50代後半女性。

2017.12.30という年の瀬に来院された。

主訴は以下になる。

”右上の2,3番の歯茎がよく化膿する。今年(2017年)の5月あたりから治療しているが繰り返して治ったかなと思うとまた化膿して非常に心配である。

何度か右目の周りまで晴れて原因が分からないので紹介していただきました。今は抗生物質を飲んでいます。”

この患者さんを紹介した先生からは、

”#7 根管治療前に歯肉の腫脹、また治療中も歯肉の腫脹があり、現在抗生物質を服薬中。のちの治療をよろしくお願いいたします。”

とあった。

7ヶ月の根管治療である。

歯内療法学的検査は以下になる。

全ての歯の神経をとって補綴にしているということであったので、Cold testは行っていない。

#6 Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#7 Perc.(++), Palp.(++), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(+1)

#8 Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#10 Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

#11 Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)

PAは以下になる。

CBCTもいただいた。

#7

口蓋側に歯を支えるべき歯槽骨が存在していない。

大きな空洞が形成されている。

破折か?

と言えば、側切歯の特徴を覚えているだろうか?


☆側切歯の特徴

①歯根は遠心または口蓋側に高頻度で湾曲している

②その解剖学的特徴はPAではわからない

③側切歯の根尖病変は口蓋側に存在することが多い

④口蓋側に盲孔の存在


しかしながら歯周ポケットは全箇所正常であったので、④に関しては心配がない。

歯内療法の問題のみが進行している。

ということはApicoectomyを行えばこの根尖病変は解決できるかもしれない。

次に#6である。

口蓋側に根尖病変が見られるが同時に側枝のようなものも見られる。

少なくともこの位置まで歯根を切断する必要があるだろう。

では何ミリか?

少なくとも4.9mm(5.0mm)はある。

長めの切断をしなければこの気持ち悪い解剖学的な存在を放置してしまうことになる。

3mmでは90%の側枝を切り取れないのである。

De Deus 1975の論文をもう一度紹介しよう。

その他の補綴部位も確認してみた。

まずは右上1番(#8)。

#8

ここには根尖病変は見られない。

Apicoectomyの対象となる歯ではなさそうだ。

次に#10(左上2)である。

ここにも大きな根尖病変が見られる。

しかしこの歯には症状が一切ない。

無症状である。

以上を整理すると歯内療法学的診断は以下のようになる。

#6 Pulp Dx: Previously Treated, Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis

#7 Pulp Dx: Previously Initiated therapy, Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

#8 Pulp Dx: Previously Treated, Periapical Dx: Normal

#10 Pulp Dx: Previously Treated, Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis

Recommended Tx

#6 Apicoectomy

#7 Apicoectomy

#8 No-Tx

#10 Apicoectomy

前歯3本はApicoectomyになるだろう。

ただ、あまりにも右上の前歯が痛いので先にこの歯を治療してほしいという患者さんの希望があったので私はまず右上の#6,7に対してApicoectomyを、その後に左上の2に対してApicoectomyを行うという治療計画を立てた。

患者さんは治療計画に同意したため、Apicoectomyが行われた。

この時の作戦としては、逆根管形成・充填で逆から根管を全て埋めてしまおうという計画であった。

ただ、#7にはポストTekを装着されていたのでまずこれをメタルポストコアでやりかえてもらおうという話になり、かかりつけ医でやりかえてもらったが…

テーパーがものすごくついたメタルポストコアが装着されてしまった…

自分でやるべきであった。

そして不幸?はまだ起きる。

Apicoectomyは年明けの2018.1.17に行われたが…

気泡が入りまくるのである…

しかし、これは格好悪いだけで歯内療法学的には問題がないことは過去証明されている。

Torneck 1966, Torneck 1967

このように、

気泡が入っても問題がないという論文を読んだことはあるが、その逆の論文は読んだことがない。

いわゆる気泡が入っていると根尖性歯周炎が治らないという論文を私は知らない。

その後の経過を追ってみよう。

2018.2.16

あまり変わりはない。術後1ヶ月だからである。

2018.3.13

術後2ヶ月。

不透過性が向上しているようにPAでは見れる。

2018.4.13(術後3ヶ月)

術直後よりも歯槽骨が再生されている傾向にあるのがわかる。

これぞまさしく、

真の再生療法だ。

しかし、この1ヶ月後の2018.5.10にポストが取れたと患者が来院してきた。

ファイバーポストで支台築造をやり直した。

2018.5.10(術後4ヶ月)

2018.7.5(術後半年経過)

2018.10.12(術後9ヶ月経過)

2019.1.17(術後1年経過)

ここで私は倒れてしまい、予後を追えないでいた。

しかし患者さんに再開業したことを告げると喜んで戻ってきていただけた。

術後約4年が経過している。

2021.12.13(術後4年経過)

完全に歯槽骨で覆われている。

痛みもない。

以下、患者さんの感想。


先生、治療していただいてありがとうございました。

当時はもう抜かないといけないのか…と落胆していました。

こんな素晴らしい方法があると私がわかっていたらもっと違った人生になっていたでしょう…

しかし先生に出会えて本当によかったです。

これからもよろしくお願いします。


この患者さんからお土産をいただいた。

夫婦で北海道を旅行してきたそうだ。

小樽に行かれたそうだ。

石原裕次郎記念館を思い出す。

ああ、この人も私を太らせる気か…

という話をしていたところ患者さんからこのような返しが来た。


先生、痩せてください(笑)

先生も私のようにマラソンすればいいのに。

マラソンして痩せましょう!


この患者さんは50代後半だが、出雲とか全国のマラソン大会に出場されている。

私よりも遥かに健康的な生活を送られている。

マラソンして痩せるか…私にとってはそっちの方がより難しい…

またこの日は開業届を保健所に提出した。

私は保険診療をしないので、

①診療所開設届添付書類

②管理者の臨床研修等修了登録証及び免許証の写し

③管理者の履歴書

④医院平面図

⑤敷地平面図

⑥診療用エックス線装置備付届

これを提出して終了であった。

来月検査に来るという。

そして歯科医院に戻ると、大学の恩師からの花束が届いていた。

長崎大学の鵜飼先生だ。

もう何回花束をもらっただろうか。

過去、私はこのような作業を3回している。

これが4回目である。

私の人生は、私が望んだわけでもないが、破天荒だ。

こんな人生はなかなか送れないだろう。

しかし私は何故か生かされたので、残りの人生は死ぬまで、やりたいことをできて過ごせればとおもっている。

今、思うように人生がいかないで苦しんでいる方にも伝えたい。

明けない夜はないということを。