バイト先での治療。

患者は30代男性。

主訴は

左下奥歯に咬合痛があり最近は噛まないようにしている

というもの。

現病歴としては2020年12月あたりに左下臼歯には大体1ヶ月くらい温熱痛があり、2021年2月の2週目〜3週目あたりに鋭い咬合痛があったとのこと。

しかし、咬合痛はその後消失しているとのこと。

ちなみにこのインレーはゴールドインレーであり、4年前に装着されたもので、インレーセット時にはセット後より数ヶ月間しばらく冷水痛があったとのことである。

歯内療法学的検査は以下のようになった。

#18 Cold+1/5, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#30 Cold+1/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

PAは以下である。

CBCTもこの歯科医院では撮影できたので撮影した。

C-shapedの舌側側に透過像?が見られる。が、目で見てこれは病気だ!というものはなかった。

はてさて。生活歯髄で失活の傾向もない歯になぜ咬合痛が生じているのだろうか?

私はまずは、Fractureを疑った。

顕微鏡のライトを消して、歯にライトを当てたりしながら破折線を探したが、それに関する初見は見られなかった。

ペリオポケットも正常であったため、主訴と検査結果が結びつかなかった私はこの日に処置を行うこと自体を避けようと決めて、治療自体を見送った。

また、あてもなく根管治療などしたくなかった私は患者さんに

Inlayは入っているが、タイムラグなどを考えると修復治療したあとに歯髄が壊死した可能性はあるが、

歯髄から形成のラインは遠いので失活も考えにくいので、

まずは矯正用のバンドをはめて、日常生活を過ごしてみていただくことにした。

それで症状を検証してみようという話になり、

様々な臨床症状があったことから、それでもしみるのであれば破折を疑う必要が出てくる(Cracked tooth syndrome)

という話になりその日は別れた。

検証して症状が改善しないのであれば、根管治療はやはり必要だと言える。

が、この患者さんが再び私がその歯科医院にいないときに来院されたが、全く臨床症状がなかったという。

しかしながら、

4年前のインレーセット時にはセット後より数ヶ月間しばらく冷水痛があり、昨年12月あたりに大体1ヶ月くらい温熱痛があり、今年2月の2週目〜3週目あたりに鋭い咬合痛がありました。その後消失しています。

という臨床症状からやはり歯髄壊死を疑いきれなかった私は、抜髄・根管治療を行うことを勧めた。

患者さんは痛くはないが、またいきなり痛みが出ることを嫌ったため、根管治療に同意された。

ということで根管治療が行われた。(2021.4.21)

しかしながら、C-shaped内部を観察すると、遠心根管は壊死していたが近心根管は生活歯髄であった。

作業長などを測定し以下のような数字になった。

が、ここで最終形成を行なっていたときに、HyFlex EDM #40.04を根尖部付近で破折させてしまった…

しかし、近心根管は生活歯髄であったため、問題はないと判断した。

ポイント試適、根管充填などのPAは以下になる。

この後、このバイト先の先生が修復治療を行い治療自体は問題なく終わったとこの時は思っていた。が、誤算が発生した。

#18の舌側にSinus tractが発生したのである。(2021.6.23)

歯内療法学的検査を行うと以下のような結果になった。

#18 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(+), Perio probe(B側→全て正常, L側→近心から4,6,4mm。), Mobility(WNL)

以下のPAを得た。

根尖病変を認めてしまっていた…

私が破折させてしまったファイルの部分は確かに生活歯髄であったのだが…

CBCTを再度撮影していただいた。

C-shapedのくぼみの部分にGutta Perchaが入り込もうとしていた。

ここから考えられることとして、

①C-shapedのくぼみに破折がある可能性

②C-shapedのくぼみの部分に歯石がある可能性(エンドペリオの可能性)

③単に、へぼいエンド治療の失敗である可能性(近心根は生活歯髄ではなかった?)

ということが考えられる。

しかし、Ni-Ti Fileを破折させてしまった以上このファイルを取り出すことは不可能なので、私は治療をもし行うのであればIntentional Replantationを提案した。

患者さんは納得したため、Intentional Replantationを行なった。

そうすると驚くべき事態がさらに発生するのである。

舌側の歯質に注目してほしい。

Gutta PerchaをSinus tractに入れてCBCTを撮影した時、そのGutta Perchaが向かった先がC-shapedのくぼみの部分だった。

外部吸収である。

しかもこれは侵襲性の外部吸収である可能性がある。

ともかく、この欠損部位に付着していた肉芽様組織を私は除去した。

もしかすると90%TCA(トリクロロ酢酸)を塗布した方がよかったのかもしれない?がその使用に関しては今だに賛成・反対が定まっていないので、

歯根膜を保護したいと考えた私は、今回は使用を見送った。

また、術前のPAでは根尖病変も見えたため、私はApicoectomyも行い逆根管形成・逆根管充填もした。

最後に吸収されている部位にBC puttyを埋め込んだ。

その状態でPAを撮影した。

歯牙を抜歯窩へ戻した。

次回の1ヶ月後の経過観察で、状態を確認する予定である。

その際、またご報告したい。