紹介患者さんの外科治療。
#10のApicoectomy依頼であった。
前歯の補綴治療のマネージメントのための外科治療の依頼である。
したがって患者さんの主訴はない。
痛みもない。
が、#10にはSinus tractが認められた。
痛みがないはずである。
歯内療法学的検査は以下になる。
#9 Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#10 Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)
#11 Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
PAは以下になる。
#10の側方には穿孔が疑われるような根管が見られる。
なぜこんなところに穿孔があるのだろうか?不思議な気持ちである。
そして最大の特徴は…
Apex(この穿孔部位)からメタルポストの先端までの距離が短い
ことである。
また、外科治療なのでCBCTもいただいていた。
#10,11の状況は以下になる。
いつものように、
側切歯は口蓋遠心方向へ湾曲していることが多いので口蓋側に根尖病変が見てとれる。
これは破折ではない可能性が高いのだ。勘違いしないでもらいたい。
(と言っても、直接見ないと誰にもわからないが…)
いずれにしても、歯内療法学的診断は以下になる。
#10
Pulp Dx:Previously Treated
Periapical Dx:Chronic apical abscess
Recommended Tx: Apicoectomy
#11
Pulp Dx:Previously Treated
Periapical Dx:Symptomatic apical periodontitis
Recommended TX:Apicoectomy
紹介状は#10のApicoectomyのみの治療であったが、最終的には前歯の大掛かりな補綴治療になるため後の憂いを残さないために、#10,#11のApicoectomyを行うことを患者さんに提案し同意されたため治療が行われた。
Apicoectomy時(2022.1.6)
さて。
#10の根尖部にはメタルポストの最根尖部からポストまでの距離があまりない。
しかも穿孔も存在する。
この段階で考慮すべきは以下である。
①短く削合して1mm逆根管形成+逆根管充填する
②バー(タービン,45°のタービン含む)でメタルポストを切削する
③新品の逆根管形成チップでメタルポストを削合していく(超音波のパワーをいつもより上げて切削する)
以上のいずれかである。
が、この症例では①はあり得ないだろう。
なぜか?
穿孔があるからだ。
ではどうするか?と言えば、②、③と方法がある。
しかしながら、③は厳しいだろう。
CBCTを見てそれはわかる。
この状況でどうやってメタルポストにバーを当てればいいだろうか?
この歯の歯根がもっと頬側に傾斜していれば(つまり3級傾向の歯牙であれば)、別だが…
ということで、どう形成するか?と言えば最もやりたくない③を選択する羽目になったのである。
なぜやりたくないのか?と言えば、使用したものはなくなる=注文しなければならないが、この超音波は日本には売っていないからである。
昔のSybron Endo、今のKerrで販売されているもので日本では購入できない。(アメリカで販売されている)
大概私のほしいものは日本で販売されていないという事実は伏せておこう。
歯科モールドットコムで手に入れることができる。
Ultrasonic CT-1-S Diamond Coated
https://shika-mall.com/ultrasonic-ct-1-s-diamond-coated.html
ということでこの1本(¥19,250)が無駄になるのである。
あなたはそれが許せるか?許せないか?といえば、許せない人間であればこれ以外の方法を模索することになるのであろうが…
それがあるなら教えてほしいくらいである。
ということで折角の超音波スケーラーが無駄にならないように、ややいつもよりもパワーを上げて逆根管形成を行った。
うちの歯科医院の超音波はP-max XSであるので他院の参考になるかわからないが、
つまりいつもは7で行うが、この日は11~13でおこなった。
メタルポストが削れていることがわかると思う。
この後、lid techniqueで逆根管充填してPAを撮影して確認した。
問題がないと思われる。
その後、#11もApicoectomyしたがこの歯は#10のような問題もない歯であるので、ここで詳細を述べるのは遠慮しておこう。
ということでlid techniqueで逆根充後にPAを撮影した。
これも問題ないと判断し、縫合した。
さて。
画像を見るとわかるように、#10は歯根がFlapをあけたときに完全に露出している。
ペリオをかじったことがある人は膜を起きたがるが、私はそのような教育を受けていないので一切何も置いていない。
しかし、それでいいのだろうか?
約1週間後の2022.1.14に抜糸が行われた。(下記の画像か、抜糸時 2022.1.14 をクリックすると抜糸時の動画が再生されます。)
抜糸時 2022.1.14
画像を見てもお分かりのように、いっさいペリオの問題は出ていない。
なぜか?
術前にペリオの問題がないからである。
歯内療法は、根尖性歯周炎(根尖病変)しか治せない。
歯周病(辺縁性歯周炎)はコントロールできない。
しかし、一般的にペリオの先生は、
こいつはなぜペリオをしない!と激昂するか、外科時に介入させてくれと言ってくることが多い。
が、それはエンドーペリオの治療では禁忌である。
エンドーペリオの治療は如何なる状況であれど、エンドが先である。
私はそのようにUSCで学習した。
そうした情報に興味がある歯科医師の方は、Advanced Courseへの出席をお薦めしよう。
エンドが治って、そこでまだペリオの問題があればその時点で歯周処置を考えなければならない。
これは私の業界では常識で大原則であるが、世の中では非常識とされているようだ。
それでは日本の歯科医療は良くならないだろうが、誰もそれに興味がないので何とも言えない。
このような歯科治療は、原則を守ればそれほど難しい治療ではないと考えるがあなたはどう考えるだろうか?
そして重要なのは、患者さんへの私のメッセージである。
あなたは経験で治療されたいですか?それとも科学的根拠に基づいて治療されたいですか?
もう答えは自ずと出るだろう。
一度触ると二度と再生しない組織を経験をベースに治療させたくないと思うのが、普通の常識人の考え方なのだ。
もうこの世界は確実に私が歯科医師になりたての時期とは、治療に対する価値観が変動していることを感じる。
あの時の常識は今の時代では非常識なのである。
それに順応できない人間は早晩淘汰されるだろう。
ここが日本だから、というのは言い訳だ。
新しい価値観を作れない人間は、もはや歯科業界には必要と言われないであろう。