経過観察処置。
患者は30代男性。
博多駅東のまつうら歯科医院で治療していた患者さんだ。
主訴はどの歯科医院に行っても左下の奥歯は抜歯だと言われる、残したいのだが…というものであった。
術前の歯内療法学的検査は以下のようになる。
#18 Cold+3/4, Perc.(-), Palp.(-), BT(-),Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#19 Cold NR, Perc.(-), Palp.(-), BT(-),Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#20 Cold+2/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-),Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
PAは以下のようになった。
PAは口腔底に痛みがあるので根尖まできちんと撮れていない。
#19の歯内療法学的診断は以下のようになる。
Pulp Dx: Previously initiated therapy
Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis
Recommended TX: RCT
Prognosis: Good
である。
PrognosisがGood??
こんなに根尖病変が大きいのに嘘をつくんじゃねえ!という歯科医師の声が聞こえて行きそうだが予後はGoodである。
みなさんが確実に覚えなければならない論文がある。
1990年のSjogrenの歯内療法の予後に関する論文を紹介しよう。
歯科大学生に300人以上の患者を治療させている。
その中で歯科大学生が根管治療をしているが、どれくらいの患者さんが治癒しているだろうか?(10年予後)
86%である。
およそ90%の患者さんが根管治療を行うと治癒する。
しかし、大きな病変があれば無理でしょう?というツッコミにはあなたはどう答えるだろうか?
その答えもこの論文にある。
根尖病変のサイズが
5mm≦でも87%の歯がhealedしている。(根尖病変がなくなっている)
5mm>でも83%の歯がhealedしている。
根尖病変の大きさがたとえ大きくても、根管治療がきちんとできるのであれば根尖病変は治るという事実がここに記されている。
あなたはこの言葉を信用できるだろうか?
ということでこの患者さんがこの論文の結果にちょうど合致したのである。
根管治療は1回で終了した。(2018.6.12)
実はこの患者さんの近心根は3根管であった。(2019.2.15. 倒れる前最後のリコール)
下顎の大臼歯が3根管である可能性はどれくらいだろうか?
Azim 2015の論文によれば、
全大臼歯の15%にMMはあるという。
キャッチャーの打率くらいだ。
その中で、
MM 完全独立 10%
MMはfinとして存在、それが根尖まで続く 10%
MMあるが、MBかMLもしくはMB,ML,MMが1つに合流 80%
だという。
つまりほとんどの場合隣接根管と合流するのである。
そしてこの症例は上記スライドのどれに該当するか?わかっただろうか?
さてこのPAを撮影したのが2019.2.15である。
私はこの1ヶ月後に脳出血で倒れ意識を失った。
しかし、新しく開院した歯科医院で再び会うことができた。
久々にお会いしたが全くどうもないという。
治療から3年半経過している。
PAを撮影した。(2021.12.8)
根尖病変は消えて無くなった。
Sjogren 1990の論文通りである。
これがあるからアメリカでは歯科医師は尊敬される仕事として毎年トップ10に必ずあげられる。
日本で同じ調査をしたらTop100にも入らないだろう。
アメリカでは歯科医師が多くて大変ですね、などということはないのだ。
一方、日本では歯科医院とはどんなところだろうか?
ケツの毛まで1本残らず毟りとられてしまうところだろう。
そしてあなたは少しのことで歯科医師から攻撃されるだろう。
そしてデタラメな治療を繰り返される。
で、気づけば歯がなくなるのだ。
この世の中に歯科医師は本当に必要なのだろうか?とさえ思ってしまう。
そしてこの患者さんに別れ際に以下のようなことを言われた。
”先生が倒れたと聞いた時、今後自分はどうしたらいいのか?目の前が真っ暗になりました。本当に復帰していただいて良かったです…今後もずっと来ますのでよろしくお願いします。この私に起きた出来事を世の中の多くの人に知ってもらいたいです。そうすればこのような問題で失敗する患者は世の中からいなくなるでしょう。先生はそのような患者の為にまだ生きてもらう必要があります。これからも体を大切に頑張ってください。私の周りでこの問題で困っている患者がいれば全ての患者に先生のことを紹介しますから。今後ともよろしくお願いします。”
あなたはこのようなセリフを患者から聞いたことがあるだろうか?
私にとってRecallはこのような悩みが消えた患者と語らう場である。
私はなぜ歯科医師をしているのか?といえばこのような言葉を聞くためだろうと思う。