バイト先での治療。

患歯は#28。

主訴は咬合痛であった。

歯内療法学的検査が行われた。(2019.10.4)

#27 Cold+4/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#28 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(-), BT(++), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#29 Cold+3/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

主訴が検査で再現できた。

歯内療法で問題を解決できる可能性が高い。

PAは以下になる。(2019.10.4)

CBCTも撮影していただいた。

CBCT(2019.10.4)

巨大な根尖病変が存在する。

そしてその近くにはオトガイ孔があるというDangerousな環境だ。

根尖病変の直下にはオトガイ神経が存在する。

触れば麻痺の可能性がある。

接触等を避けなければならない。

診断は以下になる。

#28

Pulp Dx: Previously Treated

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Apicoectomy

Intentional Replantationはこの湾曲度合いだと難しいかもしれない。

そこで私はまずApicoectomyを行い、それでも治癒しなければIntentional Replantationを行うと患者さんに告げた。

ということで別日に外科治療が行われた。


☆この後、臨床動画が出てきます。気分を害する方はSkipしてください。


#28 Apicoectomy(2019.11.26)

根切して逆根充した直後の動画である。

#28 Apicoectomy時 PA(2019.11.26)

オトガイ孔が近接しているため過剰な肉芽組織除去を行わなかった。

こういう動画を見せると、

”そんなことでいいのか?!”

と抗議の声が上がることを私は知っている。

それは遥か昔、私が長崎大学の時代であった。

肉芽は全て除去しろ

骨がカリカリと音がするまで取れ

と私は習ったのを覚えている。

その時、私はライター(誰か覚えていない)に質問したことがある。

上顎洞や下歯槽神経が近くにあったらどうすればいいんですか?

答えは明確であった。

”そういう時はお前、取るのは控えろ”

それを聞いた時の私の意見は、

”なんでダブルスタンダードなんだろう?”

という程度であった。

この疑問に答えが出たのは2014年のロスアンゼルス USC Endoであった。

外科で有名なLinの論文である。

Current lit reviewでかつて扱っていた。


Lin 1996 Periradicular curettage

主な掻爬しなくて良いだろうと思う理由を以下のように5つほど引用してまとめただけの文献である。

根尖部の病変を掻爬しなくてもいい理由を述べたものである。

が、実質は5番目のOehelersの文献と言われても仕方がないことになっている。

論理展開は以下である。

歯根嚢胞の嚢胞は除去しなくても問題ないと述べる根拠の1つとしてOehelersの文献を引用している。


嚢胞は除去しなくても抜歯後小さくなるか消失するから

だとしているのである。

Oehelersの文献を解説しよう。

まず根尖病変を除去しないものを経過観察した。

根尖病変をそのサイズの大きさで3つに分類している。

病変の大きさ⇨10mm以上、5mm以上、5mm以下

10mm以上以外は9ヶ月以内に病変を掻爬しなくても骨が治癒した。

10mm以上は9ヶ月以内に36%は完全に骨が戻ったが、64%は骨が完全には戻らなかった。

ただその64%のうち、病変が大きくなったものは0%である。言い換えれば、64%は全て一応根尖病変が小さくはなっているのである。

また64%(9ケース)のうち6ケースを生検すると、

全て非炎症性で病変は静止・退行を示唆しており生体には害をなしてない

と論じている。

つまり、

大きい病変は小さくなるけども全て戻らない可能性があるが、感染源を完全に除去していれば非炎症性で体に害はない

という意味である。

だから全て除去不要というわけである。

しかしこの論文は、実際はLinではなく、実質Oehelersの文献であるが。。。


さてこれは事実だろうか?

以前もこのHPで扱ったことがあるようだ。

肉芽組織の全ての除去はApicoectomy時に必須か?〜#28 Apicoectomyから学べること(術後3年経過)

Apicoectomyより半年後(2020.6.23)

明らかにHealing傾向を呈しているPAだ。

肉芽を残した私は極悪人じゃないのだろうか?


Apicoectomyより1年後(2020.11.26)

症状もなく、根尖部も問題がない。

ということで1年経過して予後は良好といえる。


その後時間が経過し、この日の経過観察を迎えた。

#28はPerc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)であった。

術前のいかなる深い症状も、もはやない。

Apicoectomyより3年経過(2022.1.25)

3年経過したのでCBCTを撮影した。

どうだろうか?全て肉芽を掻爬していないのに歯槽骨が復活している。

肉芽組織は全て取らなければならない!という主張はこのように当てはまらない、と私はUSC時代に教わった。

それが臨床でも実証されている。


Lin 1996 Periradicular curettage

この文献によれば、肉芽組織は感染がなくなれば、新生組織に組み込まれるという。

そしてその存在がなくなると言われている。

興味がある人は読むことを薦める。

この文献の通りになった。

これが嘘ならば、最終補綴は装着されていない。患者にはいかなる不快症状もないのだ。

最終補綴物の存在が問題がないことを実証している。(ポストコアの長さが異なることに注目)

患者さんは治療の結果に大喜びであった。

肉芽組織は全て残らず除去しなければならないというのはあくまでも経験的な話であってエビデンスはないのだ。