紹介患者さんの治療と経過観察。
主訴は、
他院で右下抜髄と言われたが、本当なのか?
である。
今日のケースは昨年の東京のセミナーで公開したものだ。
話を元にもどうそう。
なぜこういう主訴か?といえば、
患者さんにはいかなる臨床症状もないからだ。
しかも、不妊治療でできた子供を持つ妊婦である。
歯科治療に神経質になっている。
それがどうしても必要な治療ならするが、
痛くもないのになぜ神経をとらないといけないのだ?
という疑問があるのである。
しかもそれが1回で終わるだろうか?
さあ、あなたはこの問いに何と答えるだろうか?
歯内療法学的検査・PA(2017.9.15)
ちなみにこの時代はCBCTがないので、CTは撮影していない。
が、PAで歯髄に迫る大きなう蝕があるのがわかる。
が、臨床症状がない。
ここで考え方は2つに分かれる。
1つは、症状がないので歯髄を保護する治療を成人でも行う、生活歯髄療法だ。
もう一つは、症状はないが、すでに炎症が歯髄に及んでいる、いわゆるAsymptomatic irreversibel pulpitisだということで根管治療を行う方法だ。
それぞれの利点・欠点を列挙する。
生活歯髄療法
利点
・歯髄を残せる
・歯の生活感覚を保持できる
欠点
・失敗する可能性がある
・失敗した場合、根管の石灰化が起きる可能性があり、その場合は外科治療一択になる
根管治療
利点
・成功率が高い(93%)
・臼歯部であればクラウン修復を行えば、生存率も高い(97%)が、レジンで充填もしくはInlayでも生存率は高いという研究もある
欠点
・治療の失敗(7%)によって外科治療へ移行
さて。
あなたはどちらが希望だろうか?
歯髄保存か、抜髄か?
それぞれの特徴を考慮して、治療は決まる。
それを決めるのは誰だろうか?
それは、
臨床家ではなく、患者さんあなた自身なのです。
上記のPros and Consを患者さんに提示し、患者さんは症状がないので、生活歯髄療法を希望された。
ということで、診断は自動的に以下になる。
歯内療法学的診断(2017.9.15)
Pulp Dx: Normal Pulp Tissues
Periapical Dx: Normal apical tissues
Recommended Tx: VPT
治療方法はVPTである。
では…どのようなVPTをあなたは行うだろうか?
VPTの治療内容は以下である。
VPT
・Indirect Pulp Capping
・Direct Pulp Capping
・Full Pulpotomy
Partial Pulpotomyもあるだろう!という意見はわかるが、この状況でそうやってPartial Pulpotomyをするの?という話である。
できないだろう。
外傷ではないからだ。
ということで、上記の3つの治療のうちあなたは何を選ぶだろうか?
それぞれの成功率を比較した。
さて。
ここからわかることは何だろうか?
そう。
成人の歯髄は、
取らない(Indirect Pulp Capping)
か
取るか(Full Pulpotomy)
の二択しかないのだ。
そして、
取らない場合も
取る場合も
リスクがある
ということを忘れてはいけない。
No Riskの歯科治療はないのである。
このあたりの詳しい話は、Basic Course 2023でお話しします。
話を戻そう。
以上を患者さんに告げると、患者さんには臨床症状がゼロなので、Indirect Pulp Cappingを希望された。
ということで、同日治療した。
#29 Indirect Pulp Capping(2017.9.15)
う蝕を残して充填している。
はっ?虫歯を残してバカじゃないかって?
じゃあ、
あなたは虫歯を100%取り切れますか?取り切れるなら、メールをください。患者をすべてあなたに送りましょう。
ということで、この翌年に経過観察の予定であったが、私が脳出血で倒れて経過が見れなかった。
復帰してから連絡すると、経過を見せてくれた。
実に、6年ぶりの経過観察である。
さあ、あの歯はどうなっているだろうか?
#29 Indirect Pulp Capping 6yr recall(2023.4.19)
⭐︎この後、検査動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。
全ての検査で陰性であった。
しかも、6年前のままである。
レジン充填なのに、だ。
誰だろうか?補綴治療が望ましいという研究をしたのは。
そうしなくてもきちんと残存している。
PA(2023.4.19)
CBCT(2023.4.19)
石灰化は若干、進んでいるが問題はない。
患者さんは、
根管治療しなくてよかった!
と大喜びだった。
このように、
歯科医療は患者さんに寄り添わなければならないと私は思う。
やりました、ダメでした、理由は分かりません…
では誰があなたを信頼しようか?
歯科医師が世の中から尊敬されない理由がまさにここにあるのだ。
あなたは…
信頼できる臨床家になってください。
そういう人が、これからの歯科界を背負うでしょう。
背負うという意味は、世間に名が出ることではないのです。
その地域の歯科医療を支える人になってくださいという意味ですのでお間違えなく。