紹介患者さんの治療。

当時の主訴は

3年前に口蓋がかなり腫れた。今は痛みはないが再発が心配…

であった。

当時の歯内療法学的検査は以下になる。

2018.9.6(初診時)

#12 Cold+1/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#13 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#14 Cold+3/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

PAは以下になる。

CBCTは当時は撮影していない。

歯内療法学的診断は以下になる。

#13 Pulp Dx: Previously Treated, Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis, Recommended Tx: Re-RCT+Core build up with Fiber Post

再治療を提案し、治療計画に同意されたので再治療を行った。


Re-RCT+Core build up with Fiber Post時(2018.9.20)

☆以下、治療画像・動画が出ます。不快感を感じる方はSkipしてください。

Point TF

口蓋の穿通は不可能であった。

このままファイバーポストを用いて支台築造した。

ここから経過観察に入る。


3M Recall(2018.12.17)

痛みなどは全くない。

PAを撮影した。

なお、遠心部はクラウンレングスニング, SRPを他院でしている。


さて、このあと私が倒れて経過が見れなくなってしまったが、患者さんは新しい歯科医院に来てくれた。

3yr Recall(2021.1.6)

いかなる臨床症状もない。

病変はかなり小さくなっていたがまだ残存していた。


4yr Recall(2022.2.3)

再治療を行って4年が経過した。

再治療の治癒に目処がつく段階だ。

PAは以下になる。

痛みはないが、根尖病変が治っていなかった。

破折も疑わなければならないだろう。

CBCTを撮影していただいた。

内容は以下になる。

CBCT(2022.2.3)

遠心に破折を疑わさせる透過像がある。

遠心根にはクラックがあるのだろうか?

3mmで切ると頬舌的な幅は5.35mmであった。

使用するリンデマンバーの半分もない。

破折がないなら…これは実にEasy Caseである。

患者さんには上記事項をご説明した。

すると患者さんはApicoectomyを希望したので、別日にApicoectomyを行うことになった。


#13 Apicoectomy(2022.3.17)

☆以下、外科動画が出てきます。気分が悪くなる方はご視聴をお控えください。



さて上記の2番目の動画から遠心根を調べるという行為が臨床的に無理であるというのがわかるだろう。

もし、それをやるのであれば大量の歯槽骨を削除しなければならない。

すると頬側の皮質骨は多く喪失する。

そうなると当初の目的がわからなくなる。

患者には症状がないのだ。


逆根管形成、逆根管充填を行い、治療を終了した。


縫合に問題があってApicoectomyが失敗することはその歯が実は歯周病であれば可能性はあるが、現実的に問題があるとは考えにくい。

PAは以下になった。

ということで治癒を待つことになったのだが、不幸が襲うことになる。


2022.6.23のことであった。外科治療したところが腫れて不快症状があると連絡があった。

確認すると、#13の頬側にSinus tractのなりかけのようなものがあり、同部は腫脹していた。

歯周ポケットを測定すると頬側中央は4mm, 遠心部は5mmあった。

Apicoectomy後 3M Recall(2022.6.23)


PAを撮影した。

Sinus tractにGutta Perchaを入れると遠心根側壁に感染は存在していた。

Apicoectomyの効果はあったが、遠心には問題があるのだろう。

このことから私は歯周病専門医に遠心の歯周ポケットに問題があることを告げると以下のように返事があった。


◯×さんについてですが、初診時より縁下カリエスもあり、同部位には5mmの歯周ポケットがありました。

その後、縁下カリエスの処置前にクラウンレングスニングを行い、同部位のポケットは3mmになりましたが、歯間乳頭部の歯肉が盛り上がり、5mmに戻っています。

現在のCT像を見るとレントゲン透過像は根尖から辺縁骨まで連続性がありエンドペリオ病変のように見えます。しかし、根尖に達するポケットはありませんので、結合組織付着は残っているのかもしれません。

2018年に外科をした際は辺縁骨は確かにありましたので、その後、外科のトラウマの可能性も含め何かが起きたのかもしれません。

サイナストラクトの原因ですが、通常、歯周病によってサイナストラクトができることは稀です。

腫れるような炎症の場合、歯周ポケットを通じて排膿が起きるためです。CT画像から根吸収も認められませんし、結局のところ、サイナストラクトの原因は不明です。あとは破折とかもありうるのかもしれません。


ということでペリオの問題からSinus tractが起きることは稀という意見に従えば、歯周病の問題はないとなるので、Apicoectomyの失敗の可能性が高いか遠心側壁に側枝があるのかもしれない。

Apicoectomyの失敗ということになれば、切断のベベルがつきすぎていてレトロフィルが浅いのかもしれない。やり直す場合は逆根管形成の可動深さをCheckしなければならないだろう。

それらを直接見るには、心苦しいがIntentional Replantationをしなければならない。

ということで患者さんには内容を説明してIntentional Replantationへ移行した。


Intentional Replantation(2022.7.14)


ラクスエーターで脱臼させた後、ダイヤモンド鉗子で抜歯した。

クラウンは外したかったが…外さずに行った。というよりは外れなかったと言っておこう。。。


抜歯窩に異物がないかどうかをCheckするために作業前に確認した。


抜歯した歯を観察した。

特に遠心面に側枝や未処置の根管、破折線などがないか?を確認した。


が、未処置の根管、破折線などが見つからない。

ベベルを極力取り去り、Q-Opticsで破折線があるかどうかを探した。

が、破折線が見つかることはなかった。

また大きな側枝もなかった。

以下の動画がそれを証明している。


では、なぜ私は勝負(Apicoectomy)に負けたのか?と抜去歯牙をみながら考えた時に、思いついたのは以下の論文の下図だ。

Tidmarsh 1989 Dentinal tubules at the root ends of apieected teeth/ a scanning electron microscopic study.

逆根管充填材が浅くて根切が急だと露出した象牙細管からバクテリアが侵入してくる、と記述がある。

私のApicoectomyでの処置はこうだったのかもしれない。

これを修正するにはどうすればいいだろうか?と言えば、逆根管充填を深く行えばいいということがわかる。

以下の図であれば細菌は侵入してくるだろうか?


ベベルをつけたのであれば、ベベルがついた部分の最下点まで逆根管充填材が来なければいけない。

それが上の私の医療行為では以下のようになっていたと考えられる。

ベベルのついた最下点、つまり頬側のレトロプレップが浅かった可能性がある。

実際の歯牙を見てもそのように感じられた。

またかなりベベルがついている切断になっているので根の長さもあるがなるべく削らないように切断を水平に近く修正し、超音波と極細バーで逆根管形成を行った。

深さが3mmになるように窩洞深さをCheckしながら逆根管形成を行った。


問題ないと判断し、逆根管充填をすることにした。

Lid Techniqueで逆根管充填している。


確認でPAを撮影した。

逆根管充填材をベベルの最下点よりも下まで詰めているので1回目の修正ができたと思われる。

ということで最終的に抜歯窩をCheckして抜去歯牙を再植して終了しPAを撮影した。

この症例から私が学んだことは以下である。

ベベルに関してはやはり気にした方がいいだろう。

このようにRetroprep&Retrofillが浅くなっているとは夢にも思わなかったからだ。

この症例の失敗はやはり歯内療法が原因だと思う。

何度も繰り返すが上記文献の通りであると思う。

そしてもう一つがペリオが原因でSinus tractはできないという事実である。

これも非常にためになった。

このように自分の治療を振り返ると勉強になることが非常に多い。

特に失敗症例をやり直す時が最も勉強になる。

なぜうまく行かなかったか?を考えるからである。

これは私にとって最高の学習環境だ。

大学院を卒業した今、もはや私にあれこれとアドバイスをくれる指導医・先輩はもういない。

しかしこのブログで症例を紹介すれば多くの第3者の目に触れ、それが私の学習にもなる。

まさに一石二鳥だ。

ということで、次回は1ヶ月後だ。

Sinus tractも不快症状も消えることを祈念している。

1ヶ月後、また続きをご紹介しよう。