紹介患者さんの治療と経過観察。

主訴は、

右上の奥歯が痛くて硬いものが噛めない。元のように噛みたい…

であった。

歯内療法学的検査(2022.11.25)

#2 Cold N/A, Perc.(++), Palp.(-), BT(++), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#3 Cold+3/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

主訴が再現できた。

患歯は#2だ。

PA(2022.11.25)

根尖部に大きな病変がある。

ここが患歯であろうことは容易に想像がつく。

CTも撮影した。

CBCT(2022.11.25)

上顎の小臼歯のような第2大臼歯だ。

2根管である。

頬側は、

口蓋側は、

ということで、

– 根尖病変があり抜歯がしやすい、

– 上顎小臼歯のような歯根形態である、

– 隣在歯(#3)は生活歯でペリオの問題もないのでテコの原理で#2の脱臼が容易に可能、

ということから、

Intentional Replantationに支障はない

と思われる。

患者さんが治療に同意したため、治療へ移行した。

築造をレジンでやり直して、その日に再植することになった。


⭐︎この後、外科動画が出てきます。不快に感じる方は視聴をSkipしてください。


#2 Intentional Replantation(2022.11.25)

除冠し、メタルコアを除去した。

除去する準備をすれば、ものの数十秒で除去可能である。

その事実は下の動画が示しているだろう。

結局、メタルコアの除去で最も重要なのは、VPチップ(超音波)を当てる前の下準備と言っていいだろう。

このケースではVPチップを当てずとも…という感じであったが。

その後、レジンで支台築造しIntentional Replantationの準備が完了した。

#3を梃子にし、#2を脱臼させている。

これだけ病変があってもなかなか抜けないことから、この治療の難しさを物語っている。

もしこの歯が歯質がなければ…

この治療自体が成り立たないだろう。

Intentional Replantationは歯冠部歯質が十二分になければ、脱臼時にレジンが脱離してしまうので適応症にならない

という法則がここでも生きている。

抜歯すれば、抜歯窩のCheckだ。

落とし物はなかったことがわかるだろう。

次にIntentional Replantationを行なっていく。

Apexから3mmを切断して、メチレンブルーで染めていく。

最後にB,P間にイスムスが見えたのがわかるだろうか?

この後、逆根管形成を行った。

まず、主根管であるB,Pから形成していく。

その後、イスムスを形成していく。

最後に窩洞内を乾燥し、逆根管充填した。

PAを撮影して確認した。

問題はないだろう。

抜歯窩を洗浄して、再植した。

最後にPAを撮影した。

さてここから1年が経過した。

この歯牙はどうなっただろうか?

⭐︎この後、検査動画が出てきます。不快に感じる方は視聴をSkipしてください。


#2 Intentional Replantation 1yr recall(2024.3.1)

最終補綴が既に装着されていた。

やや違和感はあるものの、基本的には問題ないという。

AAEのHealing②に該当している。

根尖病変は消失した。

治療前後の比較を行った。

術前(2022.11.25)vs 1yr recall(2024.3.1)

Intentional Replantationにより、劇的に状況が改善したことがわかる。

この状態でもし歯が折れて抜歯になっても、Implantは容易だろう。

このように歯内療法は、Implantへの橋渡し治療としての役割も果たすことができる。

が、先発は務めることはできないし、ストッパーにもなれない。

先発は、1日2回歯磨きすることと予防に熱心な歯科医院に通うことだろうし、ストッパーはインプラントだろう。

歯内療法はあくまでも中継ぎ

です。

さて。

この患者さんは#15にも同じ問題があった。

そこは、以下のようになった。

#15 Intentional Replantation(2024.3.8)

術前PA(2024.3.8)

根尖部に大きな病変がある。

そして、根管の入り口を大きく削合している。

2枚目は偏遠心撮影なので、左側に見える根管口部(頬側根管)は大きく拡大形成しすぎである。

これでは…

歯牙が破折してしまう可能性がある。

が、PAでは詳細はわからない。

CTも撮影した。

術前CBCT(2024.3.8)

B

P

B根の根管の入り口を太く削合している。

こういう形成は…VRFを招く可能性が高い。

なので、SXレベルでストップさせないといけないのだが…

術前診断(2024.3.8)

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Core build up→Intentional Replantation

ということで、#15は非常勤の野間先生の治療になった。

#15 Intentional Replantation(2024.3.8)

野間先生は、7分で抜歯している。

なぜか?

脱臼したからだ。

脱臼せずにIntentional Replantationを行うことは不可能である。

抜歯後にApicoectomyを行い、歯牙を精査した。

この動画の最後にあなたは何を見ましたか?

歯根の表面にあなたは何を見ましたか?

これは何ですか?

そう。これはVertical Root Fractureの可能性が高い。

が、勝負はわからない。

私の指示で、野間先生にもう少しこの頬側歯根の切断面を削合してもらい、メチレンブルーで再度染色してもらった。

すると…

VRFはB側歯根の歯冠部方向に進展していた。

ということでこの歯は抜歯してGBRである。

ということで、右側はうまくいったが、左上は破折していた。

左右の差を見た時に何がわかるだろうか?

臨床上のヒントがあるはずだ。

#2 PA

#15 PA

PAだけ見ても、#15の根管口部の拡大が左右で全く違うことに気づいただろうか?

が、これは所詮PAだ。

PAでは判然としない。

CBCTで比較してみよう。

#2 CBCT

#15 CBCT

さて左右のCBCTを見るとはっきりとわかるが、

左右で根管口部の拡大形成量が違う

という事実だ。

しかも、#2にはメタルポストコアが装着されていたにもかかわらず、だ。

このことが何かの臨床のヒントになる可能性が高い。

根管口部をピーソーやゲイツなどのドリルで削ることが、歯牙の寿命を縮めさせる可能性があることはこの症例を見ても否めないだろう。

#15はかかりつけ医で処置してもらうことになった。

そして私はこの手の話になると、大学院時代に指導された出来事をいつも思い出す。

あれは大学院の時、再根管治療でMB1とMB2のイスムスを削合していた時だ。

Dr.Zweigに注意されたことを。

彼には、上顎6の口蓋根のパラタルフラップ(Apicoectomy)、子供のApexification 1回法などハードなケースをよく手伝ってもらっていた。

Dr. Zweig:『お前、何でMB1とMB2を繋げているんだ?』

私:いや…この2根管は合流しているんで、削合すればそこの細菌が取れるじゃないですか。

Dr.Zweig:『そこを削って細菌を取れたとして、それが歯内療法の予後にどれほど貢献するのか?俺は知らないし、そこを削合するということは歯質が脆弱になって破折しやすくなる。除菌を取るか?歯質の保存をとるか?の二択だが、歯が折れてしまえば除菌なんてその時点で無意味だろ。そういうことはやめろ』

ごもっともで反論のしようがなかった。

私はそれ以来、この根管を大きく削るとか繋げるとか一切していない。

無意味だからだ。

ということで、次回は1年後である。

またその模様をお伝えしたい。

さて今日からGWに入るので当歯科医院のBlogも暫く、お休みします。

次回は休み明けにまたお会いしましょう。