患者は以前の当歯科医院の患者さん。バイト先での経過観察である。
50代女性。
他院からの紹介時、既に根管治療は終了されていたが痛みが取れないでいた。(2017.12.14)
歯内療法学的検査は以下のようになる。
#2 Cold+1/6, Perc.(-), Palp.(-),BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#3 Cold N/A, Perc.(+),Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#4 Cold+3/5, Perc.(-), Palp.(-),BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
PAを撮影した。
根尖病変は見当たらないように思われる。
#3の歯内療法学的病名は以下になる。
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
しかし、困ったこと?に根尖病変が見当たらない。
紹介先の歯科医師にどういう治療をしたか?聞くと、
”兄が抜髄し、私(弟先生)が引き継いで再根管治療を行なった” と説明があった。
弟先生はかつて私の研修会によく顔を出していたり、私の歯科医院で外科の介助をしたりと協力してくれた先生だったが、新しく勤務するということでそれは途絶えてしまった。
ちなみに、彼は再根管治療はラバーダムして行なっている。
が、兄はラバーダムをしていない、とのことであった。
抜髄ではラバーダムをしていないが、再根管治療ではラバーダムをしている。
CBCTも撮影したが根尖病変とおぼしきものは若干MB根にあるかな?というくらいではっきりはわからなかった。
が、私はまずApicoectomyを治療の第1選択肢として提示した。
患者さんが同意したため、ApicoectomyをMB根のみに行なった。(2017.12.29)
この状態で半年間経過観察を行なったが…症状は改善しなかった。
ということでこの状態になれば最後の切り札を出すしかない。
Intentional Replantationだ。
治療に同意し、2回目の外科治療が行われた。(2018.5.25)
しかし、こんな3根管ある歯が抜けるのか?と言えば、脱臼させない限り抜歯することは不可能だろう。
この時は, Physics Forcepsで抜歯した。
Physics Forcepsは鉗子ではない。
歯牙を脱臼させる装置である。
歯牙を抜歯し、口腔外で歯根端切除、逆根管形成、逆根管充填を行なった。
MTAで逆根管充填し、抜歯窩へ戻した。
ここから半年が経過した。(2018.12.25)
が、この期間中に以下の出来事が起きた。
- 治療前の痛みが消失(主訴が改善)
- 歯内療法に費用を使いすぎたので保険の補綴にしようとしたところ、担当医から電話がありそれでは元も子もないことを再度説明し、きちんとした補綴を装着することに同意。
- 最終補綴治療をかかりつけ医で行う。
この時点で主訴の痛みが全て喪失した。
患者さんは治療して良かった!と大変喜んでいた。
が、私が倒れたため予後を追えなくなってしまったが、バイト先で拝見することができた。(2020.12.8)
状況は全く変わってないらしい。
以下、患者さんの治療に対する感想である。
Intentional Replantationを行なって本当に良かったです。
自分の歯を残すことができました…信じられませんがこの残った歯を大切にしたいと思います。
本当にありがとうございました。
この私に起きた出来事を多くの方に知っていただきたいのでHPに出してもらって構いません。今後ともよろしくお願いいたします。
今、この患者さんは経過観察で2ヶ月に1回、歯科医院に通院している。
#3周囲のメタル修復もBonding restorationに変更されている。
レジンやポーセレンは口腔内が安定している患者さんにしか装着できない。
この症例からわかることは何だろうか?
それは、
根尖病変がなくても歯の痛みは発現するということである。
そしてそれを取り除くにはまず、再根管治療を行わなければならない。
そして、それでも痛みが取れなければ歯根端切除術である。
そして、それでもまだ痛みが取れないのであれば、意図的再植である。
しかし、そんなことは最初からお互いやりたくないだろう。
では、重要なことは何だろうか?
といえば、最初に根管治療する時が最も重要であるということだ。
この歯科医師の兄はその地域でインプラントで著名な先生らしい。
私とは恐らく、話が噛み合わないだろう。
しかし、この日本国の多くの患者さんは残念ながらインプラントを忌み嫌っている。
私にはその気持ちがわかる。
望んで自分の歯を抜歯してインプラントにチェンジしたいという患者さんはいないのである。
この日本国ならなおさらだ。
しかし現状はどうだろうか?
甘い言葉でインプラントに誘われ、その歯科医院に一生通院するという携帯電話の通話料みたいな扱いをあなたは受けたいのだろうか?
私は御免である。