その日の午後からは紹介されたもう一人の患者さんの治療。

Intentional Replantation案件である。

当初私に与えられた資料は以下であった。


松浦先生

お世話になっております。〜です。

新規の患者様の紹介の件でご連絡です。

<患者情報>

〜 様

左上1をジルコニアクラウンにしたいとのご希望ですが、根尖病変があります。

歯が傾斜しており、外科治療になった際に私では難しいと判断し、松浦先生を紹介したところ治療をご希望されました。

よろしくお願いいたします。


補綴治療を行いたいが、根尖病変があるので補綴ができなので治療をお願いします

というアメリカでは一般的な歯内療法の依頼だ。

こう言う依頼が増えれば日本もいいのだが…

そうした日は来るだろうか?


口腔内写真やPA、CBCTもいただいていた。

検査の前に資料を見るのは好きではないが仕方がない。

口腔内写真から見ることにしよう。

#9が傾斜している。

外傷の既往がないか?聞いたがないと言う。

#9は小学生時代(今から20年以上前の頃)に治療したと言う。

PAは以下である。

その後、再根管治療をしたが、初診時もその際もラバーダムはしていないと言う。

それでは細菌の排除はできないので不適格な治療と言わざるを得ない。

CBCTは以下になる。

根尖部が口蓋に偏位している。

根管治療は既に大きく形成・根管充填がなされている。

この状況を好転させることはできない。

つまり外科治療が適応症である。

が、Apicoectomyが適しているだろうか?

Apicoectomyするには頬側の皮質骨を大幅に削除しなければならない。

もっと非侵襲的な治療はないのか?と言えば、Intentional Replantationである。

単根で根尖病変があるので抜歯は容易である。

30分程度で終わるだろう。


以上の資料をもとに歯内療法学的検査を行った。

歯内療法学的検査(2022.10.8)

#8 Cold+3/4, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#9 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#10 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

PA(2022.10.8)

診断は以下になる。

#9

Pulp Dx: Previously Treated

Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Intentional Replantation


患者さんにお話をするとIntentional Replantationに同意された。

と言うことで治療に移行した。

#9 Intentional Replantation① 脱臼・抜歯(2022.10.8)

☆この後、臨床的な動画が出てきます。気分を害する方は試聴をお控えください。

まず支台築造を歯牙を脱臼・抜歯させた。



この抜歯後の抜歯窩を見てほしい。

なにか見えないだろうか?

私はこの時点では歯石?何で??にしか見えなかったが…

正体は後ほど判明する。


#9 Intentional Replantation②(2022.10.8)Apicoectomy, Retroprep, Retrofill


まず目に入ったのは縁下歯石状の?物質である。

なぜこんなところに縁下歯石が??

患者さんに過去に歯茎に出来物ができていたか?聞くとそう言うのは一切ないとのことだった。

逆根管形成し、逆根管充填してPAを撮影した。

まだ私はこの歯石状の物質の正体にこの時点で気づいていない。

問題はないと思われる。

歯牙を抜歯窩へ戻す前に抜歯窩を観察した。


#9 Intentional Replantation③ 抜歯窩観察(2022.10.8)


抜歯窩から出てきたのは…

そう。

なんと、セメント質が剥離していたのだと思われる。

セメント質剥離=Cemental Tears

で文献を検索するとIEJが引っかかった。

Lee 2021 Cemental tear: Literature review, proposed classification and recommendations for treatment

要約すると以下になる。

The prevalence of cemental tears was reported to be lower than 2%.

The incidence remains unknown.

Clinical management tended to focus on complete removal of the torn fragments and periodontal treatment, often combined with regenerative treatment.


罹患率は2%以下(かなり稀)

なぜ起きるのか?原因不明

治療はセメント質剥離部の完全除去(そんなことできるのか?)としばしばペリオの再生療法が必要(再生するのか?)


抜歯窩に存在するのであろう剥離したセメント質はほぼ完全に回収した。

これ以上の掻爬は無理である。

歯根の表面はどうだろうか?

と言えば、この患者さんはエンドの問題がある人なのでSRPができない。

SRPをすれば、エンドーペリオの治療に反してしまう。

つまり、この処置で芳しくなければペリオの先生に紹介すると言うことになるだろう。

抜歯窩へ歯牙を戻した。


PAを撮影した。

問題なく終了した。

次回は2ヶ月後にRecallする。

その際にはペリオの問題が出ていないか?Checkする必要がある。

ペリオの再生療法が必要なのか?これで治癒するのか?

2ヶ月後を少々お待ちください。