紹介患者さんの治療。
主訴は
歯内療法が必要と言われたので治療をして欲しい
であった。
痛みや臨床症状はない。
歯内療法学的診断が行われた。
#13 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#14 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#15 Cold+5/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#14に臨床症状はやはりない。
PAは以下になる。
CBCTも撮影してもらっていた。
MBとDBの根尖部には大きな病変がある。
P根は以下になる。
この像だとP根の根尖部には病変が見えない。
しかし、P根を切った時に得られる絵には別の情報が見える。
DBを横から見るとP根にも問題があるように見える。
さて私はどうするべきか?
だが、
まずMBとDBの問題を解決することにした。
それでも問題が残るのであれば、Pも切断する。そうつまり、その時はIntentional Replantationで。
歯内療法学的診断は以下になる。
#14
Pulp Dx: Previously Treated
Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Apicoectomy
さて。
この一連の画像から得られる事実は何だろうか?
と言えば、
P根には病変があるかもしれない。
が、別の画像では病変がない。
つまり、治療ができれば治療した方が無難である。
が、口蓋のフラップをあなたは開けたいだろうか?
と言えば、私にその気はない。
そんなことをするくらいなら、
まず通法通り、MB, DBを長めに切断しApicoectomyし、
経過を見て、それでも治癒しなければ、その後にIntentional Replantationへ移行する
という方法の方が無難だろうと思う。
しかも患者さんには痛みや腫れといった主訴もないのである。
であればなおさら長く経過を見るべきだろう。
それよりも良い方法があれば誰か私に教えて欲しい。
ということでApicoectomyに移行した。
が、まず不適合な築造体を除去させてもらい、ラバーダム下でレジンコアに変更した。
その際のPAは以下である。
この後、Apicoectomyを行った。
☆この後、Apicoectomyの画像や動画が出てきます。苦手な方は試聴をSkipしてください。
#14 Apicoectomy Osteotomy, Apicoectomy, Retroprep, Retrofilling(2022.10.13)
この動画での最大の問題は私が大きなラウンドバーで歯槽骨を削除しようとしているところである。
これでは削れない。
もっと切削効率の高いバーを選ばなければならない。
ということで
歯槽骨が薄ければこのラウンドでいいが、厚みがある程度ある時はストレートフラットエンドクロスカットバーやリンデマンバーを使用した方がいいだろう。
現にリンデマンバーを使用すると容易に根尖部まで到達した。
そのまま歯根端切除まで行った。
が、口角がかなり硬くベベルが大きくついたApicoectomyになってしまった。
またMBは一部分しか切断できていない。
そして私は、MBのみを切断したつもりが、DBも切断していた。
理由は以下の画像による。
MBとDBの3mmでの切断位置が近接しているので、頬側の皮質骨は厚いので骨削合は困難であるが、MBをいじれればDBもいじれるというわけである。
しかし、これはラッキーだ。
が、口角の厚みや硬さは変わらないので、このように口角が硬い場合がApicoectomyは難しくなるという傾向になることが多い。根を切断した時にベベルがつく傾向にあることが多いのである。
その時はどうすべきか?と言えば、以前も語ったが以下のように逃げ方がある。
ベベルをつけたApicoectomyをした場合の問題回避方法といえば、つけたベベルの最上点よりも深く逆根管形成+逆根管充填する
しかないことはTidmarsh 1989を用いて、以前説明した通りである。
このベベルをつけても逆根管形成を深くすれば、外部からの細菌侵入に対抗することができるという話は以前したと思う。
では少なくとも何mmをRetroprepする必要があるだろうか?
Gilheany 1994によれば以下のようになることがわかっている。
特にこの一番最後の記述が重要であると思われる。
この記事で強調して記述しておく。
根切した角度が何度かを術中に判断することは難しいので、レントゲン的に逆根管充填の長さが最低、3.5mmはあるようにしなくてはならない。
と論文中に記述がある。
話は変わるが、この
”3.5mm”
という数字はどこから出てきた数字なのだろうか?
超音波チップの先端の長さを測定してみた。
すると…
3.5mmである。
それはこの論文を意識したものであるのか?どうかは定かではないが、少なくとも関係が多少なりともありそうだ。
ということで、今回も
深さを意識して(逆根管形成のチップが全て入るくらいの逆根管形成+逆根管充填を行う)Apicoectomyをおこなった。
逆に言えば、
口角が硬い患者の臼歯部のApicoectomyを行うのであれば新品の逆根管形成チップを予備に購入しておくべきである(古いと削れないので)
ということもわかる。
ということで、逆根管形成を行った。
逆根管充填した。
逆根管充填後にPAを撮影した。
口角がかなり硬いので大きなベベルがついてしまったが、問題ないと判断した。
もしこれで治癒しなければ、Intentional Replantationへ移行する。
さて今回の記事をまとめると以下のようになる。
<口角が硬くApicoectomyしにくくOsteotomyの量が大きくなりそうな患者のApicoectomyの道具準備について>
①Osteotomy時のストレートフラットエンドクロスカットバーの使用
②新品の逆根管形成チップの複数本(2本以上)の術前準備が必要
となると言える。
勉強になった症例であった。
次回は半年後の経過観察である。
その際にはCBCTもかかりつけ医に撮影してもらう予定である。
半年後の経過観察を少々お待ちください。