バイト先での治療。
主訴は
右上奥歯の痛み。疲れたときに特に歯が痛い…
であった。
歯内療法学的検査(2023.8.22)
#2 Cold+10/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#3 Cold NR/20, Perc.(++), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#4 Cold NR/20, Perc.(+), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
主訴は再現できている。
適切な治療が問題を解決する可能性は高い。
PA(2023.8.22)
#3,4の根尖部には病変がある。
しかも、#3のMB, DBは石灰化、#4の根尖部は過剰な根管形成がすでになされている。
つまり…
外科治療でのみ主訴が改善できる可能性が高い。
CBCTで詳細を見てみよう。
CBCT(2023.8.22)
#3
MBとDBのApexはほぼくっついている。
MB
MB根の周囲には歯槽骨の穿孔がある。
これは治療を行う上で非常にラッキーな兆候だ。
ここを歯根軸方向に削れば歯根に触れることができるからだ。
つまり肝は、MBの皮質骨の穿孔部を探せ
ということになる。
詳細を分析すると以下になる。
ApexはCEJから15mmの位置にありそうだ。
そして、Apexから3mm切断すると、
頬舌的に4.7mm切断すればいい。
リンデマンバーの4.7/11=40%だ。
これはEasyなケースだと言える。
また、DBはMBとほぼ隣り合わせだ。
ということは、
MBを切断すればDBも切断できるという特典?がこのケースにはついている可能性が高い
DBを見てみよう。
DB
頬側の皮質骨が厚い…と頭を抱えているあなたはまだ歯内療法外科がわかっていない。
もう一度、MBとDBの位置関係を見てみよう。
つまり、Apexから3mmで切ると以下のようになる。
このApexまでの歯根の長さ(13mm)と頬側の皮質骨の厚み(2.6mm)に辟易するが、
3mmで切断すると
頬舌的に3.6mm切断するだけでいい上にApex-3mmの部分がMBと隣接している。
このことは、
MBのApexさえ見つければ、
もっと言えば、
MBを切断すれば自動的にDBも切断できる
ことを示している。
つまり、
頬側の皮質骨は厚いが、ケースとしては実にEasyであるということだ。
#4
Apexに病変がある。
分析すると以下である。
CEJから10mmにApexがある。
そこを3mm掘ると#4のApexが顔をだす。
そして3mm切断すると、
6.5mmの頬舌的幅径を切断しなければならない。
正直、#4の方が#3よりも難しい気がするのは私だけだろうか?
そして、最初に言えばこの日は非常に忙しく私は準備不足であった。
したがって、歯科衛生士が情報をユニット横に張ってくれたものの詳細を精査する時間がなかったし、絵もバラバラで統一性がないものであった。
これが後の悲劇?を産むことになる。
歯内療法学的診断(2022.8.22)
#3
Pulp Dx: Previously initiated therapy
Periapical Dx:Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Apicoectomy
#4
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Apicoectomy
ということで両方とも同日に外科治療へ移行した。
が、この後、私は治療中に、思わぬ?トラブル??に巻き込まれる。
それは一体なんだっただろうか???
そしてそれを防止するには何が必要だろうか????
それを今日は論じてみたい。
外科治療へ悩む人には福音?になる記事かもしれない。
☆この後、外科動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。
#3,4 Apicoectomy(2023.8.22)
まずeasyな#3からスタートした。
複数歯のApicoectomyを同時に行う場合は簡単な歯からどんどん終わらせて言った方がいい。
時間を節約しないと、アドレナリンで止めていた出血がスタートするからだ。
この辺りの話はAdvanced Courseでお話しします。
切断後にメチレンブルーで染色した。
このブルーに染まる部分を形成して、Lid techniqueで逆根管充填していく。
次に#4である。
ここは歯槽骨が厚い。
当該部位を削除するが…
何と…Apexが出てこない。。。
Apexはどこへ行ってしまったのだろうか?
Apicoectomyに興味がある人全てに私がメッセージを送るとすれば、
CBCTと口腔内に間違いが出た場合は、必ずCBCTに戻ろう。
術前では以下のように見えていた。
が…これでは詳細は掴めない。
この準備不足が今回のApexが探せない?原因である。
この絵は、正確には以下のように回転させて実際の口腔内と同じ状況にして、ユニット横に貼るべきであった。
上記の絵に注目してほしい。
コアの軸と、歯根軸が平行だろうか?
全く平行ではない。
コア軸の先にApexはないのである。それよりももっと近心にApexはある。
これが私が惑わされた最大の理由である。
もっと言い直せば、
今後は、コア軸と歯根軸の平行性を評価した絵がユニット横に必要である
ということがわかる。
以上を頭に入れて、当該部位よりも近心の歯槽骨を削除した。
すると…
CBCT通り、Apexが顔を出した。
#4の歯根の色と相似である。
ということでApex部分を剖出した。
このようにいつも剖出するのが
理想
である。
理想という言葉の意味は
いつも常にそうしなければならない!ということではない。
そういう形状に持って行った方が確実にApicoectomyできるという意味だ。
状況によっては、解剖学的な制限でそれができないこともあるからだ。
いずれにしてもこの状況でApexから3mmで切断してメチレンブルーで染色した。
途中、切断した!と思ったにも関わらず顎が残存していることに気づいただろうか?
なぜこのようなことになるか?といえば、
この歯科医院には外科ペンがないから
である。
外科ペンはその意味でもApicoectomyに必須の道具なのかもしれない。
その後、逆根管形成して逆根管充填した。
術後にPAを撮影した。
#3はRerofillが浅いがそれは仕方がないだろう。
新品の超音波チップがなかったことが原因だ。
新品の超音波チップはこういう理由でApicoectomyで絶対に必要だ。
外科治療が早くなるし、サクサク進んでいく。
唯一の欠点は、間違った軸に形成してしまうと元に戻らないという欠点のみだ。
が、それがないとこのように治療に時間が異常にかかることになる。
つまり、
さっさとApicoectomyを終わらせたい人は常に新品の超音波チップを準備した方がいいということがわかる。
時間がかかってもいい人はその限りではない。
縫合して終了した。
さて。
この症例から学べることとしては、
術前にコア軸と歯根軸の平行性の評価が必要
という事実である。
これは補綴が装着されている歯には必須と言える。
私のような、“迷子”にならないようにするためにはそのような事前努力が必要だろう。
そして、
忙しいから本当は準備したかったけど…できなかったという言い訳は一切、通用しないということである。
それなら、
忙しくしなくてもいいように予約をコントロールすべきであるし、患者にとってはあなたが忙しかろうがそうじゃなかろうがあなたを信頼して治療を受けているのだから、それは無責任な言い訳に過ぎないのだから。
それを学ばせてもらった、勉強になった症例であった。
次回は6ヶ月後である。
また治療結果を皆さんに報告したい。