他院から紹介患者さんの治療。

術後半年が経過したので経過を公表する。

初診はもうかなり前である。

実は既に紹介していた患者さんだ。

日米の麻酔に対する知識・技術の差と抜髄後もしみるという#19 Initial RCT+Core build upした歯の状態について

抜髄後にも歯が染みると訴えていた。

しかしである。

なぜ抜髄した歯が”しみる”のだろうか?

私には理解ができなかった。

よくよく話を聞くとしみるのではなく、治療後から痛みはないがずっと違和感が続いているという。

過去の治療を振り替えよう。


初診時(2021.4.16)

歯内療法学的検査

#18 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#19 Cold++1/12, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#20 Cold+10/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#19は凄まじく沁みていた。

PAを撮影した。

不適合修復物に歯髄に近接するPrepである。

これだけで抜髄案件だ。

初診時にCBCTも撮影はしていた。

近心根は合流しているようだ。

根尖病変はない。

歯内療法学的診断と治療内容は以下になる。

#19 Pulp Dx Symptomatic irreversible pulpitis, Periapical Dx Normal, Recommended Tx: RCT+Core build up w/wo Fiber Post

ということで根管治療になった。


根管治療(2020.10.18)

これから経過を見て行った。


6M Recall(2021.4.9)

この時もしみる、違和感がある、と言っていたが#18の不適合修復物が治療されていなかった。

私は物が詰まったり歯肉炎でも歯が染みるという話をして患者さんをなだめた。

PAは以下になる。


1yr Recall(2021.10.22)

1年経過したがやはり違和感があるという。痛みまではないが…という状態であった。

近心根の根尖部に病変のような物が見える。

が、PAではなんとも言えない。

ということで患者さんにCBCTを撮影していただくことを依頼し、CBCTを撮影した。


術前CBCT(2021.12.11)

術前と比較しよう。

私が抜髄根管治療で敗れたのはこれが2ケース目である。

屈辱だが、なぜ負けたのか?考えなければならない。

使用したGutta Percha Pointを消毒したのか?・・・根充前に1分間ヒポクロに漬けているので問題があるとは思いにくい。

感染に配慮して治療したか?・・・ラバーダムを使用し、唾液が入らないように治療したつもりである。

拡大不足なのか?・・・#50.03まで拡大しているのでそれはないだろう。

テーパー形成が足りないのか?・・・.04まで拡大しているし、#25の可変テーパーも使用しているのでそれは考えにくいだろう。

作業長の設定ミス、もっと根尖側におけるか?・・・これは可能性がないとは言えないが、上記のPAが悪いPAだろうか?私にはそう思えない。

さて、実はもう1つ考えないといけないことがある。

それは根尖部に破折がないのか?どうかである。


治療しても主訴が改善できないことがある。

いわゆる治療の王道を歩んだにもかかわらずうまくいかないことがあるのだ。

なぜだろう?と昔から思っていたが、最近は少し予想ができるようになってきた。

以下の論文が私の心に残っている。(なお有名論文ではない)

Arias 2014 Comparison of 2 Canal Preparation Techniques in the Induction of Microcracks/ A Pilot Study with Cadaver Mandibles.

Bahrami 2017 Detecting Dentinal Microcracks Using Different Preparation Techniques/ An In Situ Study with Cadaver Mandibles.

両方ともカダバーで根管形成して歯根が破折しやすいファイルを探そうという試みを行ったものである。

Arias 2014年から解説すると以下になる。

M&M

Three lower incisors from each of 6 adult human cadaver skulls were randomly distributed into 3 groups: the control group (CG, no instrumentation), the GT group (GT Profile hand files; Dentsply Tulsa Dental, Tulsa, OK), and the WO group (WaveOne; Dentsply Tulsa Dental). In the GT group, manual shaping in a crown- down sequence with GT Profile hand files was performed. In the WO group, Primary WaveOne files were used to the working length. Teeth were separated from the mandibles by careful removal of soft tissue and bone under magnification. Roots were sectioned horizontally at 3, 6, and 9 mm from the apex using a low-speed saw. Color photographs at 2 magnifications (25 and 40) were obtained. Three blinded examiners registered the presence of microcracks (yes/no), extension (incomplete/complete), direction (buccolingual/mesiodistal), and location. Data were analyzed with chi-square tests at P < .05.

カダバーの下顎前歯を形成に利用するファイルに従って3つのグループに分けている。WaveOneとGT Profile hand filesと形成も何もしないグループの3つに分けている。

GT Profileグループはクラウンダウンで形成している。WaveOneグループは#25のWaveOneを使用して根管形成している。

その後歯根をApexから3,6,9mmで切断し、拡大視野下で写真を撮影し、マイクロクラックの有無と破折のあり方とその方向をチェックしている。

さて、WaveOneは歯根破折を引き起こすダメな?ファイルだろうか??

結果は以下である。

Results

Micro-cracks were found in 50% (CG and GT) and 66% (WO) of teeth at 3 mm, 16.6% (CG) and 33.3% (GT and WO) at 6mm, and 16.6% in all 3 groups at 9mm from the apex. There were no significant differences in the incidence of microcracks between all groups at 3 (P = .8), 6 (P = .8), or 9 mm (P = 1).

All microcracks were incomplete, started at the pulpal wall, and had a buccolingual direction.

形成をしていない歯根の先端も破折していた。

では、この続きとなるBahrami 2017ではどうだろうか?

この研究ではTRUShape (TS; Dentsply Si- rona, York, PA), WaveOne Gold (WO, Dentsply Sirona), or K-files (KF) compared とuninstrumented control group (CG).の4つを比較している。

詳細は上記のArias 2014の研究の通りである。

ここでも削っていないものがもっとも破折していた。

この一連の研究、私の臨床でも適切に行ったはずの歯内療法が思った結果になっておらず外科治療に移行すると根尖部の破折を目にすることが多いことから、ここに

”よくわからない問題(出来事)の答え”

がある気がする。

何故か根尖部が破折する。

そしてそこに感染が起きる。

そして治癒しているはずが治癒しないという出来事に遭遇する。

ということで根切して破折線を探すという作業に私は出ることにした。

外科治療はその翌月行われた。


Apicoectomy時(2021.12.11)

根切を行うと私の懸念があたる。

なんと、根尖部の歯根が破折していた。

破折線を削合し、消去させて逆根管形成して逆根管充填した。

PAは以下になる。

さて、ここから半年が経過した。

Recallであの歯がどうなったか?を確かめるのであるが、患者さんからは以下のような言葉が出た。

外科治療してからもう違和感がなくなった。すごく調子がいいです。

ということで半年経過していかなる臨床症状もない。

PAは以下になる。

6M Recall(2022.6.23)

初診時、Apicoectomy時、6M Recall時を比較した。

半年経過し、根尖部の歯槽骨は回復しているように思われる。

患者さんは違和感や痛みなど全くない。

おそらくこのまま問題なく経過すれば私は勝つだろう。

しかし、私の根管形成の何が問題になったのだろうか?と言えば以下の行為が疑われる。(が、明確に覚えていない)

Adorno 2013 The effect of endodontic procedures on apical crack initiation and propagation ex vivo

オーバー形成すると、根尖部が以下の写真のように破折する。

これはWL=Apical Foramen-0.5で治療している関係上、起こした可能性はある。

が、問題はこれが本当に私が原因で起きたことなのか?それとも前述したように元々クラックしていたものなのか?判別できない。

しかも私がオーバー形成した記憶がないのでなんとも言えない。

しかし、破折していたのは確かであった。(当時のマイクロのカメラの写りが悪いことを私は非常に恨んでいる。。。)

そして破折線を消し去ると臨床的な問題が解決されている。

不思議な話であるが、そういう出来事があったということだけを今回はご報告しよう。

また、さらに半年後にCTを撮影して検証してみたい。