バイト先での経過観察。

患者は50代女性。

2018.9に以前の私の歯科医院に来院されている。

その際の主訴は

「 3年前に口蓋が腫れ痛みもかなりあった。今その痛みは引いている。が、治療しなくてはいけないと思い紹介されたので受診しようと来院した。」

というものであった。

歯内療法学的検査は以下のようになった。

#12 Cold+1/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probing(WNL), Mobility(WNL)

#13 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probing(DP 5mm→歯内療法終了後に歯周外科予定), Mobility(WNL)

#14 Cold NR/20, EPT+13/80, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probing(WNL), Mobility(WNL)

PAを撮影した。

Pulp Dx:Previously treated

Periapical Dx:Asymptomatic apical periodontitis

Recommended Tx : Root Canal Re-RCT

である。

さて、Re-RCTの成功率はどれくらいだろうか?

頬側根は根尖部まで比較的しっかり根管充填できている。

しかしながら口蓋根はどアンダーで終了している。時間がなかったのだろうか?

このように2根管の根管で一方が治療されているが他方が治療されていない、という場合の成功率に関する論文を私は知らないが、この患者さんはラバーダムなど見たことも経験したこともないという。

じゃあ俺がラバーダムして再治療すれば成功率は100%だ!と上手くいくはずがないのが再根管治療の難しいところだ。

このような状況での再治療の成功率に関して記述のある論文を私は知らない。

上手くいくか?いかないか?は時の運のようである。

しかしながら厳しめに見れば成功率は60~70%といったところであろう。

Re-RCTをやり直し1回で治療は完了した。ただ口蓋根は穿通ができなかった。

作業長などの情報は以下のようになる。

B:RIL=17.0mm, Reference point B IBF #25.02 MAF #60.02

P:RIL=閉鎖, Reference point P, MAF #50.03

BC sealerとGutta Percha Pointを用いてSingle Pointで根管充填した。

その後, Fiber postを用いてコア用のレジンで支台築造を行なった。

この後、歯周病専門医により歯周外科が行われた。

そしてProvisional Restorationを装着した。これが2018.12.17である。

過去の記録を見ると、この際に硬いものを咬合すると痛みがあるとおっしゃっていた。

そうなのだ。歯周病の治療には疼痛がつきまとう。

それを軽減させる方法はない。

強いて言えば咬合させないようにプロビジョナルレストレーションを咬合調整する程度だろう。

さてこの時からこの患者さんは2年が経過した。あの治療した左上5番はどうなっただろうか?

遠心寄りの根尖病変はかなり治癒傾向にあるということがわかる。

近心側はまだまだだ。

さてここからどれくらい、私たちは待てばいいのだろうか?

歯内療法の成功の定義には以下のようなものがある。

Orstavik 1996の有名な論文を見てみよう。

Prospective studyで

Re-RCT(N=732 roots) done by undergrad students

PAI evaluated after 0,1,2,3,4 yrs.(PA=デンタルでの予後評価である。PAI>2で成功と見なせる。)

599 roots could be evaluated.(82%)

アメリカでは考えられないことであるが、再治療を学生が行なっている。

この論文には以下のようなグラフが添付されている。

根尖病変はどれくらいで小さくなってくるだろうか?

またもう一つのグラフは以下である。

根尖病変が再治療で消えるには何年かかるだろうか??

この論文をきちんと読むことができれば、あなたはエンドのセミナーや勉強会に行く必要はないだろう。

この件に関しては2021年1月17日に行われる2020 Basic Course 第7回 再根管治療の意思決定で解説する。

ということで根尖病変がなくなるにはまだ時間がかかるし、患者には痛みも何もないのでこのまま経過観察を1年後に行うことになった。

再治療は治るか治っていないか、判定するのに実に繊細な観察力が要求される。

あなたは患者さんをマネージメント可能だろうか?