バイト先での治療。
この患者さんには歴史があった。
術前(2015.8.24)
#31を抜歯している。理由は、歯内療法の問題だ。
ただこの当時は私はアメリカに在住していたため、この歯科医院には通えずにいた。
その際、#30にも#31で発生したような痛みが出たため、そこの歯科医院の先生によって再根管治療が行われた。(2016.10.11)
再根管治療を行い、補綴も新製しているが痛みが取れなかった。
なぜこの先生が再治療したか?といえば、
①術前の#30の根充時の作業長がApexからかなり離れている
②根尖部の拡大号数が小さく、テーパーがついた根管形成(充填)でない
③前医がラバーダムして治療していない
からである。
なので再根管治療を選択した。
が、その時点でも再治療の成功率は60%程度であるので治療内容からしたらかなり頑張った方に入る。
そして、この患者さんは日本人ではおなじみの、
インプラントNG患者さん
であったので#31の位置にインプラントを埋入することもできなかったそうだ。
という背景の中、私に紹介が回ってきた。
この歯を以上のような背景があるが残せないか?治療ができないのか?という依頼である。
#30を検査すると以下のような結果になった。
Cold N/A, Perc.(+), Palp.(+特にD根根尖部), BT(+), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
この歯科医院では当時1枚しかPAを撮影していなかったのでこれが術前の情報になる。
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Apicoectomy
根管治療、再根管治療をすでに行なっているので行うべき治療はApicoectomy(歯根端切除術)のみとなる。
が、ここが最大の日本の問題だ。
歯根端切除術を自分でできればいいが、通常はできない。
だからどうするか?
再度、俺は今までのやつらと違うから!と再々根管治療を行うのである。
そういう要求も患者からあったが、私は最早それは意味がないと説明した。
理由は、すでにこの先生が
①術前の#30の根充時の作業長がApexからかなり離れている
②根尖部の拡大号数が小さく、テーパーがついた根管形成(充填)でない
③前医がラバーダムして治療していない
から再根管治療を行なったのであり、それは全て再根管治療で改善されているという説明を行なっている。
それでも結果が出なかったのだ。
それはなぜか?といえば、根管形成できない部分に細菌がまだ大量に残存しているからである。
それを除去(減少)させるには、その部分を切断し細菌を減少させ、その状態を持続させうる環境を作るしかないという説明をしている。
患者さんは渋々納得し、外科治療へと移行した。
以下が歯根端切除、逆根管形成、逆根管充填した後のPAである。(2017.4.5)
さて、この後この患者さんからはこの歯科医院に
”痛みが変わらねえじゃないか、この野郎!”という怒りのやりとりがあったし、
その歯科医院の院長もお金を返金しましょうか、と私に提案してきたが私はこれを断固拒否した。
そういう事例を作れば、また同じことをしてしまう可能性がある。
次にまたこういう問題が起きたらあなたはお金で解決するのか?という話である。
その歯科医院院長にはそのことを説明し、私が直接患者と話すからと説得し了解を得、
私は患者さんに直接、
結果が出るまで少し(2〜3ヶ月)待ってほしい、痛みが出ることは術後もよくあるから
と伝えた。
患者さんは納得し、ここから3ヶ月待つことを決定した。
術後3ヶ月。PAは以下になる。(2017.7.25)
この時から患者さんの私に対する態度が激変した。
あれだけ居丈高?に上から目線で私を見ていたが、それがこの時から変わったのだ。
主訴の痛みはこの時すでに無くなっていたのだ。
主訴が改善されたのだ。
そして患者さんは私に驚くべき質問をしてきた。
”先生、治療していただいてありがとうございました。ところで質問なのですが、この歯はどれくらい持ちますか?”
私は以下のように回答した。
“そうですね…どれくらい?というデータはあまりないですが、
この歯の奥にもう一本歯があればそこでストップができるので
破折する可能性が軽減されるでしょうね。”
つまり、欠損している#31の位置にインプラントを埋入するということである。
しかし彼女はインプラントNG患者である。
インプラントなど埋入するはずがない。
と私は思っていたが、その歯科医院に次の月に尋ねると驚きのPAを私は見せられた。
それが以下になる。(2017.12.21)
あれだけインプラントを忌み嫌っていた患者がインプラントを埋入したのだ。
なぜか?
それは、#30をApicoectomyで保存することができたからである。
この出来事は私のインプラント治療に対する考え方を一変させた。
患者はインプラント処置を第一には受け付けないが、天然歯を保存できたり、そこで成功体験を得られるとインプラントしてもいいと考えるようになる。
ということだ。
ということでこの時から早いもので4年が経過した。それが以下のPAになる。(2021.6.22)
インプラント部位、Apicoectomyした部位共に現在も良好である。
しかし、私はそれでもApicoectomyした部分が永遠に機能するとは思っていない。
いつか破折する時が来るだろう。
しかしその時がなるべく遠い未来であれば、私がした処置は患者さんに受け入れられてこの患者さんは自分の歯を保存した意味があった!と考えてくれるだろう。
つまり何が言いたいか?といえば、
結果を出せば患者さんは欠損補綴処置をそれが心情的に嫌でも受け入れてくれるということである。
この症例は私のインプラント処置に対する概念を変化させたと言ってもいい。
患者は、天然歯が守られるのであれば、インプラントを受け入れることもあるのだ。
インプラントは4番バッターにはなれない。
しかし、その補助をしてくれることはできる。
最高のバント専門の代打だ。
こういう使い方が一般的になれば日本の歯科医療も変わるかもしれない。(いや、変わるわけないか。)