紹介患者さんの治療。

全顎的な治療を行う予定の患者さんで、

#2,23,24,26のRCTを依頼されていた。補綴を絡めた全顎治療が計画されていたので私に紹介が来たのである。

かかりつけ医はまず#2のRCTから…と紹介状にあったが、患者さんは

左上の神経を保護した歯がしみる(冷水痛がひどい)

という主訴を抱えていた。

ということはかかりつけ医の都合を変更して治療を進めなければならないだろう。

歯内療法学的検査(2023.2.8)

#11 Cold+3/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#12 Cold++1/8, Perc.(+), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#13 Cold+2/5, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#12には他の歯と比べると強い冷水痛があり、これが主訴に繋がっている。打診痛もあった。

この事実は、#12にNecrosisかIrreversible Pulpitisが生じている可能性を意味するだろう。

#12の根管治療が必要な状態である。

が、

P根の神経が露髄してMTAセメントでDirect Cappingしている

と紹介状にあった。

この事実は石灰化と言う嫌な生理現象を起こしている可能性が高い。

PAを撮影してその事実を把握するようにした。

PA(2023.2.8)

偏近心撮影で映る#12の遠心根管は石灰化していてよく見えない。

露髄してそこにMTAセメントが貼付されているのも目に入る。

何度も言うが、

成人での生活歯髄療法は根管の石灰化のリスクが大きい。

したがって、処置後に壊死や根尖病変などの問題が出ると歯内療法が困難になる。

MTAを使用したかどうかは大きな問題ではない。

それはKakehashi 1965 の文献に収載されている以下の写真がそれを示しているだろう。

この時代(1960年代)にMTAセメントはなかった。

MTAセメントには歯髄を保護する魔法のパワーはない

のである。

Torabinejadが聞いたら激怒?するだろう。

そして上の写真の3次象牙質ができている部分の根管はどうなっているだろうか?

と言えば、

石灰化が進んでいる

のがわかる。

これが私が何度も言う成人?(ではなくこの研究はラットだが)のVPTの弱点が病理図でも垣間見えている。


CBCT(2023.2.8)

MTAセメントが置かれている口蓋の根管は鮮明でない。

石灰化が起きている可能性が高い。

B

B根の根管は見えている。

ここは問題がなさそうだ。

頬側根管は張っているので露髄すれば容易に見つけられるだろう。

が、口蓋はどうだろうか?石灰化がこのように起きてしまう。

P

根管口部付近が石灰化している。探索が必要だろう。

口蓋根の根尖部に大きな病変が見える。

P根は歯髄の失活が疑われる。

Partial Necrosis(そう言う病名はないが)なのかもしれない。

歯内療法学的診断(2023.2.8)

#12

Pulp Dx: Symptomatic irreversible pulpitis

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: RCT

推奨される治療は根管治療一択だ。


☆この後、臨床動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。


#12 RCT(2023.2.8)

頬側根管からは出血が見られた。SXで上部を拡大している。

が、口蓋根管はない…

こう言う時に便利なのが鋭い短針だ。

鋭い短針で根管口と思しき部位を突く。そうすると幸運にも根管の中に短針が入る時がある。

そこが入り口だ。

この動画にあるように探索し、SXで上部を広げれば穿通できる可能性が高い。

作業内容は以下になる。

上顎は機能咬頭が口蓋なため、頬側がストレートで口蓋には湾曲がある。

つまり優先すべきは頬側根管である。

が、長い歯であったので31mmのK Fileを用いて穿通した。

この状況で根管形成をしていく。

窩洞の中にヒポクロを満たし、ファイルを回転させずに指摘していく。

その時のReference Pointまでの距離が形成量になる。

そしてRubber stopがReference Pointまで到達しなくても無理に根管形成を続けないことだ。

必ずStopして根管洗浄して、そして再度形成する。

すると必ず作業長まで届く。

これを知っているか?知らないか?で根管治療は大きく変わるだろう。

#10.05で形成したら次に使用するファイルは#25.Vである。

理由は根管は比較的ストレートで難しい湾曲がないからだ。

ここで上で述べたことを実践しているので見てみてほしい。


#40.04は#25よりもテーパーが細いので容易に作業長まで到達する。

Patency Fileをして根管充填までの準備は整った。

Gutta Perchaを試適し、BC selaerを根管に流してSingle Pointで根管充填した。

根充後のPAは以下になる。

B,Pともにシーラーパフが見える。

問題なく根管充填ができたようだ。

P根には補綴のことを考慮し、ファイバーポストを挿入して築造した。

ということでこの日の治療は終了した。

次回は#2の根管治療を行う予定である。

その模様も後日お伝えします。