経過観察の患者さん。
倒れる直前に診療している。
それは2019.2.9が初診であった。
主訴は複雑だが患者さんが言っていたことを忠実に伝えよう。
“右上前歯と下の歯の再根管治療希望。右上前歯3本の根管治療のやり直しを昨年(2018年)12月末に治療したが今年(2019年)の1月中旬から根と頬が痛くて2/1より抗生物質で抑えている。右頬が少しづつ上に上がり今は眉毛上と目の裏も痛く、頭痛もある。夜中何度も目が覚める。早く根の膿を出して綺麗にしたい。●×病院では根の治療をしないと外科治療はできないと言われた。口の中の上の方が感覚がなく、鈍痛もある。”
いかがだろうか。
アタオカが来た!と思うだろうか?
私は思わない。
あなたがそう思うのは、あなたが保険診療に毒されているからだ。
そんな治療では患者の意見に耳を傾けることもできないだろう。
そうした医療の目的は、質を問うのではなく最低限の医療が受けれるようにすることが目的である。
質を問うたものではない。
この医療制度に質を問うということは、吉野家に行ってフランス料理のフルコースをもってきやがれ!と騒ぐことに他ならない。
ちなみに、私も過日、国民健康保険料を払ったが¥51,200だった。
¥51,200!!
こんなに私は毎月医療費を払っていないのだが…
社保時代も相当支払っていたが、なんだかこの国の仕組みはよく分からない。
が、法律に逆らう気もないのでこのまままた今月も支払った。
まあこうやって国を支えていると思えば気は落ち着くかもしれないが、お役人の不正には腹が立つというのはわかる気がする。
それともこういう無関心?がいけないのだろうか??
それはさておき、この患者さんの歴史を見てみよう。
2019.3.13、私が倒れた日に抜糸予定だったが私が倒れたのでその日に抜糸できません…とexcuseすることになった患者さんである。
そしてこの方のもう一つの注意点が、
Dental phobia(歯科恐怖症)
であるということだ。
注射が苦手である。
と自首してくれるくらいだからまだいいが、どうやってApicoectomyをしろというのだろうか?
という症例である。
歯内療法学的検査を行った。
#6 Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(不適合補綴物があり測定不可能), Mobility(WNL)
#7 Perc.(-), Palp.(+++), BT(+++), Perio probe(不適合補綴物があり測定不可能), Mobility(WNL)
#8 Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(不適合補綴物があり測定不可能), Mobility(WNL)
補綴が不適合で歯周ポケットが測定できない。
PAは以下になる。
いわゆる、ハンドファイルで直線的に形成したものである。
これでは根尖生歯周炎は治癒しない。
解剖も破壊されている。
が、これが日本の歯科医療の現状だ。
患者がお金がなさそうだからと、忖度し、本当の医療が行えないか、何の知識もないのか?はわからないが由々しき事態だろう。
本当の医療を行うにはお金がかかるということを皆知っているのに、それを患者に言わない。
歯科医療はまだ人の命が関わり合いがないのできちんと話せばわかるはずだ。
が、それをしようとしない。
他に患者が待っているとか、他の患者の治療をしないといけないとかいう幻想に悩まされている。
これが日本の歯科医療の現状だ。
さて。
私の嘆きは置いておいて、一体どうやって歯科医療して行けばいいだろうか?
まず鎮静は必須であると考える。
麻酔が苦手…と言われても無麻酔でApicoectomyはできないのだ。
そして、もう言ってしまったが再根管治療という選択肢は一切ない。
ラバーダムしていないとかそういうのは関係ない。
既にラバーダムなしでここまで直線的に大きく拡大・形成しているのである。
この術者は側切歯の解剖学的特徴がわかっていない。
わかっていればこういう治療をしないからだ。
☆側切歯の特徴
①歯根は遠心または口蓋側に高頻度で湾曲している
②その解剖学的特徴はPAではわからない
③側切歯の根尖病変は口蓋側に存在することが多い
④口蓋側に盲孔の存在
一度削ったものはもう2度と元に戻らない。
複水盆に返らずである。
形成したらそれを元に戻すことはできないのだ。
そして、それは細菌も減りはしないということを意味している。
これがハンドファイルで根管治療することの悪である。
誰かが、ハンドファイルではこんな方法でやるんだ!と言ってもあなたはできないでしょう?できないことをなぜ追及するのだろうか?
誰でも一定の経験を積めばできる方法の方がよっぽど社会的な貢献ができる
と私は考える。
ということで、静脈内鎮静+#7 Apicoectomyという治療になった。
治療は2019.3.7に行われた。
この患者さんは鎮静してApicoectomyを行なっているのに、麻酔をするとそれをやめさせようと手を伸ばしてきたことを今でも覚えている。
すると当時うちに来ていた非常勤の麻酔の先生が慌てて鎮静の度合いをあげていた。
そういう患者さんだったのだ。
1週間後に抜糸だったが、私はその日に倒れてしまい他の部位の治療も予後も追えなくなってしまった。
しかし、患者さんに連絡すると患者さんは経過を見せてくれた。
それが2021.12.14のことである。
他の部位は、昔、ご尊父と一緒に博多駅近郊で診療していた、ペンエンドの牛島先生に治療していただいたそうだ。
信頼できる先生に治療してもらってよかった。
その他の部位の問題もなさそうだ。
患者さんは補綴の色を気にしていた。特に側切歯だ。が、術者が急いでいたような感じで言い出せなかったという。
急いでも仕方がないと思うが、それぞれの歯科医院事情があるのでなんとも言えないと私は答えた。
まあ気になるのは最初だけでそのうち慣れるので問題はないだろう、みんな大概そうだからと伝えた。これが大体事実である。
ということでこの3年にわたる経過観察は結実した。
長い戦いであったが、患者さんもようやく補綴が終わったのだ。
歯科治療には時間がかかるという思いを持ってくれただけでも価値があっただろう。
そして、この方の周りでも同じような問題で苦しんでいる人がいるそうだがこの人はいつも悔しくなるそうだ。
私は…
そんな思いを持って悔しがっても無駄なのに…と思う。
もう多くの人が歯科医療は自由診療でするものという理解を得ているであろうから、他人に余計な?お世話をする必要はないのではないか?と私は考えている。
この患者さんとその家族の口腔内が健康であればいいだろうと私は考えている。
自分の身を守った方がよほどいい。
そして…