かつてUSC時代に、Intentional Replantationを行う時はクラウンを必ず外しておけ
とDr.Schecterより言われたことがある。
それはおそらく経験的なものであったと思うが、最近その意味を私は深く痛感している。
Intentional Replantationを行うと臨床的にBTが少し高くなる。
すると対合歯と咬合するようになる。
Intentional Replantationの成功の鍵としてよく挙げられるのが、
“咬合させないようにする”
ことである。
それは経験的なものであると思うが、私は当たっていると思う。
Becker 2018の論文にもそう記載がある。
論文の中には以下のように書かれている。
“Relief of the reimplanted tooth from occlusal contact was near unanimous”
ということで咬合させた場合とさせない場合で予後に差が出る可能性があるのでこのHPで報告する。
まず今日は咬合させなかった場合の話である。
他院から紹介の患者さん。
主訴は
右下奥歯が噛むと痛い…悪いところはできれば全て治療したい
であった。
こういう話をすると誤解を受ける人が多々いることを私は知っている。
どういう誤解か?と言えば、
”お金がいっぱいかかってしまう。。。”
というものである。
あのですね…
これは治療費がうちが高額であるとか、
被せる治療のことを指していると思われるが…
うちで治療を行うスパンは数ヶ月に何回かのレベルである。
毎月お金が必要!という訳ではない。
そして被せる治療は…最終的なものが入るのは数年先です。
そうでないとしたら…なにかにその担当医は急かされているんでしょう、としか言えない。。。
どうして高額な治療費が一気にかかるというのだろうか?
何か勘違いをされているに違いない。
ということで、当時の検査の状況をご報告すると以下である。
歯内療法学的検査(2022.11.26)
#30 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(+), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#31 Cold N/A, Perc.(++), Palp.(-), BT(++), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#30も#31も咬合痛が激しいようだ。
両方とも治療が必要であろう。
PA(2022.11.26)
#31 CBCT(2022.11.26)
M根
D根
Dの遠心に大きな骨欠損がある。
しかもC-shapedである。
ということは
このアイスのコーンのような長めの歯根は抜歯が可能である
という事実を私に突きつけている。
歯内療法学的診断(2022.11.26)
#31
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Intentional Replantation
ということでクラウン、ポストコアを除去してレジンコアに変更しIntentional Replantationを行うという治療計画を立てて行うことになった。
☆以下、臨床的な動画が出てきます。気分を害する方は試聴をSkipしてください。
#31 Intentional Replantation① 脱臼・抜歯(2022.11.26)
脱臼時にコアが脱離してしまった。
仕方がないのでそのまま抜歯して口腔外でIntentional Replantationを行った後に再築造することにした。
#31 Intentional Replantation② Root resection(2022.11.26)
根尖部3mmを切断した。
その後、断面を観察して逆根管形成を行う。
#31 Intentional Replantation③ Retroprep(2022.11.26)
長いC-shapedの根管であった。
最後の形成が綺麗なCの字になっている。またきっちり3mm Prepするにはバーが適していると思われる。
その際に利用できるのがMIバーである。
これは以前のブログで報告した通りである。
最後に逆根管充填を行った。
#31 Intentional Replantation④ Retrofilling(2022.11.26)
Lid techniqueで逆根管充填した。
時短にはもってこいである。
最後にPAを撮影した。
問題はないと思われる。
通常ならこれで戻して終わりだが、築造が抜歯時に外れたためにそれを行うことになった。
口腔外という究極の防湿環境で、だ。
が…う蝕が進んでいる。。。
検知液を使用して赤く染まった部分のみを除去していった。
#31 Intentional Replantation⑤ Core build up with Fiber Post(2022.11.26)
ファイバーポストを用いて支台築造していった。
口腔外でバリを除去し、再植した。
脱臼して抜歯する場合の最大の問題は再植が困難になることがあるということである。
このCaseでも私は苦労をしている。
これを防ぐには…
最終的にどの方向で抜けたか?を記憶しなければならない。
上記の動画だと、最終的に歯は近心舌側の方向に抜歯している。
ということは…
戻す時はその逆でなければならない。
つまり、
遠心頬側方向に歯を押さなければ元には戻らない。
ここがIntentional Replantationで一番難しい部分と言っていいだろう。
再植後にPAを撮影した。
#31 Intentional Replantation後 PA(2022.11.26)
さて…
これを披露するのが今日の私の目的ではない。
ここから痛みが出る場合と出ない場合のケース分けを行うのが私の目的である。
ということでこのケースでは歯牙が対合歯と全く咬合していないことがわかるだろう。
かつて私の師匠であったDr. Schecterがクラウンを必ず外せと言っていたのには私は訳があると思っている。
それがこの場合だ。
再植後、1ヶ月後に経過を見せに患者さんが来た時である。
この患者は痛みに苦しんでいるのか?それとも何の問題もないのか?
1ヶ月後の様子は以下である。
#31 Intentional Replantation後 1M later recall(2022.12.26)
歯牙に動揺はない。患者さん曰く1週間もたたずに定着したという。
そして、1ヶ月後の経過観察では全ての不快症状が消失していた。
術前の、打診痛・咬合痛は消失していた。
問題は解決されたのである。
しかし…
それは術前に概ね読めた気がする。
なぜか?と言えば、
術前に対合歯と咬合させていなかったから
である。
そうした場合、痛みが出にくいことが多い気がする。
ということで明日以降、経過をみて痛みが出たケースをご紹介したいと思う。
その違いが明確であるからだ。
明日以降の記事をお楽しみに。