バイト先での治療。
以前にも治療の内容をご報告している患者さんの経過観察。
気がつけばもう終了してから7ヶ月が経過していた。
その当時の模様を以下に振り返る。
患者は30代女性。
左下奥歯が痛くて夜も寝れないほどだという。
いわゆる近隣の歯科医師からの電話でこの患者はその医院に紹介されたそうだ。
その歯にはCast Crown(12%金パラ合金)が装着されていたが歯質はまだかなり多く残っていることが予想された。
さてこのような状態で来院されたとしても、歯内療法学的検査は必要になる。
患者に痛みを与えるのは良くないな…とか痛みを与えたらうちの歯科医院の評判が落ちるな…などと気にする歯科医師は歯内療法などするべきでないだろう。
#18,19に対して検査を行った。
口腔内には腫脹はなかった。が、何もしていなくても痛みがある(特に咬合した時)という。
#18: Cold N/A, EPT N/A, Perc.(++), BT(+), Palp.(+), Periodontal pocket(WNL), Mobility(WNL)
#19: Cold 3/4, EPT +12/80, Perc.(-), BT(-), Palp.(-), Periodontal pocket(WNL), Mobility(WNL)
ということでPAを撮影した。
歯内療法学的診断は以下のようになる。
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx:Symptomatic apical periodontitis
Recommended Treatment: Intentional Replantation
治療は意図的再植を選択した。
その理由は様々あるが、この状況以上のプレパレーションをこの状態の歯に行うことが困難であると判断したからである。
Dはこれ以上ないくらい拡大され尽くしている。
MLはレッジを作ってしまったのだろうか??
MBもレッジができている。
これをすっきりと解決するにはIntentional Replantationが最適であると判断した。
さてしかし、患者はこのような状況で痛みがある。
さてあなたはどう対応するだろうか??
すごく痛いという主訴である。
麻酔が効くだろうか?
やってみなければわかりませんね、で治療してしまってはあなたの威信?に傷がつく可能性がある。
治療する前にどういう状況になるのか?予想し説明しなければならないのだ。
まず結論から言うとこのような状況になると歯科治療上、非常に不利である。
この状況から脱する有効な手立てはほぼないと言っていい。
炎症は麻酔でコントロールできるが感染は麻酔でコントロールするのが難しい。
そこで患者さんには痛み止め(ロキソニン+カロナール)を多めに処方した。
そして1か月経った治療の日(2020年11月27日)だが…痛みは消えていた。腫脹もない。
つまり歯科治療が行えるチャンスである。
ということで伝達麻酔を1本、そして浸潤麻酔を1/2CT, 歯肉溝内麻酔を1度行い痛みが出ていないか?確認した。
するとあの時ひどかった痛みはこの時点で消失していた…
と言うことでメタルクラウンを除去しラクスエーターで歯牙を脱臼させて抜歯を行い、メチレンブルーで歯牙を観察した。破折しているような所見は無かった。
ということで根尖部1/3を切断し、メチレンブルーで染めてみた。
MBには根管充填剤が見えた。
MLの根管充填剤は見えなかった。清掃ができなかったのだろう。
Dのガッタパーチャは見えたがおそらくトランスポーテーションしている。
と言うことで3根管全て根管形成に失敗している。
それが失敗の原因か?は分からないが少なくとも治療の予後に影響を与えた因子であることは間違いない。
逆根管形成を行いGrayのMTAで逆根管充填しPAを撮影した。
その後、咬合面のレジンを除去しコア用レジンで支台築造し直した。
歯牙を抜歯窩へ戻して咬合調整し、PAを撮影し術後の説明を行った。
経過観察はいつどのようなタイミングで行うのだろうか??
治癒は動物実験だと2ヶ月で完了する、という話は以前のブログに記載した通りである。
この治療日から2か月で治癒を得られると考えられるので経過観察は1か月毎である。
最後に咬合の調整を行い、術後の注意を与えた。
固定はしっかりした歯根であるため動揺もないのでしていない。
2か月後にまた報告したいと思う。
2ヶ月が経過した。(2021.1.22)
その模様は以下のようになる。
#18 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL), アンキローシスを疑わせるような打診時の金属音も無し。
かつてあった痛みは全くないものの、分岐部病変を指摘されたため患者さんの許可を得て伝達麻酔をして分岐部の状況を精査した。
根尖病変はかなり縮小している。
分岐部病変を指摘されたため精査した。
伝達麻酔後に分岐部プローブを分岐部に入れたが全く入っていかなかった。
分岐部病変はない。
ということで2ヶ月経過し問題がないことから、Provisional Restorationの装着を担当歯科医師にお願いした。
次回は半年後に経過観察を行う予定である。
もう抜くしかないと諦めていた歯が残ったのだ。
信じて治療して本当に良かったです!と言われた。
これは奇跡か?と言われれば奇跡ではない。
日常によくある出来事だ。
しかし、経験したことがなければ意外な?状況かもしれない。
あなたは奇跡を信じるか?それとも信じないか?
それはあなた自身が決めることである。
さてここから更に半年が経過した。(2021.7.20)
患者さんはあれから引っ越したそうだ。
ちなみにプロビジョナルレストレーションはまだ装着されていなかった…
歯内療法学的検査は以下になる。
#31 Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
検査を行ったが主訴は解決していた。
ちなみに動画も撮影している。
以下のようになる。
分岐部病変はやはりない。
PAは以下のようになった。
プロビジョナルレストレーションを装着してくれる近隣の歯科医院を紹介し、今日の経過観察は終了した。
次回は来年の1月に1年後のRecall予定となる。
最後にこの患者さんの感想をお伝えしよう。
先生、本当にありがとうございました。
信じて治療して本当に本当に良かったです!
この後の治療も頑張ります。
今後ともよろしくお願いいたします。
貴方はこんな言葉をかけられたことありますか?
あるのであれば、あなたのプラクティスは成功しているでしょう。
これからも世のためにお互い頑張りましょう。