非常勤歯科医師の治療。
患者さんの主訴は、
根の先に膿が溜まっていると言われたが、掃除ができないとのことで紹介を受けた。外科治療をお願いしたい
であった。
臨床症状は全くない。
歯内療法学的検査(2024.3.8)
#14 Cold+2/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#15 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
患者さんの言葉通りだ。
PA(2024.3.8)
CBCT(2024.3.8)
MB
MBには病変が見える。
が、同時に石灰化しているのも確認できる。
MB2はなさげだ。
紹介元の先生はMBの穿通を試みたが不可能だったそうだ。
と言うことは…外科治療が濃厚である。
DB
DBにも病変がある。
ここも、石灰化が進み根管形成が不可能だったという。
と言うことは…
外科治療が濃厚だ。
P
ここには根尖病変がない。
以上を総合すると、
MBに根尖病変あり、
DBには大きな根尖病変あり、
Pには根尖病変はない。
歯内療法学的診断(2024.3.8)
Pulp Dx: Previously initiated therapy
Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Intentional Replantation
と言うことで、非常勤の先生は、Intentional Replantationを勧めると言う話であったが…
私には、
これはIntentional Replantationは無理だと思う。
理由は根尖病変が非常に小さくこれでは口蓋根に過大な負担がかかるだろう、からだ。
それよりは、
この患者さんの口角が柔らかく、外科治療時のマネージメントもしやすいことから、同じハードな治療なら、私ならApicoectomyを提案するだろうとアドバイスした。
Apicoectomyするとしたら、以下のようになる。
MB
CEJよりも14mm下部にMBのApexがある。
歯槽骨を4mm削除しないとMBのApexが顔を出さない。
それは難しいことか?と言われれば難しいのだろうが、削除した歯槽骨は再生する。
歯周病の疾患ではないからだ。
これが決断の分かれ目だ。
厳しいのを覚悟で歯槽骨を削除するか、Intentional Replantationへ移行するか。
私なら、そこにアプローチが可能な人であれば、Apicoectomyのほうが楽である。
Apexから3mmで切断すると、
頬舌的に4mmの削除で済む。
が、そのさらに頬側に皮質骨があることを考慮すると、このApicoectomyは事実上、頬舌的に7~8mmは切断しないといけない可能性が高いハードなものになるだろう。
が、何度も言うようにそれ以上にあなたが容易に脱臼できると言うのであれば、Intentional Replantationを行って構わない。
それは自由だからだ。
DB
DBのApexはCEJよりも14mm下方にあり、皮質骨を2mm削除すると、Apexへ到達できる。
また、MBとDBが比較的近いので、どちらかを切断すれば容易にRoot resectionはできるだろう。
ここもアクセスが可能であればそれほど難しい治療になるとは思わない。
と言うことが、Apicoectomyの際の見通しだ。
さあ、あなたはIntentional Replantationを行うだろうか?
それとも、Apicoectomyを行うだろうか?
もちろん、決めるのは非常勤の先生だ。
以上のアドバイスから、非常勤の先生は、もう一度口腔内を確認し、#15をIntentional Replantationではなく、ApicoectomyでMB,DBを切除し、逆根充すると決定した。
が、治療するのは私ではない、非常勤の先生だ。
私は臨床的なアドバイスしかしない。
それがうちの歯科医院のシステムである。
アメリカ歯科大学院方式(USC方式)だ。
ということで、治療は別日に行われた。
☆この後、外科動画が出てきます。不快に感じる方は視聴をSkipしてください。
#15 MB, DB Apicoectomy(2024.4.26)
当初の予定では、2歯近心の#12に縦切開を入れるということであったが、私はそれを#11の近心に入れるように変更させた。
2歯近心くらいでは、フラップに負担がかかるからだ。
また最初の縦切開が非常に短い。
これでは術野が確保できないだろう。
途中、もっと縦切開を伸ばすようにアドバイスした。
すると…
上記動画のようにアクセスが急にしやすくなるのである。
これはまさに経験に基づく提言だろう。
MB根はCEJよりも14mm下方にある。
その位置を3mm削合するとMBのApexが顔を出す…はずである。
が、まさにそれは難航?した。
OsteotomyがApicoectomyで一番ハードな部分だろう。
が、Apexをようやく発見し、3mmで切断した。
するとこの際、DBも発見できたので同時にDBもRoot resectionした。
この際、細かい部分は精査していない。
まず、Root resectionだ。
精査はこの後、倍率を上げて調整する。
CBCTによれば、以下のように断面はなる必要がある。
MB
DB
精査を行った。
すると…切り残しがある。MBがだ。
そこを調整した。
逆根管形成した。
逆根充した。
その後、PAとCBCTを撮影した。
MBはやや、Off-Axisな印象を受ける。
DBはいい感じだ。
が、所詮PAである。
CBCTがもっと正確だ。
MB
MBはやはりOff-Axisであった。
が、ベベルがついた部分よりも深く、逆根管形成・逆根管充填されているのでここは問題は出ないだろう。
また、もう少しで上顎洞をやるところだったが、何とか回避している。
DB
DBは歯根軸に平行に逆根管形成・逆根管充填ができている。
ベベルはついているが、ついた部分よりも深く逆根管形成・逆根管充填がなされているため、それほど問題は出ないだろう。
ここはPerfectだ。
ということで、縫合して終了した。
次回は、1年後に経過を見ることになる。
またその模様をお伝したい。