Apical patencyとは#6~#10のK FileでApical Foramenの穿通性を確保する行為をいう。
#6~#10の小さなサイズのK Fileを根尖孔から穿通性の確保のために意図的に出す行為である。
全米の大学院の約50%の大学院で教えられる。(Cailleteau JG, Mullany TP. 1997)
USCでは根管治療においてそれが生活歯髄だろうが失活歯髄だろうが、必須の行為として認識されている。
しかし私は当初この医療行為に関しては懐疑的であった。
なんせ小さなファイルといえども根尖孔から出すのである。
そんなことが許されるのか?と思ってきた。
そこで以下の項目に関して論文を分析してみた。
①Patency file vs Apical Transportation
②Patency Fileと根尖部1/3に対する洗浄液の到達性
③Patency FileがVital Tissue casesに与える影響
④Patency FileがNecrosis tissue casesの細菌に与える洗浄効果
⑤Patency fileと根尖部からの薬液の溢出、根尖口外細菌感染の影響
⑥Patency Fileと根尖部を介しての術後疼痛&フレアアップに対する影響
⑦Patency fileと根尖性歯周炎の治癒・予後
⑧まとめ
①Patency file vs Apical Transportation
Patency fileができても根尖部が壊れてしまえば根管治療の意味はなくなる。
治療により良好な状態を築けないのであれば何のための処置かという話になる。
つまりPatency fileしたら根管口は壊れる(Apical Transportation)のだろうか?
Sanchez 2008によれば、#8で91.2%のApical Foramenが、#10に至っては88.2%のApical Foramenが変異しないという。つまり元の形態を維持できるわけだ。
であれば、根尖孔はほぼ壊れることはないと言っていいだろう。
しかしながら、#15のサイズとほぼ同じ大きさであるXF finger spreaderでPatency Fileを行うと根尖孔はおよそ56%が壊れることが指摘されている。
ということで私であれば、Patency Fileを行うのであれば#8か#10のK Fileを用いる。
(#6で行うとどうなるかは実験がないためわからない。)
②Patency Fileと根尖部1/3に対する洗浄液の到達性
次にVeraら2012は、ヒトの口腔内の上下前歯を#40.06まで拡大し、Patnexy Fileの有無で造営性を持たせたヒポクロが根尖部に到達したか否かを調べた。
Patency Fileを行うと根尖部にヒポクロがよく到達することがわかったのである。
しかしこれは上下の前歯だ。大臼歯ならどうなるだろう。
そこで今度はVera 2011が大臼歯で実際の根管治療で行ってみた。
超音波で洗浄し#10K file で1 mm patency fileをするとしないよりも多くの根管で洗浄液を根尖部に到達させることができる。
またVera 2012によればPatency Fileをするとしないよりも根尖部に存在する気泡を15%も多く消すことができるという。
以上を考慮するとレントゲン的に綺麗な根管充填をしようと思えば、Patency Fileをしたほうがしないよりもいいということがわかる。
③Patency FileがVital Tissue casesに与える影響
Tronstad 1985はサルの前歯45本を抜髄した。
IBF+3 size largerまでStep backで根管形成し根充95日後に屠殺・組織切片採取
Group A : Dentin plugそのまま
Group B:Patency fileしてDentin plug除去
Dentin plugの有無が根尖部歯周組織に与える影響を組織学的に調査した。
結果はPatency Fileをすると根尖部に炎症を引き起こすことになってしまった。
つまり生活歯髄の治療ではPatency Fileを行わないほうがいいのかもしれない。
④Patency FileがNecrosis tissue casesの細菌に与える洗浄効果
Vera, Siqueria, Ricucciらは壊死歯髄にPatnecy Fileが与える影響を見るために以下のような研究を行った。
MBをLight Speedで#60まで形成。MLをProTaperで#25まで形成した。5% NaOClで洗浄し Patency files を両方とも行う。 EDTAでスメア層を除去しS2% CHXで最終洗浄後に2つのグループに分けてどちらが細菌を多く除去できたか?調査した。
メインの根管に存在する細菌を多く除去するには、Patency Fileを行うよりも水酸化カルシウムを貼薬したほうがいいとわかった。
ではイスムスや根尖部分岐に存在する細菌はどうだろうか?
Patency Fileではメインの根管もこうした隠れた部位に存在する細菌も大幅に減らなかった。
細菌自体を減らそうと思えば、Patency Fileを行うよりも貼薬したほうがいいとわかる。
(しかし貼薬すれば必ず根管治療が成功するとは言っていない)
⑤Patency fileと根尖部からの薬液の溢出の影響
抜去歯牙を細菌感染させてPatency Fileを行った。Group1は根管に次亜塩素酸ナトリウムを満たし細菌感染したファイルで、Group2もGroup1と同じく根管に次亜塩素酸ナトリウムを満たし細菌感染したもののヒポクロで消毒したファイルで、Negative Controlは滅菌したファイルで、Positive Controlは細菌感染させたファイルでヒポクロで根管を洗浄せずにそれぞれPatency Fileを行った。
この時根尖部に細菌が漏れるがそれを培地をおいて細菌が培養できるか?チェックした。
すると根管にヒポクロを満たした状態でPatency Fileを行ったものに関しては細菌が培養できなかった。このことからPatency Fileを行っても細菌が根尖部に溢出し細菌感染が生じる可能性は極めて低いことがわかった。
ではあとは事故を起こすことがないのか?である。
⑥Patency Fileと根尖部を介しての術後疼痛&フレアアップに対する影響
Aronaらは2016年に以下のような調査を行った。
Clinically Randomized controlled trial study.
Patency fileの有無による下顎大臼歯壊死歯髄with PARLにおける術後疼痛・フレアアップの発生の有無・程度・期間を調査。
治療は経験豊富な1人のEndodontistによる。
術式:WL=Apex-1mm. ProtaperでF4まで拡大 w/wo patency file.
3%NaOClで洗浄し貼薬. 根充前に痛みの程度を聞き取り調査した。
すると結果的にPatency Fileをしてもしなくても痛みは出たが有意差はなかった。
また痛みが出たとしてもその痛みは痛み止めを飲むほどでもないものであり(Mild Pain)、Patency Fileをしたからと言って痛みが増強するわけではなかった。
⑦Patency fileと根尖性歯周炎の治癒・予後
臨床でPatency Fileが根尖性歯周炎の予防に効果があるか?調べたものは私が知る限り1つしか研究がない。
Ngの2011のProspective Studyだ。
しかし残念ながらここでは全てのCaseについてPatency Fileを行っている。行ったものと行っていないものでの比較がないのだ。
そしてこの研究以外に適したPatency Fileの効果をみた研究を私は知らない。
ということで以上をまとめと以下のようになると考えられる。
⑧まとめ
- 小さなサイズのファイル(#8~#10)でPatencyfileを行えば、 臨床的に問題が生じるほどのApical TerminusのTransportationは起きないと思われる
- Patency fileを行えば、洗浄液が根尖部によく到達する
- しかしながら、生活歯髄においてはPatency file使用の意義は組織学的にはないように思われる。
- 失活歯・根尖病変があるケースにおいては、組織学的にはPatency fileが側枝や根尖孔の清掃に寄与しているかどうかは分からないし、こうした解剖学的に清掃が難しい部位に歯髄の残渣やバイオフィルムは残ったままである
- Patency fileを行えば、洗浄液が根尖部から溢出する可能性があるが、それにより根尖部の細菌感染、術後疼痛、フレアアップが起きる可能性は低いと考えられる。
- Patency fileを行い、尖通性を確保することが根尖性歯周炎を治癒させる鍵になるが、Patency fileの有無でどれほど根尖性歯周炎の治癒に影響が及ぶか?比較したクリニカルスタディは未だない(Patency file以外の要素が成功率を押し上げた可能性がある。)
自分でまとめていて何だこりゃと思うようなマニアックな話だ。
エンドが好きな人には興味があるテーマかもしれない。
しかし興味がない人にとっては何だこりゃという話だろう。
歯科治療、歯科医療行為というのは得てしてそういうものなのだ。
誰も死なない、誰も生きててよかった!とは思えない。
我々の仕事は何のためにあるんだろうか。。。
これに答えを出してくれる人に私はまだ出会えていない。