バイト先での治療。

患者さんは40代男性。

左下6の冷水痛が主訴であった。

全身的な病気などは本人曰く、ない。

血圧も正常で、ASA1である。

歯内療法学的検査を行なった。

#18 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#19 Cold++1/12, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#20 Cold+10/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

PAは以下になる。

遠心側の髄角にかなり接近した修復物(充填物)が装着されている。

修復治療もラバーダムは使用していないので接着が剥がれている。

日本の修復治療の縮図を見るかのようである。

そして、周囲の歯にもカリエスなどが見られる。(特に#18)

#20は他院で修復治療を終えているとのこと。(アンレーであった)

ということで、歯内療法学的診断は以下になった。

Pulp Dx: Symptomatic apical periodontitis

Periapical Dx: Normal apical tissues

Recommended Tx: RCT+Core build up

ということで歯内療法処置を行うことになった。

さて、このような状態の時あなたはどのようにして麻酔を行うだろうか?

いわゆる、急性の歯髄炎に対する麻酔の方法である。

通常の浸潤麻酔だろうか?

それともよく効く麻酔?を使用するのか?

と言えば、アメリカでは100%下顎孔伝達麻酔である。

それ以外の選択肢はない。

私はしかしながら日本で伝達麻酔をしたこともなかった。

学生時代に相互実習で?お互いなんちゃってで伝達麻酔を打ちあい、痛え!と言われてからトラウマとなった。

そんな私が伝達麻酔をすることになったのはUSCのクリニックでだ。

相手は5歳の女児で歯内療法が必要な永久歯があった。

しかし伝達麻酔をしたことがなかった私は、当時のファカルティ(南アフリカ出身の中国系の女性の歯科医師)に、

子供に伝達麻酔は打てるのか?

と質問してしまった。

彼女の答えは明確で、

はっ?

伝達麻酔を子供にしたことないの?

でも伝達麻酔しないでどうやって歯科治療するの?

と驚かれた。

そうだなぁ…私は他の大学院生も教えないといけないので、あそこにいる女性の歯科衛生士に教えてもらいなさい、と言われた。

これが私の人生での初めての子供に対する伝達麻酔であった。

この日系人の歯科衛生士に、

何ゲージの針で、どういう角度で、口腔内のどこに注射筒を置いて、そしてどれくらい針を入れるか?、針の高さは?、針の深さは?など基本からあらゆる事項を教わった。

これがアメリカである。

日本では歯科衛生士は麻酔を打つことは許されていない。

しかし、アメリカでは許可されている。

以下に、有名な動画をつけておこう。

Hygine Edgeが投稿しているYoutubeである。麻酔関係では一番使えると思う。

しかし一番使える動画が歯科衛生士が運営するページとは…


Inferior Alveolar Nerve Block

IA with a short needle

Common Errors on the IA injection

Gow-Gates injection

Vazirani-Akinosi(これはHygiene Edgeではない。)

Long Buccal

Posterior Superior Alveolar Nerve Block

PSA Injection (PART 2)

Right PSA (Part 3)

Common Errors on the PSA Injection

MSA injection

Infraorbital Nerve Blocks(これもHygiene Edgeではない)


ということでご覧いただいただろうか?

もはや、日本とアメリカの歯科衛生士の技術力、知識力の差は絶対に埋まらない。

歯科医師以上の差がついている。

日本の歯科衛生士は患者に対しての癒しとか、接遇とかばかりに?目を取られていて自分たちの本分を理解していない。

そして決定的に使えない。

しかしアメリカは違う。

歯科衛生士は自分で麻酔し、自分でSRPする。

これが日本とアメリカの歯科衛生士の待遇の差、その職業に対する人気の差になっている。

かたやプロフェッショナル、かたや2軍選手以下だ。

ということで、話がかなり逸れたがこのSymptomatic Irreversible Pulpitisの患者に対して以下のような戦略を立てた。

  1. IANB+Long Buccalする
  2. 10分後、Cold testする。
  3. 反応がなければそのまま根管治療。あれば、歯根膜麻酔を2度まで繰り返す
  4. 以上が効かなければ、歯槽骨麻酔する

ということで、戦略を立てて実際の治療になったがIANB+Long Buccalのみで麻酔は奏功した。

Chamber openし、作業長などを測定した。

以下が作業長などである。

Ni-Ti FileはColtenのHyFlex EDMを使用している。

シーラーはヨシダのバイオCシーラーである。

ここから治療後、半年が経過した。(2021.4.9)

#18が不適合のままで半年が経過している。

抜髄したはずの#19にCold testをすると、Cold testが終わって数秒後にしみる感じがあるそうだ。

私は真っ先に#18の不適合修復物を疑った。

このままでは物が挟まる一方だろう。

しかし患者さんはその部位も含めて、自費で修復治療を希望している。

一刻も早くこの不適合修復物を外し、きちんとした修復治療を行なってもう一度#19のプロビジョナルレストレーションを作成し直すべきだろう。

今のままでは、#18の不適合修復物によるFood impactionでしみるのか?はたまた#19に問題があるのか?見分けがつかず、先が見えない。

ということで、次回は1年後の今年の10月に再度経過観察を行う予定である。

その際は、しみるという主訴が解消されていることを祈っている。