以前の歯科医院での治療。(2018.5.31が初診である。)
主訴は
2017.7.28にApicoectomyした部分が腫れた
である。
病歴は複雑だった。
小学校1年生の時に患者さんは根管治療をしている。その後歯の色が変色した。
高校生の時に歯内療法はせずクラウンを装着している。
しばらくは問題が出ていなかったが、
当時の歯科医院を受診する3~4年前から歯茎にできもの(Sinus tract)ができてしまった
という。
しかし痛みはなかった。
が、前医が外科治療が得意な?先生でその歯科医院でApicoectomyをしている。
しかし、それがうまくいっていない。
歯茎・歯の色の変色も気になるので、それらも含めてきちんとやり直したいというものであった。
歯内療法学的検査(2018.5.31)
#7 Cold+4/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#8 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(+), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#9 Cold+5/17, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
右上1(#8)に問題がありそうだ。
PAを撮影した。
PA(2018.5.31)
歯内療法学的診断(2018.5.31)
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Apicoectomy
推奨される治療はApicoectomyである。
えっ?一回Apicoectomyをやっているのにまた?
そう思う人は多いだろう。
しかし、上記のPAは正しいApicoectomyをしたといえるだろうか?
歯根端切除はしてあるが、逆根管形成・逆根管充填はしていない。
以下の論文ではどのように書かれているだろうか?
Apicoectomy時に、MTAで逆根管充填したものと、根尖部を切断したままの場合(日本の大学病院の多くの治療方法)の成功率の違い
に関する論文がある。
ここからいえる事実は、
Gutta Percha Pointに封鎖性はない
という事実である。
外科をしたらバクテリアを減少させた部分に新たなバクテリアが入らないようにするにはRetroprepしてそこにバリアを置かなければならない。
そのバリアの役目があるのが、MTAなのである。
したがって、上記の治療は治療とは言えない。
単なる手遊びになってしまっている。
そしてもう一つは上記のPAでは見にくいが、根尖部には人工骨が埋め込まれているという事実である。
紹介状にそのような記載があった。
Purosという骨補填材を歯槽骨に填入しているという。
通販サイトを見ると、¥16,500〜¥40,000程度する骨補填材だ。
患者に請求しようと思えばその3倍が一般的であるので、恐らく¥50,000〜¥120,000チャージされたであろう。
穴があれば何かを入れたがるのが日本人歯科医師の習性だ。
USCでは人工物は一切入れるなと教わった。
その理由が知りたい方は、
Complications in Endodontic Surgeryの第16章を読むか
Advanced Course 2021に出席すれば解決する。
どちらにしても基礎系の知識が必要になるが。
さて私はこの患者に何と説明したか?だが、
①歯根端切除をしているだけで逆根管形成・逆根管充填をしていない
②人工骨が埋められている。人工骨があるとApicoectomyを行って治癒したか?していないか?がわからなくなるので不要。できる限り掻爬し除去する。(が、このPurosが原因で治癒していない訳ではないことを強調した。)
という説明をし、外科治療をやり直した。
2018.7.10のことである。
Re-Apicoectomy(2018.7.10)
ここから3ヶ月が経過した。
#8 Apicoectomy 3M recall(2018.10.1)
根尖部の骨欠損は回復してきているように見える。
治療前の主訴=Perc.(+), Palp.(+)も消失した。
しかし患者さんはここで外国に引越しになってしまった。
その後、私が脳出血で倒れたために予後を見れなくなっていたが患者さんにはメールを送った。
それから返事が返ってきて、以下のようになった。(2020.11.30)
松浦先生
先生、お久しぶりです!
ご連絡うれしいです。
治療経過は相変わらず良好です。
脳出血でお倒れになったとのこと、家族の皆様もとても心配されていることでしょう。
私も心配です。
どうか治療に専念なされて下さい。
私も帰国できるようになれば(コロナで身動きが取れない)経過観察に伺いますのでよろしくお願いいたします。
経過は順調ということであった。
ApicoectomyでGBRしてみたくなる気持ちはわかる?が適応症ではないのである。
やめるべきだろう。
でもあなたが歯槽骨を見た目上、早急に、回復させたい!と強く願うのであればその使用はやむを得ないだろう。
しかし、お金はかかるし予後は不良になる。
患者はどちらが幸せだろうか?
私にはその答えは自明だが。