紹介患者さんの治療。
主訴は、
前歯の痛み。前歯でものを噛むと痛い
であった。
歯内療法学的診断(2023.4.10)
#6 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#7. Cold+2/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#8 Cold+4/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#9 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#10 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#11 Cold+3/5, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
主訴が再現されている。
適切な治療を行えば、主訴が改善できる可能性が高い。
PA(2023.4.10)
#6のポストコアは歯頚部を削りすぎだ。
こう言う処置がVRFを招くのだが…
#9,10は根尖病変もないのに痛みが出ている。
しかも形成・根充はどうみてもSS hand fileで行い変移させている。
このような状況が最も厄介だ。
が、CBCTでは病変が見えるかもしれない。
が、すでに根尖部の根管形成が太くしかもApex付近までなされている以上、それを修正する方法はApicoectomy一択だろう。
CBCT(2023.4.10)
#6
#6に口蓋に病変がある。
が、3mmできると鼻腔を傷つけてしまう。
そこは避けなければならない。
4~5mmのRoot resectionが必要だろう。
#9
根尖部に病変がない#9は歯根の長さが9.6mmで3mmで切ると頬舌的に3.5mm切断することとなる。
しかも切断に際して危険な要素もない。
#10
#10の根尖部には頬側に若干、根尖病変がある。
Apexから3mmで切断すると頬舌的に4mm切断しなければならないが、これは容易だろう。
Opeに際して危険な要素もない。
外科治療は安全に行うことができる。
先日提示したApicoectomyのケースはApexから3mmで切断した時の頬舌的な幅が約7.5mmだった。しかもイスムスがある。
これはすごく難しい。
このケースとの違いがお分かりいただけるだろうか?
今回はそれが3mmで済む。
半分以下だ。
しかも短根管である。
切断の幅が小さく、根管数が少ないほど簡単である。
と言うことがわかるだろう。
このように同じ歯でもかなり違うのだ。
歯内療法学的診断(2023.4.10)
#6,9,10
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Apicoectomy
推奨される治療はApicoectomy一択である。
本数が3本と多く飛び石のようなApicoectomyになるので、患者さんはIV sedationを駆使してApicoectomyを行うことを希望されたのでそうした治療計画で外科治療を行った。
当日は、CDACの新田先生をお呼びしてIV sedationしていただいてApicoectomyした。
☆この後、外科動画が出てきます。気分を害する方は視聴をSkipしてください。
#6,9,10 Apicoectomy with IV sedation(2023.4.10)
右利きなので左方向への剥離の方が私はやりやすいので#4の遠心に縦切開を入れてスタートしている。
順調に剥離し、#6に到達すると…問題を発見した。
どういう問題だろうか?
メチレンブルーで染め出した。
#6は歯頚部遠心にVRFが存在していた。
そのため、歯槽骨も飛んでいたのだろう。
が、術前の検査ではPocket ProbeはWithin Normal Limit(WNL)である。
このことから何がわかるか?と言えば、
VRFは直接歯牙をみないとあるかどうかは判別できない
と言うことである。
よく覚えておこう。
PAやCBCTで割れている可能性があるような絵はあるものの、本当に割れているかどうかは直視しないと分からないのである。
が、それ以上に言えることは
根管上部1/3を太く削るとこのようにVRFが頻発する
と言う事実である。
Peeso Reamer やGates Drillの正しい使用方法を学びましょう。
歯牙を削合する道具ではないのです。
何回転で、何Nで使用するか?知っていますか?
まあ誰も知らないだろうけど。
(大丈夫、知らなくても生きていけるから。)
と言うことで、#6のApicoectomyは諦めここからFlapの半転をさらに進めていき#9,10のApicoectomyへ移行した。
かなり広範囲にFlapを開けている。
こんなに広範囲にFlapを開けていいのか?と言えば問題はない。
その理由が知りたい方は、来年度のAdvanced Course 2024でお待ちしています。
Apexの位置はCBCTによればそれぞれ歯頚部から9mmの距離にある。
まず#9からApexのおよその位置をペリオプローブで測定し、Osteotomyを行い、Apexを探索し、Root resectionし、Retroprepし、Retrofillingした。
なるべく90°で切断したいので、マイクロスコープの低倍率で切断し、高倍率で詳細をCheckし修正する
と言うやり方がやはり私には合っている。
が、そこにはどう言う方法で、などと言うエビデンスもコンセンサスもない。
次が#10である。
同様のことをしている。
この後、PAを撮影した。
以下になる。
問題はないと判断した。
逆根管形成は曲がっているし、逆根充には気泡があるじゃないか!と言うあなた。
それの何が問題ですか?
Hollow tube theoryは1960年代に否定されていますし、穿孔もしていませんよ。
静脈内鎮静したので患者の顔を動かし忘れ、歯軸の方向をうまく取れなかったのでしょう。
しかし、覆水盆に返らずで一度やってしまったことはリピートできないのです、ゲームのようには。
と言うことで縫合して終了した。
治療時間は3本で1時間もかかっていない。
逆根充には気泡が入っているし、縫合は合ってないし、痛みが出るだろうこの野郎!お前は適当だな!と言うそこのあなた。
この状況がこの後、どうなったか?
お見せしましょう。
Suture removal(2023.4.17)
痛かったでしょう?と質問すると、
“全く痛くなかった。少し腫れたけど、抗生物質も飲んでない。術後にここで飲んだロキソニン以外何も飲んでない。すごいですね!”
と感激された。
その状況は以下である。
口腔内の状況は上の動画のようである。
腫脹も大幅な歯肉の退縮もない。
当たり前だ。
歯周病の患者ではないからだ。補綴も前歯のApicoectomyが安定した後に行うからそれ以上に問題がない。
しかし、俺は綺麗な治療がしたい!
グラビア写真のような!
と言うような、そういう治療がしたい方は、そう言う縫合をしてください。
誰がそんなことを望んでいるのか?と言うことも同時に理解しなくてはならないだろうけど。
ということで、
ここに縫合の真実もよく現れている
でしょう。
真実からは目を背けることはできないのである。
なぜか理由が知りたいあなたは、来年度以降のBasic Courseでお待ちしています。
と言うことで上顎前歯の大掛かりなApicoectomyは終了した。
次回は、別の部分の治療に移行する。
またその模様はご報告いたします。
それまで、少々お待ちください。