経過観察処置。
初診時は2017.2.5であり主訴は
左下の根管治療をかかりつけ医がしてくれない。挙句、歯が折れているので抜歯と言われた…保存はできないのか?
が主訴であった。
この歯科医院は某都市では有名な?歯科医院のようだ。
私とはつきあいはないが…
初診時に左下小臼歯の根管治療が必要でその歯科医院に行ったそうだ。
しかし、担当歯科医師は仮歯の形成をしてそこから2度と根管治療をしなかったという。
そして全ての治療が終了した後に、根管治療の話をしたところ以下のように言われたという。
患歯は歯が折れているので抜歯が必要です
さて本当にこの患者の歯は割れているのだろうか?
歯内療法学的検査は以下のようになった。
既根管治療歯のためにColdやEPTには歯牙は反応しない。
が、Perc., Palp., BT testに患歯は反応した。
Sinus tractもある。ということは歯内療法では問題が解決しない可能性がある。
しかし、歯周ポケットは正常でありMobilityもWNLであった。
PAを撮影した。
根尖部の周囲を取り囲むように病変が形成されている。
いわゆる、
“J shaped” lesion
である。
これが存在する場合、歯牙は破折している可能性が高いという。
おそらく担当医はこのPAで歯が割れていると言いたかったのだろう。
しかし、である。
歯周ポケットは正常であり、MobilityもWNLだ。
それなのに破折するということがあり得るだろうか?
気になることがあるとすればSinus tractである。
これはこの歯科医院に通う間中〜当時の博多駅東の歯科医院に来るまでずっとあったという。
かなり長期にわたる感染が示唆される。
Sinus tractがあるということは口腔内と根尖病変が交通することを意味する。
それはもっと詳しく言えば、口腔内への排膿路が形成されていることを意味すると同時に、
口腔内から食物が根尖病変へ移動することを示している。
いかに有名な論文があるので提示しよう。
Rotstein, Simon 2000 Diagnosis, prognosis and decision-making in the treatment of combined periodontal- endodontic lesions.
この文献の中に以下のような症例が記載されている。
#4は根管治療、再治療までしたにもかかわらず問題が残存していたという。
Re-RCTを再度行うことは選択肢にない為、施術者はIntentional Replantationを行った。
その際、根尖部を除去し病理へ根尖部がどのような状態になっているか?調査することになった。
以下のような病理像が得られた。
さてこの病理像の緑の矢印で示したものは何だろうか??
と言えば、正解は
レンズマメ
である。
現在では、カレーやスープ、煮込み料理など、インド料理やイタリア料理、フランス料理で使用される食材のひとつになっているという
いわゆる食材に出てくる豆
である。
では、なぜ根尖部に豆が存在するのだろうか?といえば、
Sinus tractが原因
である。
豆がSinus tractを介して根尖部へ流入した
のである。
その結果、異物反応が生じてしまい根尖部の病変が消えなかったのである。
Intentional Replantationを行い1年経過し予後は芳しい状況になったと論文には記載されていた。(が、実際はHealingだろう。)
が、私が知りたいのはそれよりもどうやってこのPFMクラウンを傷つけずに患歯を抜歯したか?である。これが唯一知りたい事実である。
運が良かったのか?ポストも外れていない。
ということで、
Sinus tractが存在する=外科治療の可能性が示唆される
ということは忘れずに記憶しておこう。
また治療前にこのPA1枚だけではこの歯の命運は決められないだろう。
何が言いたいのか?と言えば、
PAは1枚ではなく複数枚必要であるということである。
平たく言えば、
偏心撮影が必要
であると言える。
もう1枚PAを撮影した。
このもう1枚のPAから何が言えるのか?と言えば、
根管形成はしていないということが示唆される。
また前医は穿孔を作ってしまっていた。
それがこのSinus tractの原因になったと言ってもいいだろう。
根尖部の形成は行っていないように見える。
ということは非外科的歯内療法で勝てる可能性が高いかもしれない。が、どうなるか?はやってみなければわからない。
特に穿孔をどのように扱って治療を進めるか?である。
先に穿孔を塞ぐか?後回しにするか?
あなたならどうするだろうか?
私は以下のように考えた。
まず根管内部を確認してみる。
そこで穿孔の位置を確認してしまうと根管形成が理想的にできない可能性が出てくる。
そこで、まずは根管の中を見てみてそれからどうするか?を決めることにすると患者さんには伝えた。
ということで患者さんは再根管治療に同意し、治療は行われた。
Re-RCT①(2017.2.26)
このPAが何を意味するのか?と言えば、当時の動画があれば分かりやすいのだが喪失した為うまく皆さんに提示することはできないが、穿孔部位をまず確認するとそこには無数のGutta Perchaで埋め尽くされていたのを確認した。
それを全て除去すると根管形成ができない。
なので私はあらかたGutta Perchaを除去し、根管治療の妨げにならないようにした。
その後、根管形成を行いまず根管充填した。
そして残りのGutta Perchaを全て取れるだけ除去してMTAセメントで封鎖した。
ここから一気に支台築造するやり方もあるが、私はまずはMTAセメントを固めることを優先させた。
したがって水綿球を窩洞内部に置いて仮封して終了した。
そして別日にMTAセメントの硬化の確認と支台築造を行うのである。
Re-RCT②(2017.3.3)
MTAセメントは硬化していた。
問題ないと確信し、支台築造を行った。
Gutta Perchaの除去はこれが精一杯であった。
ファイバーポストを使用してレジンコアで支台築造した。
ここから半年が経過した。
Re-RCT終了後, 6M経過(2017.9.12)
この時点で全ての臨床症状はなく、Sinus tractも消失していた。
PAは以下である。
根尖病変はもはやこの段階では消失したと言っていいだろう。
ということで、プロビジョナルレストレーションから最終補綴へ移行した。
PFM Crown装着時(2017.10.21)
このPAを見た瞬間、この野郎!と補綴医に一瞬怒りを感じたが本人から健全な象牙質の上にしかマージンは置けないという話を聞いて納得した。もう1枚のPAがそれを物語っている。
ファイバーポストは除去されたのか?と言えば、除去されていない。
健全な象牙質の上にマージンを設定すべく治療者はレジンコアを除去せずに補綴を行ったのである。
以下の補足説明でそれを補いたい。
緑の部分のファイバーポストコアは除去されていなかったのである。
その近傍にクラウンのマージンは設定されていた。
ということで患者さんからはいかなる臨床症状もなくこれは私の研修会でも18番の治療として受講生に公開すべき治療だと胸を張っていたのである。
が、
脳出血後に患者さんを呼んで経過観察すると私のその思惑は外れることになる。
以下のPAを確認していただきたい。
Re-RCT後, 4年経過(2021.9.17)
ものの見事に根尖病変が形成されていたのである。
私は勝負に敗れてしまったようだ。
ではなぜ私が勝負に敗れたのか?と言えば、
ラバーダムしないで根管形成をしたわけではなく、
根管形成がPoorな訳でもなく、
作業長の設定位置がまずいわけでもなく、
テーパーがついていない根管形成であった訳でもなく、
支台築造がしょぼかった訳でもなく、
補綴物が不適合だった訳でもなく、
“術前のSinus tractの存在が異物を根尖部へ運んだから”
と考えざるを得ない。
であれば…
私ができることは、Apicoectomy一択しかないのである。
外科治療で異物を全て取り除こうという作戦である。
以上を患者さんに再度説明し、Apicoectomyを行うことに同意された為、別日にApicoectomyを行うことになった。
その模様は後日お伝えしよう。
しばらくお待ちください。