バイト先での治療。

患者さんは50代女性。

主訴は歯を残したいであった。2017.3のことである。

が、PAを見ると診査がどうとか言えなくなってしまうだろう。以下になる。

左右の下顎大臼歯はおそらく全ての歯が穿孔している。

#19,#30に至っては歯牙がほとんど残っていない。

私は見た瞬間、抜歯だろうと思ったが患者さんが

私はなるべく残したい。抜きたくない。インプラントもしたくない。何とかなりませんか?

と懇願された。

私は、根尖性歯周炎を治すことはできるがなくなった歯を再生させることはできない。

つまり何を言いたいか?というと、根尖性歯周炎はなくすことができると思うが、それぞれの歯がどれくらい口腔内で機能するか?予言することができない。

歯の再生はできないのだ。

もっと正確に言えば、

どの歯もそれほど長く持たないだろうと思われた。

そのことを説明したが、患者さんはやれるところまでやりたいと希望した。

同意書を注意深く作成し、患者さんは治療計画に同意したので再治療になった。

その模様を今回は説明するのではなく、この歯牙が現在どうなっているか?を提示したい。

以下のようになる。

2021.8.24

補綴物は歯牙の動揺を抑えるために連結してある。PFMだ。

左下7番のPAを見て欲しい。

治療前には大きな根尖性歯周炎があったがどうなっているだろうか?

5年前に存在していた根尖性歯周炎は消失したと思われる。

患者さんに症状もない。

また右下は7番が穿孔してしまったが、MTAで修復したのだが…経過観察中に歯牙が破折したのでこの歯科医院の院長が私が倒れている間に分割を行っている。

そして、それぞれ単冠+連冠にすることで生存を図ろうとしている。

遠心根の大きな根尖病変も消失したようだ。

痛みも何もない。

もう補綴が入って数年経過している。

私はこの症例を見て、

自分の経験や常識だけで歯科医療を行ってはならないと痛感した。

術前のPAをみて誰がこの長い時間このように歯が機能すると思っただろうか?

誰も思わないだろう。

しかしながらこのような状況になることが、多々あるのである。

これは一体どういうことだろうか?

患者さんの希望に寄り添い、天然歯を保存し補綴まで行うというまさに奇跡を私はこの日目の当たりにしてしまったのである。

以下、患者さんの感想である。


先生!この歯を見てください。

全部残ってますよ?!

あの時、抜歯という選択でなく、再根管治療という選択をして良かったです。

もちろん、この歯が永遠に機能するとは思っていません。

しかしながら、1日でも長く自分の歯で過ごせるのであれば私はこんなに嬉しいことはありません。

2年前に倒れたと聞いて私はびっくりしました。。。

先生も体に気をつけてください。

先生がいなくなったら私の治療は今後は誰がするんですか??お願いいたします。

本当に、今後とも末長くよろしくお願いいたします。


この歯科医院はIntentional Replantationとか、Apicoectomyとかがすごく多い。

この日も1日で2件の外科治療があった。

が、このように再治療でマネージメントできている人も多い。

私の歯科的常識はもう患者さんには通用しないのだろうか?

安易に抜歯だという選択は宜しくないと痛感させられた。

勝負はどうなるのか?わからないのだから。