紹介患者さんの治療。

主訴は

普段はどうもないが、根管治療をするときに歯が痛い

歯内療法学的検査は以下になる。

#30 Cold+3/4, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#31 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

主訴は再現できなかったが患者さんの話をよく聞くと

前医は無麻酔で根管治療をしていた

という。

そして

ファイルを根管に入れるたびに根尖部で痛みが出ていた

という。

前医はもうどうしていいかわからなかった?ので、根管にビタペックスを入れて経過をみていたようだ。

そのまま紹介医のクリニックにかかり当歯科医院に紹介になった。

歯内療法学的検査を行った。

#30 Cold+3/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#31 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#31には患者さんのいう通りいかなる痛みもない。

次にPAを撮影した。

初診時PA(2022.7.4)

患者が痛みを訴えたからか?根尖部にはビタペックスは充填されていない。

ややアンダー気味の仮根充だ。

さてこの患者さんはCBCTも紹介医から撮影されていたのでCBCTの様子もわかった。

CBCTは以下になる。

初診時CBCT(2022.7.4)

M根に根尖病変はない。

次がD根である。

D根にも根尖病変はない。

前医は残髄だ残髄だ!と一人で騒いでいたらしい。

ということで歯内療法学的診断は以下になる。

#31 Pulp Dx: Previously Initiated Therapy, Periodical Dx: Normal, Recommended Tx: RCT+Core build up

さて。

残随しているから治療が終わらないというのはどういう意味だろうか?

前医は抜髄すれば全ての歯髄が除去できると思っていたのであろうか?

まさか、

抜髄=全ての歯髄を取り除く(取り除かなければいけない)ことだと思っているとすればこれほど不幸なことはない。

以下の論文が著名である。

Nyborg, H. and Halling, A. 1963  Amputation instruments for partial pulp extirpation. II. A comparison between the efficiency of the Anteos root canal reamer and the Hedstrom file with cut tip. Odontologisk Tidskrift, 71: 277-283.

H Fileは根管治療の際に使用する歯科用器具で、主に上下の手動操作による根管の拡大・形成に使用する。回転させてはいけないと学生時代に教わった記憶がある。

リーマーも根管治療の際に使用する歯科用器具で、歯質を削り取るための器具である。

このH Fileとリーマーで歯髄除去効率に関して調べてみた。

すると結果は以下である。

This sort of resection inevitably involves the compression, twisting, stretching, and tearing of apical soft tissues, including the afferent trigeminal sensory nerve fibers that will be preserved within the apical wound.

根尖部の歯髄組織を押したり、捻ったり、引っ張って伸ばしたり、引き裂いたりすることは避けられない

とされている。

歯髄を全てきっちり除去はできないのである。

(その結果が下の写真である。この手の話で私が必ず思い出す絵がこれである。)

あなたが根管治療の時に痛みを感じるのは、術者が面倒くさがって麻酔をしないからである。

それはアメリカでは拷問に喩えられる行為だ。

絶対に麻酔をしなければいけない。

無麻酔の根管治療は大学から破門にされる案件だ。

しかし、日本では私もかつて代診医だった時に何でお前は抜髄した歯に麻酔をしているのか!と叱責(注意?)されたことがある。

痛いから麻酔をしているのだが、日本では気合いで治療すれば痛みを与えないらしい。

ナンセンスだ…

こういう細かいことからして日本とアメリカの歯科医療には大きな差があるとしかいえない。

ということで患者さんには麻酔をして治療すれば痛みは治療中には与えないことを説明した。

痛ければ我慢しないで訴えてもらう必要がある。

なぜか?不思議に思ったあなたはもう一度前の論文を読んでみよう。

Nyborg, H. and Halling, A. 1963  Amputation instruments for partial pulp extirpation. II. A comparison between the efficiency of the Anteos root canal reamer and the Hedstrom file with cut tip. Odontologisk Tidskrift, 71: 277-283.

This sort of resection inevitably involves the compression, twisting, stretching, and tearing of apical soft tissues, including the afferent trigeminal sensory nerve fibers that will be preserved within the apical wound.

根管治療をした根尖部には、求心性の三叉神経を含んでいる、と書かれている。

無用な痛みを与えればその刺激で非歯原性疼痛を招くかもしれない。

それは可及的に防がないといけないのである。

ということで、歯内療法学的診断は以下になる。

#31 Pulp Dx: Previously Initiated Therapy, Periapical Dx: Normal, Recommended Tx: RCT+Core build up

治療自体の成功率はかなり高いということを患者さんには説明して根管治療に移行した。


根管治療(2022.7.4)

★以下、治療に関わる動画/画像をアップしていますので、不快感を感じる方はページをSkipしてください。

1. 隔壁形成

根管治療に先駆けて伝達麻酔を行ったが、ラバーダムをするとクランプがパカパカと外れてしまうので隔壁を形成した。

動画であるように私は隔壁を立てるのにラバーダムは使用していない。

なぜか?

根管治療が終了すればクラウン形成である。

形成で隔壁は飛ばされるのでなぜ強固な接着を隔壁に求める必要があるだろうか?

私は昔から意味がわからない。

隔壁は英語で

Temporary Build Up

と呼ぶ。

ということでスーパーセップを隔壁に塗りラバーダムを装着し根管治療が開始された。

2. 根管治療

M根にもD根にもビタペックスが充填されていた。

洗浄してあらかたビタペックスを取り除き作業長を測定した。

治療中にいかなる痛みもなかった。

治療内容は以下になった。

PAを撮影した。

問題ないと判断し、根管充填した。

3. 根管充填

BC sealerの残渣は動画にあるように3wayシリンジで洗い流すことができる。

PAは以下である。

問題ないと判断し支台築造して終了した。

このまま経過をおいて(おかなくてもいいが)、次回は半年後である。

また経過を報告しよう。