紹介患者さんの治療。
詳細は以下のページで読める。
今までの流れを簡潔に説明すると、もともと他院で根管治療を勧められて開始し痛みが出て元に戻らなくなってしまっていた。
病歴は以下である。
2018年9月26日に強い自発痛・打診痛,歯髄に至るカリエスのため抜髄。
かなり太い根管で#50-19mmにて拡大し、症状の消失を確認したので同年11月20日に根管充填。
その後、同年12月6日に同部位の咬合痛を訴えたため咬合調整にて経過を見ていたが、打診痛の改善が見られないため2019年1月17日再度根管治療を行う。
遠方から来院されているので根管貼薬を月に1度のペースでしていたが症状消失せず。
ビタペックスを入れてCT撮影したところ、根尖部より上顎洞への穿孔を確認。
恐らく過度の根尖部の拡大とファイル操作が原因と考えられる。
2018年から治療してこの際(2021年)にもまだ症状が消失していない。
そして、私が治療することになった。
過去のPAなどは以下である。
かかりつけ歯科医院での初診時(2018.9.26)
強い自発痛・打診痛,歯髄に至るカリエスがある#15は以下である。
この#15が根管治療になった。
かかりつけ医 歯科医院 初診時 CBCT(2021.2.13)
上顎洞底粘膜を穿孔している。
ファイルが突き出たと思われる。
初診時 歯内療法学的検査(2021.2.13)
#15 Perc.(++), Palp.(+), BT(+), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)
#14 Cold+3/5, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)
#15は打診痛が強い。また圧痛や咬合痛もある。
Symptomatic apical periodontitisの症状の三冠王だ。
初診時 PA(2021.2.13)
根尖部が既に大きく拡大されて最終的な薬が入っている。
これでは…
やり直し(再根管治療)の効果が全く出てこない。
一番最悪な状況に追い込まれている。
歯内療法学的診断(2021.2.13)
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Intentional Replantation
治療は、”Last Resort”であるIntentional Replantation一択である。
この日に治療へと移行した。
#15 Intentional Replantation(2021.2.13)
ここから痛み?違和感との戦いになる。
2ヶ月が経過し、
1ヶ月後は痛みが消失していた
が、2ヶ月目には痛みが復活して噛むと痛いと言われた。
そしてそこから時間が半年経過した。
半年後の経過は以下である。
Intentional Replantation 6M recall (2021.8.25)
問診をすると以前あった痛みがかなり縮小したと報告を受けた。
Pain scaleは2/10とのことである。
歯内療法学的検査 (2021.8.25)
#14 Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#15 Perc.(±), Palp.(-), BT(±), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#15 6M recall PA(2021.8.25)
根切した部位には歯槽骨が回復しているように見られる。
Intentional Replantation前の#15は,
Perc.(++), Palp.(+), BT(+), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)
であったのでだいぶ主訴が改善していることになる。
ここから私は一つの推論を考えた。
それは、Intentional Replantationですぐに結果が出なくても時間をおいて経過観察すれば治癒する可能性があるということだ。
そしてAAEの以下の成功の定義を患者さんに見せて現状は”Healing”であると告げた上で、経過を追うこととなった。
私は患者さんにさらに6ヶ月後に1yr 経過観察させて欲しい旨を伝え了解していただき、この日のリコールは終了した。
Intentional Replantation 1yr recall (2022.5.18)
患者さんに#15の状況を聞いたところ、
”若干痛みはあるが、日常生活に支障はない”
という回答を得られた。
PAに先駆け、検査をおこなった。
#15 Intentional Replantation後 1yr〜歯内療法学的検査(2022.5.18)
#15 Perc.(±), Palp.(-), BT(±), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
違和感はあるが痛みはないと言われた。
PAを撮影した。
また、1年経過したため#15 CBCTも撮影した。
CBCTでは問題があるような絵が得られなかった。
これは、歯内療法の治癒の評価で言えば、以下のAAEの基準に乗っ取れば、”Helaling”であると言っていい。
AAE Guideline
以上の話を患者さんと再びして、
症状はあるが、歯牙として機能はしているので、現段階では”Healing”として最終補綴を装着することになった。
ということで1年にわたる経過観察は終了したのである。
以下、比較写真である。
そしてここから時間が経過し、この日に2yr recallとなった。
#15 Intentional Replantation 2yr recall(2023.4.13)
歯内療法学的検査
#15 Perc.(±), Palp.(-), BT(±), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#15 PA Intentional Replantation 2yr recall(2023.4.13)
#15 CBCT Intentional Replantation 2yr recall(2023.4.13)
今までの比較は以下である。
このように、ラバーダムをせずに治療をするとそのケアはかなり大変になる。
保険点数が低いからラバーダムするのが理想だけど、できないんだよね…と言うセリフはもはや言い訳だ。
そんな個人の経済学的事情は患者とは何の関係もないからだ。
あなたが富めてようが、貧しかろうが、患者には関係ない。
彼らが望むことは、
”ちゃんと治療してくれよ”
だけである。
この出来事からだけでもこれから歯科医師がどの方法を向いて治療することが成功の鍵なのかわかるだろう。
”増患セミナー”や”接遇セミナー”で患者が増えるだろうか?
“予防歯科”を学べば患者が来るだろうか?
“疼痛に配慮した”歯科医療が必要だろうか? Pain is Painである。
前歯の煌びやかな補綴が患者の生活の質を向上させるだろうか?
(その後に歯内療法の問題が起きないのだと断言できますか?)
“歯内療法は面倒臭いから”と天然歯を抜いてネジコロを勧めますか?
また、それを患者は受け入れますか?
そんなことを望む人がどれだけいるだろうか?
全て、
砂上の楼閣
だ。
もう、言い訳は通用しない時代に入ったのだ。