以前の記事の続編。

#30 M, D, Radix Entomolarisにそれぞれ根尖病変を有する歯のInitial RCT(1回法)+Core build up

半年前に根管治療をしていた。

その際の主訴が

右下奥歯をかぶせてから歯茎が腫れた

であった。

当初はその歯科医院での保険診療での根管治療を希望していたが、そこの院長の説得?で当歯科医院に来院された。

歯内療法学的診断は以下になる。

#29 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#30 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#31 Cold+3/6, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

PAは以下になる。

CBCTもデータとしていただいていた。

歯牙は長そうである。

作業長を測定した。

M根にもD根にも根尖病変がある。

さらにこの歯にはRadix Entomolarisがあった。

作業長をCBCT上で計測した。

湾曲の手前までが19mmくらいである。

この部分は、

Radix Entomolaris

と呼ばれる特殊な解剖である。

以下の文献にその詳細が記載されている。

Calberson 2007  The radix entomolaris and paramolaris: clinical approach in endodontics

以下のように臼歯部の舌側や頬側に尻尾のような歯根が付着している場合がある。

多くの人はその事実を知らない。

Radix Entomolarisの存在割合は、

アフリカ系人種で 3%, 一方ユーラシアンやインド系だと5%以下である。

一方モンゴロイド系であればその割合は5~30%程度になる。

が、コーケイジャンであれば3.4〜4.2%しかその割合はなく特徴的な根管として扱われる。

何が言いたいのか?といえば人種によってその発生率が異なるという事実である。

それを頭に入れなければならない。

通常は以下のようなChamber open形態になるが、

Radixがあるとその形態が以下に変化する。

そしてその特徴的な形態が頭に入ってきただろうか?

Radixは湾曲がかなり強い

という事実を。

これだけ強い湾曲でどうやって根管治療をトラブルなく行えばいいというのだろうか?

かなり難易度が高いといえる。

しかし多くの人はその事実さえ知らない。

遠心根の湾曲が強いものと思っているフシがある。

が、実はこうした特徴的な形態を有する歯であるという事実を頭に入れておこう。

さあ。

問題はどのように根管治療していくか?

である。

まとめると以下になる。

①全ての根管を穿通させる必要がある

②が、術前の偏心のPAからVPTを行った形跡があり根管が石灰化している可能性が高い。つまり穿通することができるかどうか?はわからない

③一定数以上の拡大(#40以上)が必要

④補綴(オールセラミッククラウン, 内冠はジルコニア)の破損の可能性。破損した際は患者さんの実費で再製の必要がある

⑤Radixの形成はファイルが折れないように頭を使い、慎重に行う必要がある

ということを説明した。

ということで治療の内容に同意されて、根管治療がスタートした。


#30 RCT開始(2022.4.2)

ジルコニアの除去には専用のバーがいるだろうか?

答えはNoである。

以下のようにChamberは開けれる。

まずスタッフはクラウン形成のためのダイヤモンドバーをつけていた。

これでは…

削れない。

しかし、ダイヤモンドバーの種類をある他のバーに変えると以下のように削ることができる。

見学に来た先生とだけの秘密?である。

窩洞内をマイクロスコープで見ると石灰化が進んでいたが、根管口は発見できた。

が、SXでコロナルフレア形成すると痛みを患者さんが訴えた。

この段階で私は髄腔内麻酔を選択した。

天蓋が既に削り落とされているのに?である。

以下のような方法で髄腔内に奏功させることができる。


生活の知恵?である。

これで天蓋が削り落とされていても、髄腔内麻酔は可能であろう。

と、ここからSXを用いて根管治療をしていくがその際のポイントもこの以下の動画に収録されている。

私は洗浄液をどのように使用しているだろうか?


作業長等を計測した。

RadixのReference pointはあえてBにした。

その理由はファイルに余計な負荷をかけさせたくなかったからである。

また使用したNi-Tiは以下になる。

RaCe Evo #10.02→RaCe Evo #10.04→HyFlex EDM #10.05→#20.05→#25.V→#40.04

白水貿易のRaCe EVOは非常に役立つファイルだ。

曲がるし、ラバーストップがしっかりしている。

最近の私の1番のヒット商品?と言えるだろう。

が、気づいたことがある。

RaCe EVO #10.04→HyFlex EDM #20.05は無理であった。

というよりも、この順では, HyFlex EDM #20.05が全く作業長まで到達しなかったのだ。

が、この間にHyFlex EDM #10.05を入れるとHyFlex EDM #20.05は作業長まで到達した。

これは、RaCe EVO #10.04はそれほど切削能力がないのか?、HyFlex EDMとは合わないのか?どちらかだろう。

もう少し臨床で研究してみようと思っている。

其々、#40.04まで形成して#35.04のGutta Percha Pointで試適した。

以下がポイント試適のPAである。

あまりいいPAではなかったが、

患者さんの顎が限界近い

という訴えがあったので、このPAで根管充填して支台築造した。

以下のPAになる。

D, ML, Radixからはシーラーパフが見受けられる。

問題がない根管充填である。

術前のCBCTからこのパフが重篤な事故を引き起こすものではないことはわかるだろう。

#31の根管治療を行う際は要注意かシーラーパフはやめた方がいいだろう。

が、#30に関してはDangerousな要素は何一つない。

つまり、パフがあった方がいい根管充填の証明ができるだろう。

今後は半年後、1年後に経過を見ていく。

補綴に穴を開けて治療しているため、補綴のやりかえはない。


さてここから半年が経過した。

前回の主訴は

右下奥歯をかぶせてから歯茎が腫れた

である。

主訴は改善しているだろうか?

根管治療 半年経過(2022.10.1)

治療前後の比較をPAのみでしてみよう。

次回はさらに半年後である。

また経過をご報告します。