紹介患者さんの治療。

主訴は、

どこの歯科医院に行っても歯が折れているので抜歯と言われるが残したい…何とかならないだろうか。。。

である。

歯内療法学的検査(2025.7.28)

#11 Cold+1/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#12 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)

#13 Cold+1/4, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

主訴は#12だ。

PA(2025.7.28)

CBCT(2025.7.28)

B

P

PA, CBCTから言えることとしては根尖部の根管形成・根管充填が変異している。

いわゆるトランスポーテーション的状態だ。そして既に大きな拡大。頬側の皮質骨も破壊されている。

このことが意味することは、非外科的歯内療法には勝算はないという臨床的事実である。

そう。

Apicoectomyが必要だ。

その際は、

CEJよりも9mm下方に#12のApexがあり、

そこを3mm切断するには頬舌的に7.4mm必要である。

リンデマンバーの半分より長い。

そしてB,P形成してイスムスを繋げなければならない。

このことが意味することは、まあまあ時間がかかる(特に逆根管形成に)可能性があるという臨床的事実だ。

が、これだけの資料で歯根が折れているとは断定できない。

折れていれば抜歯だが、それでも何とか保存する方法はある。

それを行う臨床的意味は、

① 「インプラント前の骨造成・軟組織温存」=抜歯せず歯根膜を温存することで 顎堤幅の急激な吸収を防止

抜歯後 3–6 か月の急速な骨吸収(3.8 mm/1.24 mm)を回避 →Fridus Van der Weijden 2009 Alveolar bone dimensional changes of post-extraction sockets in humans: a systematic review

②「失われた骨の自家再生」=根尖病変が治癒すると骨欠損は自然回復し、失われた骨は自家再生しGBR 同等の骨増生効果 を得られる。

バイオアクティブ材使用のApicoectomyで骨欠損が治癒する→Salah 2024 The impact of root end filling material type and the application of bone graft on healing of periapical tissues after endodontic microsurgery (a clinical randomized controlled trial)

③ 「機能・審美・時間面の患者利益」=咬合と歯冠形態の維持

– 短期的成功を第一目的と割り切り、「もし失敗しても骨は増えている」という“時間稼ぎ”戦略が取れる。

– マイクロスコープ下での接着修復や ケイ酸カルシウムセメント使用により、破折線封鎖の生物学的封鎖性は向上している。→Stefano Corbella 2025The Efficacy of Surgical Techniques for the Management of Confirmed Vertical Root Fractures: A Systematic Review

– VRF 症例で 2 年後生存 36 % と急激に低下する報告もあり、最終的にインプラントへ移行する前提での“橋渡し治療” であることを患者に説明する。

– 垂直破折歯に対する意図的再植術の生存率(12ヶ月: 83.3%、24ヶ月: 36.3%)→Hayashi 2002 Short-term evaluation of intentional replantation of vertically fractured roots reconstructed with dentin-bonded resin

である。

が、以上は患者さんが希望すれば、の話だ。

歯内療法学的診断(2025.7.28)

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Chronic apical abscess

Recommended Tx: Apicoectomy

ということで、別日に治療へ移行した。

☆この後、外科動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。


#12 Apicoectomy(2025.8.7)

外科治療中に歯根の破折線は確認ができなかった。

これが、現実だ。

画像と口腔内の実際は違うのである。

空想で患者を惑わせてはダメな理由がここにある。

根管治療をする→痛いと言われる→なんだ!意味がわからないな!この患者!!💢→この歯は折れてますね!という態度は正しい歯科医師としてのあり方だろうか?

それは一人一人が考える必要があるだろう。

術後にPA, CBCTを撮影した。

問題はないだろう。

縫合して終了した。

次回は半年後である。

またその経過をお伝えしたい。