以前の記事の続き。
前回、Intentional Replantationを前提に支台築造したことをお伝えした。
この日、Intentional Replantationへ移行することになったのでその結果を報告したい。
そもそもが、
左上の歯の付け根を押さえると痛い(7/10程度。普段はゼロだが…)
であった。
歯内療法学的検査(2023.5.24)
#12 Cold+1/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#13 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(++), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#14 Cold+2/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
主訴が再現できた。
打診痛も咬合痛もあるようだ。
PA(2023.5.24)
歯根のやや中央部に透過像が見える。
ここが病因だろうか?
CBCT(2023.5.24)
根尖部に病変は見られない。
歯根の中央に病変が見られる。この場所を触れると痛みがあった。
ここに病気を引き起こす何か?が存在するのだろう。
さて、この歯の治療は再根管治療でマネージメントできるだろうか?といえば、無理である。
Apicoectomyではどうだろうか?
といえば、痛みがあるのは歯頸部付近の頬側歯肉だ。
この部分を明らかにするために歯槽骨を頬側から大幅に削ることは患者さんが望むだろうか?
そしてそこを削れば必ず病因が見つかるだろうか?
私にはそれを保証することはできない。
ということは?
そう。
Intentional Replantationで歯根の表面を観察するしかないだろう。
そこに何かがあるはずだから。
ということで、この日(2023.6.7)にIntentional Replantationへ移行した。
☆以下、外科動画が出てきます。気分を害する方は視聴をSkipしてください。
#13 Intentional Replantation(2023.6.7)
ラクセーターをかけて抜歯しようとすると…
ものの数十秒で前回建てた支台築造(Resin Core with Fiber Post)が破折した。
が、
下の研究(Vivo)でもあるように、レジンコアが破折しただけで歯牙そのものは問題がないことが多い。
歯牙の内部をよく観察する必要はあるが。
Suksaphar 2018 Survival Rates from Fracture of Endodontically Treated Premolars Restored with Full-coverage Crowns or Direct Resin Composite Restorations: A Retrospective Study
それよりもこの段階での1番の問題は
歯牙の抜歯ができない
という状態に追いやられたということである。
追い詰められた私はどうするか?と言えば、
Flapを開けると歯牙が現状よりも多く口腔内に出てくるのでその状態にしてからIntentional Replantationを行うと患者さんには告げた。
ここで急遽、緑のキシロカインを術野に注入し10分待機してFlapを開けた。
そこで増えた歯牙をラクセーターで脱臼し、鉗子をかけて抜歯するという作戦である。
案の定、歯牙は十分なフェルルを得られていたのでそこにダイヤモンド鉗子をかけて抜歯した。
そしてこの後、口腔外で側枝などがないか?確認する作業へ移行した。
そこにあったのは…
以下のような光景だ。。。
そう。
この患者さんの問題は
Vertical Root Fractureであった
のだ。
しかし、ここでのポイントは、
それを術前に以上の情報から予測できるか?
だ。
ちなみに、#13は術前には
歯内療法学的検査(2023.5.24)
#12 Cold+1/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#13 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(++), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#14 Cold+2/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
で、
歯周ポケットは正常であった。
と記録されている。
また、CBCTでは
CBCT(2023.5.24)
である。
この与えられた情報で、この歯にVertical Root Fractureがあると誰がわかるだろうか?
少なくとも私の今までの常識(こういう病変であれば、側枝が存在するかもしれないという術前予測)に冷や水を浴びせるケース
であった。
GBRして終了した。
さて。
ここから学べることは何があるだろうか?
といえば、
メタルポストを装着した補綴治療はしない方が無難である
という教訓である。
この患者さんを治療していて私が思い出したのは以前ご紹介した以下のケースだ。
#31にメタルポストコアを装着したらその歯が抜歯になってしまった。
理由はVRFである。
患者さんはRecallに来る度に、
”補綴医の言うことを聞かなきゃよかった!”
といつも言われる。
そして私が同時期に支台築造した#29,30のファイバーポストコア(直接法)がまだ持っているという。。。
この臨床的事実に歯科医師はなんと答えるだろうか?
私は、以下の論文の結果がやはり当たっているという臨床的実感を抱かざるを得ない。
Suksaphar 2018 Survival Rates from Fracture of Endodontically Treated Premolars Restored with Full-coverage Crowns or Direct Resin Composite Restorations: A Retrospective Study
ということで、
支台築造で使用する材料で生存率に変化が出てくる。これは大きく頭に入れた方がいい事象に違いない。
そうじゃない!と言っても、こうして臨床的結果が出てるのである。
あなたはそれでもメタルポストコアにこだわりますか?