週末の日曜日はBasic Course 2022の第3回であった。

その前日の土曜日は実は北九州に生まれて初めてラグビーを見に行った。

北九州ミクニワールドスタジアムである。

ラグビーは昔、うちの子供の同級生と同じ学校の父親が宗像サニックスのチームに所属していたこともあり、よく見に来ないか?と誘われていたが興味がないのでずっと断っていた。

が、2019年に倒れた後にTBSで放送されていたノーサイドゲームにはまった私はそれからラグビーを注目するようになったのである。

そしてその後のワールドカップで私は完全にラグビーにハマってしまった。

そしてその日が初の生観戦であった。

感想を一言言うと、スタジアムの観客席とグラウンドが非常に近く感じた。

ということでラグビーに興じた翌日、Basic Courseが行われた。

テーマは根管充填である。

最良の根管充填・シーラー・根充方法を臨床家は探しているが、果たして見つかるだろうか?


1. シーラーが必要な理由

某学習会ではシーラーは不要と教えるという。

私にはその意味が全くわからない。

昔からシーラーを使用しなければ広範囲にリークすることが知られている。

それを知らずにセミナーで同業者を教えることほど罪深いものはないだろう。

バカがバカを産んでいる。

そしてそれをありがたく受講する歯科医師もどうかしている。

この世界ほど気安く他人に物を教えることができる業界を私は知らない。

世の中から背を向けることほど簡単なものはないが、それは同時に臨床家としてあなたの死を意味する。

世界の常識から背を向けてはいけないのだ。


2. 各種根管充填方法Review

講義の前にどうやって根管充填しているか?聞いてみた。

すると

Single Point 6人

Lateral Condensation 1人

Vertical Condensation(ただしCWCTではない)1人

であった。

多くの先生にはもう、シングルポイントで根充しても側方加圧でやっても垂直加圧でやっても予後が変わらないという事実が知られているようだ。

これは日本の業界にとっては福音である。

無駄なテクニックを覚えなくていいからだ。

そしてこれも驚くべき事実だが、私がアメリカで根管充填を始めて教わった時から、根管充填はSingle Point根充である。

以下のスライドを見てみよう。

ここで出てくるこのプレゼンの作成者である、Anthony Tranとは私のブログ(今はなき、Yahoo!ブログ)にかつて登場したことがある御仁である。

歯内療法の認定医で認定試験を受かっている先生である。

しかし、私とは全く噛み合わなかった。

そして、全く尊敬もできない人間であったが、アピカルプラグを作るには作業長から5~7mmで切断しろとはいったい何に基づいた話だろうか?

このように出典のないプレゼンは何の役にも立たないということを日本人はそろそろ覚えた方がいいだろう。

個人の経験で臨床を語られるほど問題が大きくなることはないのだから。

では何が問題か?と言えば、以下の文献がその答えを表している。

Gutta Perchaの化学構造はα型、β型、そしてAmorphous型に分けることができる。

大抵のGutta Perchaはβ型である。

そして一部のGutta Perchaはα型と言われている。

分子構造の違いがそのバックグラウンドにはある。

そしてこれを加熱すると流動性の高いAmorphous型へ変異する。

温度を上昇させると以下のような構造の変化が生じる。

根管口部でGutta Perchaを切断して根尖部がamorphous型になれば誰でも簡単に垂直加圧ができるだろう。

しかし、世の中そんなに甘くない。

もちろんそんなことは起きないのである。

では、どのような温度変化を起こすだろうか?

Goodman, Schilder 1981の論文を見てみよう。

ということで以下の結論が導かれる。

ガッタパーチャを熱で刈り取る装置をApical Foramenから2~5mmに入れてGutta Percha Pointを切断しない限り先端に残されたGutta Percha Pointは加熱されず冷えたままである。

それは全てSingle Point根充であると教科書には述べられている。

あの有名な、Pathways of the Pulpにだ。

そしてそれを引用している文献は109である。

109とは誰の文献だろうか?

そう、Goodman, Schilder 1981 の論文にそう書いてあるのだ。

それはまさに紛れもなく先ほどの論文を理解しているかどうかで決まるのである。

そして時代は流れて、

Smith 2000 Effect of varying the depth of heat application on the adaptability of gutta-percha during warm vertical compaction

を見てみよう。

そこで述べられている事実は何だっただろうか?

さっきは6mmまでしかアピカルプラグを作っていなかったが、この研究では7mm, 5mm, 4mm, 3mmまでアピカルプラグを作成している。

そして、側方加圧とObturaをこれに入れて比較をしている。

実験はvitroだが、実にGoodmanの良い続きの論文になっている。

さてこの実験結果は以下のようになった。

1. 作業長までの根管充填の到達性

TI(Gutta Core)>WVC-3mm>WVC-4mm>WVC-7mm>WVC-5mm>LC

作業長まで最もよく到達するのはGutta Coreであり、次が3mmでGutta Percha Pointを切断する根充方法であった。

2. 根管充填剤のくぼみへの適合性

Gutta Core, WL-3mm, WL-4mm>WL-5mm>WL-7mm, Lateral Condensation

くぼみの中にGutta Percha Pointを入れれる軟化度はWL-3mm, WL-4mm, とGutta Coreであった。

3. マスターポイントの根管壁への適合性

WL-3mm, WL-4mm>Gutta Core>WL-5mm>WL-7mm>Lateral Condensation

根管壁への適合性はGutta Core, Lateral Condensation, WL-5(7)mmよりも、WL-3mm, WL-4mmの切断の方が優れていた。

4. 根管充填の均一性

Gutta Core>WL-3mm>WL-4mm>WL-5mm>WL-7mm>Lateral Condensation

根管壁へ均一に充填できるのはGutta CoreかWL-3mmで切断したものであろう。

さて、異常からCWCTではWL-3mmが望ましいと言うことがわかる。

しかし。

実際には無理である。

理由は以下の理屈への理解が必要だ。

その昔、#40.06まで最低形成する必要があると教わった。

なぜか?と言えば上記実験を根管充填で実践するには#40.06まで形成しWL-3mmで切断するとそれが可能であるからだ。

βのチップの先のサイズは25G(#50)である。

ここがマスターポイントにタッチしないと気泡ができてしまう。

これよりも細いニードルはこの世に存在しない。

つまり最も細いのが25Gである。

であれば、

WL-3mmの位置が#50以上でなければWL-3mmの位置でこの道具はGutta Percha Pointをタッチできない=気泡が入る

と言うことになってしまう。

#40.06であればそれよりも3mm上は#58である。従って理論的にベータのニードルのチップはGutta Percha Pointにタッチできるだろう。

しかし、#40.04だとどうだろうか?

3mm上は#52である。

理論的にはタッチできるが目で見て実際当たっているかどうか確認するのは至難の技だろう。

と言うことで3mm上では事実上タッチできないので#40.04であればWL-4mmでタッチせざるを得ない。

するとそこは#56なので理論的には視認できるだろう。

しかし実際はそれでも難しいことが多々あると考える。

事実上、WL-5mmでないと根充出来ないと思われる。

さて私が何が言いたいのか?と言えば、そこまで頭を使ってこのやり方で根充して歯内療法全体にどれだけメリットがあるだろうか?

と言えばほとんどないことがわかっている。

Peng 2007  Outcome of root canal obturation by warm gutta-percha versus cold lateral condensation: a meta-analysis

によれば、CWCTがLCよりも上回っている点は何だっただろうか?

また、Toronto studyはどう言う意味があっただろうか?

Freedmanは私に実際、何と告げただろうか?

側方加圧のポイントは歯牙が割れないように適切に側方圧をかけることである。

そのための方法は何を用いてそれをどのように使用することだっただろうか?

そして最後がSingle Pointである。

Single Point成功のコツは何だっただろうか?

と言うことでこの日のセミナーも終了した。

次回は、いよいよマイクロスコープを使用しての実習となる。

次回もお楽しみに。1日お疲れ様でした。