以前の歯科医院に来られていた患者さんの経過観察。 昨年の年末にブログにしていた方である。
#6,8,10 Apicoectomy〜2年後の予後
この歯は過去に関西の某有名国立大学で歯内療法を長い期間受けていたが、ちっとも治らなかった歯である。
初診時(2018.8.16)は以下のような状態であった。 その当時の記録(カルテ)を元に紐解いてみよう。
初診 2018.8.16
#6 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#7 Cold+2/4, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#8 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#9 Cold+2/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#10 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(+), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#11 Cold+4/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
PAは以下になる。
大きな根尖病変が、#6, #8, #10に存在する。
そして重要なことは、#7および#9は生活歯である可能性が高いということだ。
なぜそれがわかるか?といえば、Cold testしたからである。
Cold testすると患者が嫌がるからしないという人もいる。
しかしそれでは、歯内療法をすることはできない。
論文を提示しよう。
”あなたがCold testしたから私の歯が歯髄炎になった!”という苦情を私は以前某所で聞いたことがある。
しかし、それは答えはNoである。
Rickoff 1988 Effects of thermal vitality tests on human dental pulp
人の歯にドライアイスを10秒〜5分当てる。in vivoの実験である。
が、当てたのちにいかなる歯髄炎症状も見られなかった。
ということで、
Cold testをあてて歯髄が歯髄炎になったり、壊死したりすることはない
のである。 これでこのブログを読んだ先生はあらぬ誤解?から自分の身を守れるだろう。
また術前のCBCTは以下になる。
#6
#8
#10
根尖病変が全くない#10に痛みがある。
大きな根尖病変がある#6,8には全く痛みがない。
また、#6,8,10は全てハンドファイルで根管治療しているだろう。
根管形成・根管充填が直線的すぎるからだ。
これではまともな歯科医療を受けたとはいえない。
またもう一つ言葉の問題を。
根尖病変は根尖病巣ではない
ということである。
病気の巣なのであれば、そこに原因があるはずだがこれは根管にある細菌が原因でこのような病態を引き起こしているだけである。
したがって、根尖病変という言い方は正しいが、根尖病巣という言い方は正しくない。
細かいことだが、日本の臨床医であれば気を付けておくべきポイントである。
かと言って今の話は日本以外の誰にも通用しないが。
さておき、歯内療法学的診断は以下になる。
#6 Pulp Dx: Previously treated, Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis
#8 Pulp Dx: Previously treated, Periapical Dx: Asymptomatic apical periodontitis
#10 Pulp Dx: Previously treated, Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: #6, 8, 10 Apicoectomy
推奨される治療はApicoectomyになる。
しかも3本同時にである。
外科の理由はこの根尖部分の解剖学的形態をド無視した根管形成・根管充填だからである。
関西の某歯科大学が日本で偏差値が高いからといって正しい歯内療法をしているわけではないということがここでもわかるだろう。
偏差値の高さと臨床力はリンクしないことが非常に良くわかる症例である。
また、こんなに同時に(3本同時に外科治療をして)治療して大丈夫なのか?とよく聞かれるが、大丈夫だ。
では逆に聞くが、
同時に治療しない理由はなんだろうか?
このような状態の歯を1歯ずつ扱うのはまどろっこしいし、面倒臭い。
一気に麻酔して一気に治療するのが最も簡便で速やかな方法である。
私なら、#6,8,10の根尖部にグリーンのキシロカインで麻酔をして、術野である#4~#12にまたグリーンのキシロカインで麻酔を付け足すであろう。
それが面倒なら根尖部に緑のキシロカインを打って、歯肉には別にグリーンのキシロカインを打つ代わりに左右の眼窩下に伝達麻酔をすればいいだろう。
しかしながらいずれにしても面倒臭い方法であることは容易に想像はつくだろうが、 患者は、
貴方が面倒臭いかどうかよりも、患者さんは、早く、きちんと、治療して、治癒させてくれる、歯科医師を希望しているし探しているのである。
そういうつまらないことに気を使う必要は一切ないだろう。
ということで、Apicoectomyを行った。(2018.8.16) 逆根管充填すると以下のような状態になった。
#6,8,10の3本に対して、Apicoectomyを1日で行った。
#8は骨窩洞が大きいため、治癒には時間がかかるだろう。ということも患者さんには同時に伝えている。
それから時間が経過したので時系列で予後を追っていこう。
外科治療後3M後(2018.11.10)
デンタルではその変化があまり分からない。
それも当然だ。
外科治療の予後はそんなに簡単に決着はつかない。
さらに経過を置いた。
外科治療後 6M後(2019.2.23)
この時点で主訴であった#10の打診痛などが消失した。
患者さんは非常に喜んでいた。
が、私がこの後倒れてしまうので経過が追えなくなったが患者さんに連絡をすると経過を当歯科医院で見せていただけた。
外科後、3年4ヶ月が経過している。
外科後3年4ヶ月経過(2021.12.27)
#8以外は
Complete healing と言っていい内容だろう。
ちなみにエンドの世界では外科の予後はレントゲン的に以下のように分類される。
- Complete healing
- Incomplete healing (scar tissue)
- Uncertain healing
- Unsatisfactory healing (failures)
Unsatisfactory healingだけが一般的には失敗とされる。
それ以外は治癒に分類される。
Complete healing
以上が外科治療をしての成功、いわゆるComplete healingに分類される状況である。
提示したデンタルを見ていただければ、#6,10はComplete healingの4と言える状況であろう。
#8は流石にまだComplete healingとはいえない?状況であろうが…
Incomplete healing(Scar tissue)
今回のケース
#8はIncomplete healingには当たらないと思われる。
Uncertain healing
外科治療をし透過像が歯根膜の倍以上あるパターンである。
これは…治癒していないとはいえないが経過観察が必要である。
今回の#8はこれに該当するかもしれない。
Unsatisfactory healing (failures)
治癒していないパターンである。 根尖病変の大きさが外科治療前後で変化がない場合である。
ということで今回は#8はComplete healingの4かUncertain healingと言える。
ちなみに患者さんにはいかなる不快症状もない。
ということで経過観察は終了した。
次回は1年後の来年12月である。
それまでにかかりつけ医にCBCTを撮影してもらうという約束をして別れた。
さて。 どうだろうか?
外科治療は予後が悪い治療だろうか?
私にはそうは思えない。
適応症であればそれを適切に行えば、90%成功するのだ。
この治療を身に付けなければ歯内療法に精通しているとはいえないだろう。
このブログを読んでいる多くの先生がそれに気づき、各種セミナーでこの技術を身につけることを私は望んでいる。
それが日本の歯内療法のレベルアップにつながるのは間違いないからだ。
そしてこの日の昼、私は天神の歯周病の某大御所歯科医院のオフィスに代診の先生と挨拶に行った。
患者さんを紹介していただくためだ。(営業活動も私はしている)
大御所先生は私に話したことをちゃんと覚えていらっしゃった。
長住はダメだ、福岡は博多か天神だけが専門医が開業する場所
その言葉は覚えていらっしゃった。
今までは接点がなかったが、福岡の米国大学院歯科同窓会で知り合った縁である。
これからこの歯科医院とは接点を増やしていこうと考えている。
返す返すもなぜ私は、もっと早くこの先生と関係性を持とうとしなかったのか?非常に悔やまれる。
実にいい先生である。
懇親会も来年には代診先生達と行う予定でいる。
福岡の歯科医療が発展するためだ。
自分の庭で偉そうにしていても患者は来ないのである。
ということで、年末に視界がだいぶ開けてきた気がする。
これからも頑張って歯科臨床をおこなっていこう、そう思った1日であった。