バイト先での治療。

患者は30代女性。

主訴は左下犬歯の痛み。また歯茎が腫れたとも。

術前の検査は以下のようになった。(2021.3.15)

#21 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#22 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(頬舌ともに+), BT(-), Perio probe(舌側中央のみ8mm。その他は3mm以下。), Mobility(WNL), Sinus tract(+)

#23 Cold+4/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

PAは以下のようになる。

なお、#21は私が倒れる前に再植を行なっている。

歯内療法学的診断は以下のようになる。

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Re-RCTまたはIntentional Replantation

Vertical root fractureの可能性を患者さんには伝えた。

クラックラインをQ-Opticsを用いて探索したがクラックラインなどは発見できなかった。

そこでまずは再根管治療を行い、破折が発見され次第その部分を意図的再植で修復する治療になることを告げて再根管治療を行うことになった。

Re-RCT開始(2021.3.19)

Gutta Perchaを除去し作業長を測定した。

作業長は24mmあったが…根充直前で垂直性の歯根破折線を発見してしまった。

下のPAのCa(OH)₂が入っている部分まで破折線は確認できた。

さて。破折があった時にどうするか?だが私がUSCで唯一教わった論文は大阪大学の論文であった。

Hayashi 2002

破折した歯を抜歯し、Super bondでくっつけて抜歯窩に戻している。

1年後の予後は83%で2年後の予後が36.3%であった。

ここから何が言えるか?といえば、破折した歯の予後は極めて悪いということである。

なので破折した歯をなんとか保存しようという文化はアメリカには存在しない。

そう疑われた時点で抜歯を推奨する。

しかし、日本人は大概残したいと訴えることが多い。

しかもこの論文はスーパーボンドである。

スーパーボンドは日本人は大好きだがアメリカの歯内療法科でそれを用いて治療している集団を私は知らない。

これがスーパーボンドではなくて、GICのような役割を果たしているBiodentineであればどうなるか?に関しては何と論文がないのである。

ここが破折の治療で難しい部分である。

以前からBiodentineを用いて治療していたが、頭をやって倒れてデータを持って行かれてしまったためあの過去が今どうなっているか?については全くわからない。

というチャレンジング的な治療であるにも関わらず、患者さんはこの治療方針を受け入れて実際の治療となった。

“仮の根管充填を行い、支台築造しFiber postを根管にいれてレジンで築造し、その後意図的再植を行い破折線を削合し、同部をBiodentineで埋める治療を行う”

ことに患者さんが同意したため日を改めて外科治療を行うことにした。

外科治療は別日で行われた。(2021.4.16)

まず局所麻酔をし、ラバーダムを装着し、支台築造を行なった。

その後、歯根膜をなるべく傷つけないように丁寧に脱臼させて、抜歯した。

メチレンブルーで染色させた。

すると破折線が確認できた。舌側の歯頚部から根尖へクラックラインが入っていたのである。

肉芽を取り除いてみると根尖方向に進捗していることがわかった。

これが深い歯周ポケットの原因だったのだ。

頬側はどうだろうか?

頬側にはクラックラインは確認できなかった。

ということでここからの勝負はこの舌側の破折線がどこまで及んでいるか?である。

まずApicoectomyを行なった。

そして破折線をマイクロスコープで確認しながらMIバーで除去して行くと下図のような状態になった。

舌側はApicoectomyした部分まで破折線が連なっていたがその深さは根尖部分は浅かった。

根尖より上の部分には深いクラックが存在していた。

ギリギリ根尖部までクラックが及んでいなかった。

ということで、ここでGutta Perchaを全て除去し、クラックが入った部分にBiodentineを、Apicoectomyした部分にBC puttyを逆根充した。

PAを撮影した。

そして抜歯窩に戻した。

固定などは一切おこなっていない。

PAを撮影した。

さてこれから何ヶ月経過を見るのか?といえば、論文では2ヶ月が最適期間と言われている。

が、1ヶ月後に経過を聞いた。(2021.5.20)

“痛みは全くない。生活にも困っていない。歯はくっついた感じがした。”

確かにこの時、既に舌側のSinus tractは消失し、動揺度も正常であった。

しかし1ヶ月しか経過していないのでPAは撮影していない。

そして2ヶ月が経過した。この日、私は経過を見ることができたのである。(2021.6.29)

歯根を切除して空洞ができていた部分の歯槽骨は戻ってきている。

痛みも全くない。舌側のSinus tractも消失していた。

#22に歯内療法学的検査を再度行なった。

#22: Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio pocket(WNL), Mobility(WNL)

歯周ポケット計測の模様は以下のようになる。

舌側中央の歯周ポケットが8mm➡︎2~3mmになっていた。

これから時間が経てばさらに成熟するかもしれないし、管理できなければ深くなるかもしれない。

このように破折があってもBiodentineを使用すれば残存させることができる患者さんを私は何人も見てきた。

もちろんうまく行かなかった人もいる。

しかし、このようにうまく行く人もいるのだ。

患者さんにはブログに掲載していいか?確認をとって了承を得ている。

破折したら抜歯だ!というAAEの治療方針は本当に正しいのだろうか?

次回は11月初旬に経過観察で来院される。

その際にまた経過をご報告したい。