる時間、治癒までにかかる時間などの説明)を説明し終了した。

次回は1か月後, 2か月後, 6か月後, 1年後に経過観察を行う。

アンキローシスの問題や再治療の治癒にかかる時間を考えれば長く経過は取る必要があるだろう。

そこで動揺などが無ければ治療は成功する可能性があると言える。

しかし私は、

自家歯牙移植された歯をIntentional Replantationしたのは初めて

である。

うまくいくかどうか?は神のみぞ知るというところであろう。

次回の経過報告を少々お待ちください。