紹介患者さんの経過観察。

Apicoectomyを行って1年が経過した。

当時の模様は以下の記事を参考にしていただきたい。

#8 Apicoectomyから半年経過症例〜歯槽骨は回復しているのか?

さあ、この時からこの患者さんはどうなっただろうか?

時系列で振り返ってみよう。


初診時・歯内療法学的検査(2022.5.12)

#7 Cold+2/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#8 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(+), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)

#9 Cold+3/3,Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#8にはSinus tractがある。

しかも患者さん曰く、

かなり前から

だそうだ。

もしPAで再根管治療が濃厚であっても…根尖孔外細菌感染が疑われる案件だ。

次にPAを撮影した。

PA(2022.5.12)

手用ファイルが根尖部で折れている。

非外科的歯内療法で除去できなくもないが、治癒に時間がかかってしまう。

そして最大の問題が既に根尖部が破壊されているという事実である。

MTAで根充すれば治癒するという問題ではない。

あなたがそんなことを思っているとしたら…あなたは何も考えていないということがわかってしまう。

ポイントは何なのか?大事なことがわかっていないと吐露しているようなものだ。

さておき、次にCTを分析した。

CBCT(2022.5.12)

根尖部に大きな骨欠損がある。

その欠損は口蓋にまで及んでいた。

口蓋側の歯槽骨まで吸収が及んでいる。

頬側には皮質骨が全くない。

第3者が見れば、抜歯を宣告されかねない。

非常に不安定な歯牙だ。

歯内療法学的診断(2022.5.12)

#8

Pulp Dx: Previously treated

Perapical Dx: Chronic apical abscess

Recommended Tx: Core build up with Fiber Post→Apicoectomy

推奨される治療は支台築造をやり直してのApicoectomyであった。


☆ここから臨床的な動画/画像が出てきます。不快感を感じる方は試聴をお控えください。


#8 Apicoectomy後 PA(2022.6.10)

近心に思いっきり穿孔してしまった。

理由は前の治療につられてGutta Perchaを除去していたら穴が空いていたのである。

もらい事故だが、こんな時こそMTA(Bioceramic)だ。

BC puttyで穿孔部を封鎖しファイバーポストを用いてレジンで支台築造しなおして、Apicoectomyを別日(2022.6.10)に行ったのである。

ここから半年が経過したのがこの日であった。

どれくらい治癒しているだろうか?それとも痛みに満ちているのだろうか?

#8 Apicoectomy後 6M Recall 歯内療法学的検査(2022.12.14)

#7 Cold+5/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#8 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(+), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#9 Cold+6/2,Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#8のSinus tractは外科後に消失したという。

その時期は覚えていないそうだ。

また#8は#7,9と比べると痛痒いような感じがするというが、痛い!までは至らないそうだ。

これはAAEの成功のクライテリアからすれば、”Healing”と言える。

次にCBCTを比較した。

#8 Apicoectomy後 6M CBCT(2022.12.14)

根尖部の歯槽骨はだいぶ回復している。

口蓋の骨の穿孔も消失してきたようだ。

次回はさらに半年後の来年6月に1yr recallを予定している。


#8 Apicoectomy 1yr Recall(2023.6.8)

まず臨床的検査を行う前に問診した。

なぜなら半年前には治療した#8には、

#7,9と比べると痛痒いような感じがするというが、痛い!までは至らない

というような微妙な症状?があったからである。

この日、症状の有無を聞くと、

全くなんともないです!痛痒い?ってなんですか?

患者さんには半年前の症状が消失していた。

#8 Apicoectomy 1yr recall 歯内療法学的検査(2023.6.8)

#7 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#8 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(+), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#9 Cold+5/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

いかなる臨床症状もなかった。

#8 PA(2023.6.8)

1年前に根尖部にあった根尖病変は消失していた。

はっ?

#8と#9の間に黒い影があるだろうが!

という指摘をしたあなた。

これは病気ですか?

これは、

Incisive Foramen

です。

解剖をもっと勉強しましょう。

CBCT(2023.6.8)

かつて根尖部に存在していた大きな病変は消失した。

かつては空洞であった根尖部に歯槽骨が再生した。

頬側には皮質骨が断続的に再生している。

こんなことは歯周病の治療では起きない。

そう。

歯内療法は歯槽骨の再生ができる唯一の歯科治療

である。

ということで、今までを比較してみよう。

#8 Apicoectomy 初診時 vs 半年経過時 vs 1年経過時(2023.6.8)

根尖部の大きな骨欠損は歯槽骨が再生した。

このように、

歯内療法は歯科医療の中で唯一、歯槽骨の再生が可能

である。

これで、いつでも最終補綴を装着していいだろう。

ちなみに検査の様子は以下の動画を参照されたい。

そして間違ってほしくないことは、このような症例を見せて

どうだ俺はすごいだろう。歯内療法はNo.1だ!

ということを誇示したいわけではないということだ。

私は、歯内療法した歯が一生持つとか思っていない。

いつかダメになる時が来るだろう。

その時、その後の処置(Implant? Bridge?)がしやすいように環境整備することが歯内療法の役目

だと思っている。

どうだ俺はすごいだろう!とか誇示したいわけではない。

この歯(#8)もいずれダメになる時が来るだろう。

その時に、歯槽骨を回復してあげることができていれば欠損修復がやりやすくなる。ImplantもFPDも問題なくできるのだ。

このように歯内療法は、最後まで他の分野の貢献を果たすことができる素晴らしい医療分野だ。

その点では、どの歯科医療分野にも負けていないだろう。

ということで、次回は1年後の2024.6である。

その際に、この患者さんの現状を再度、ご報告したい。