紹介患者さんの治療。

主訴は、

20年前に衝突事故で前歯の神経をとった。その後、歯牙がだんだん黒くなったので再根管治療を行なった。が、突如1ヶ月前に歯茎が腫れてパンパンになり夜寝れないほどだった。それから2週間くらい痛みが続いた。痛み止めも効かなかった。その後、歯茎から膿が出てきて痛みは無くなったが、違和感が残っている。治療が必要だと思うが、どこの歯科医院に通っても抜歯と言われた…歯を抜きたくない。保存できないだろうか?

であった。

歯内療法学的検査(2024.3.14)

#8 Cold+3/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#9 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)

#9には圧痛とSinus tractがあった。

☆以下、検査動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。


圧痛とSinus tract…

これは、外科治療は避けられないだろう。

PA, CBCTを撮影した。

PA(2024.3.14)

CBCT(2024.3.14)

#9は根管充填されているが、根尖部付近で破折している。

元から破折していたのか?

根充後に外傷にあったのか?

だが、

問診から判断するに、

20年前の衝突事故の時点で歯牙は既に破折していたのだろう。

その後、何かの衝撃で根尖部で歯牙が破折して、再根管治療をしても埒が開かなかったと推測される。

だからどこへ行っても、

もう抜くしかない

と言われたのだろう。

が、だ。

この時点で抜歯をするとどうなるだろうか?

といえば、

上顎の歯槽骨がほぼ消失する。

GBRは抜歯時に必須だが、GBRしてもImpalntは難しいだろう。

であれば、保存できないか?だが、この状況から歯牙を救う方法はApicoectomyしかない。

その際、どこで切断するか?だ。

理想的には、このように行いたい。

破折した歯根部だけ取り除いて、逆根管形成・逆根管充填ができるだろうか?

もしそれを行うのであればこの方向からになる。

この方向からRetroprepが可能だろうか?

といえば、画像では可能だが実際は無理である。

なぜか?

それを行うには、この黄色の部分の歯槽骨を全て落とさなければならない。

つまり、事実上このオペは、

このようにフィニッシュすることが予測できる。

そんなのでいいのか?

根が短くなるじゃないか?

動揺が出るだろうが!

というあなた。

術前の検査の結果はどうだっただろうか?

#9 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)

である。

つまり切断しても動揺は出ないと思われる。

ペリオの問題がないからだ。

また、この状況で抜歯してImplantすることは簡単だろうか?

私は非常に難しいと考える。

しかし、歯槽骨ができて環境が整えば…Implantは容易い?のかもしれない。

これがこのApicoectomyの最大の利点であり、そのことを患者さんに説明してあげなくてはならない。

そうした説明ができなければ、なぜそうした治療が必要なのか?一生わからずに終わるだろう。

ということで診断は以下になる。

歯内療法学的診断(2024.3.14)

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Chronic apical abscess

Recommended Tx: Apicoectomy

ということで、別日に治療に移行した。


⭐︎この後、外科動画が出てきます。不快に感じる方は視聴をSkipしてください。


#9 Apicoectomy(2024.3.19)

#9のApexを見つけなければならないが、術前のCBCTからそれは容易だと思われる。

CEJより8mmの地点にそれはあるが、Osteotomyはほぼ不要だ。

Apexを発見したので、Root resectionした。

残根を除去し、Retroprepした。

Retroprepしている歯根が激しく動揺していた。

なぜか?

不思議に思いながら、PA, CBCTを撮影した。

この絵を見て…私は根尖部を切断しきれていないことがわかった。

CBCTを撮影した。

私がRetroprep, Retrofillしていたのは、折れていた残根にだ。

これでは…病気は治癒しない。

ここら学ぶことがある。

このように

やはり、破折した歯牙に対するApicoectomyは、破折部分までApexを切り取ったほうがいい

ということがわかる。

このようなApicoectomyは幻想だ。

無理である。

改めてここから学べることがある。

このように外傷があり、歯根が破折している場合のApicoectomyは、外傷部位(歯根破折部位)まで切除しなければApicoectomyが難しくなる

ということである。

ということで、CBCTを参考にして破折部位までApexを削除した。

Apexを取り出した。

改めて、Root resectionしなおした。

RetroprepしRetrofillingした。

1根管性でGutta Perchaの残渣だけに気を使えばいいので問題がある外科処置ではないだろう。

PA, CBCTを撮影した。

骨欠損は大きくなったが、問題は解決された。

最後に、縫合して終了した。

この後、抜糸に来られた。

#9 Apicoectomy後 抜糸(2024.3.25)

術後は痛みはほとんどなかったという。

が、顔はやはり腫れたそうだ。

糸はひとりでにとれていって1箇所しかないと言われていたが、その通りだった。

しかし実はこの後=術後14日後(2024.4.3)に、この患者さんから以下のようなメールが突然来た。


松浦先生

お世話になります。

3/19に治療頂いた〜です。

今朝方より治療頂いた部位が、再び腫れ出し、治療直後の様な腫れと痛みがあります。
※術後翌日の様な強い腫れです。

また、フィステルが発生していた箇所に、白い斑点が見られ、当該箇所がパンパンに腫れている状況です。圧迫感による痛みがあります。

一時的なものなのか、完治していない状態であるのか、

判断が出来ずご連絡をさせて頂きました。

お手数をおかけいたしますが、ご対応を検討願えませんでしょうか。

また、先ほど、大量の排膿がありました。

写真を添付しておりますが、治療前よりも膿の量が多い状況です。添付写真の量の膿が4-5回排出されました。

明日お伺いさせて頂くことは可能です。ご確認の程よろしくお願い致します。


私は対応するために、患者さんに2024.4.5に来院してもらった。

すると…

あれから排膿したあと、急に楽になって…今は腫れも痛みも全くありません。

一体、何だったんでしょうか??

という口腔内は以下の状態である。

#9 Apicoectomy後 2W later recall(2024.4.5)

一体、あの写真は何だったんだろうか…

私にも謎だ。

今後の治癒過程を見守っていきたい。

次回はレントゲン的に差が出る半年後である。

また状況をお伝えしたい。