紹介患者さんの治療。

内容はハードになることが予想された。

なぜか?といえば、

根尖病変がない歯に痛みを感じているから

である。

前医はラバーダムをかけて治療したのか?と聞くと、

していない…

という。

それが最大の問題だ。

私はいつも思う。

それが保険でできないのであれば、自由診療でやればいい。

Basic CourseでもAdvanced Courseではそれを保険診療でも合法的にできる方法を、講師の先生から伝授してもらった。

この話はまた今年も機会があれば行おうと思う。

先生の中には、自由診療がしたくてもできない…という人もいるだろうから。

そのための鍵は、

個室の作成と保険を任せることができるドクターの確保

である。

何を言っているのか?意味もわからない先生は、来年のBasic CourseかAdvanced Courseに出てください。

ということで初診時(2022.3.3)の主訴は

左上の奥歯が神経をとった後から痛くて噛めない。。。

であった。

初診時歯内療法学的検査(2022.3.3)

#13 Cold+2/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#14 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(-), BT(++), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#15 Cold+2/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

主訴は再現できている。適切な歯内療法で治癒するチャンスはあるだろう。

初診時PA(2022.3.3)

困ったことに、根尖病変がない。

この症例を見ると以下の過去を思い出す。

世の中のニーズを満たせる歯科医療とは?〜#3 Intentional Replantationから5年経過+CBCTでの検証

左右が違うだけで行われている治療やその経緯は同じである。

このように歯内療法で悩むと治療が複雑化する。

この場合は、Gutta Percha PointがOverextensionしている可能性が高い。

上記のケースも思いっきりOverextensionしていた。

次にCBCTを分析した。

CBCT(2022.3.3)

MB

Gutta Percha PointがOverextensionしている。

これだと痛みが出るだろう。

ここは切断が必要だ。

DB

DB の先には病変が見られる。が、骨欠損はほとんどない。

P

PはMB, DBと大きく離れている。Vの字のような歯根形態だ。

Intentional Replantationになると…頭が痛い。

歯内療法学的診断(2022.3.3)

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Apicoectomy(MB, DB)

このApicoectomyで主訴が改善しなければ、P根もApicoectomyしなければならない。

が、CBCTを見てわかるようにどうやってP根を根切するのだろうか?

私には無理である。

したがって、治療がうまくいかなければ別日に(Apicoectomy半年後に)Intentional Replantationを行うと告げた。

ということで#14 Apicoectomyが2022.6.9に行われた。

が、結果的にこの日のApicoectomyで主訴は改善しなかった。

9ヶ月後の検査でも以下のようになった。

#14 Apicoectomy 9ヶ月後 Recall 歯内療法学的検査(2023.3.4)

#13 Cold+2/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#14 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(-), BT(++), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#15 Cold+2/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

主訴が全く改善していない。

以前のApicoectomyには効果がなかったのだろう。

PAを撮影した。

#14 Apicoectomy 9ヶ月後 PA(2023.3.4)

PAを見ても何もわからない。

CTも撮影した。

#14 Apicoectomy後 9ヶ月後 CBCT(2023.3.4)

MB

口角が硬かったため、激しいベベルがついている。

が、浅いベベルの位置までMB口蓋側のRetroprep, Retrofillはなされている。

ここに問題はなさそうだ。

DB

DBにもベベルがついている。が、ここも行われた処置自体に問題がなさそうだ。

P

根尖病変がないが、痛みが出ている。

それがこの根が原因か?はわからない。

が、少なくともこの根にも問題はあると言わざるを得ない。

このことから、抜歯してIntentional Replantationを2023.3.4に行うことになった。

これが最終手段である。


☆この後、外科治療の画像/動画が出てきます。気分を害する方は視聴をお控えください。


#14 Intentional Replantation(2023.3.4)

Physics Forceps, ラクセーター等を使用して脱臼を試みるがなかなか抜歯できない。

こういう時は再度、CBCTに戻る。

ポイントは何だろうか?といえば、

口蓋に大きく傾斜したP根である。ここを丁寧に脱臼しなければならない。

そのため私は頬舌方向に歯を揺さぶり脱臼を試みている。

すると歯牙が動揺し出した。

これで鉗子で掴めば抜歯できる。

この時、どの方向に動かすか?であるがそれはやはり頬舌的方向であろう。

頬舌方向に動かすと抜歯ができた。

抜歯までにかかった時間は35分であった。

MB, DBを切断しているとはいえ脱臼に時間を要している。

これはもう仕方がないのかもしれない。

また、抜歯時にP根の根尖部を破折させてしまった。抜歯時にパキッと音がしたことからもこの抜歯の操作が問題であったと言える。

口腔内を顕微鏡で精査した。

これは回収しなければならないが、根尖部の残根であるので外科用ピンセットでつまみ除去した。

ここからは口腔外の作業になる。

時間はほとんどかからない。

根切して、逆根管形成して、逆根管充填した。

Root Resection

P根

P根からはGutta Percha Pointが大きくはみ出ていた。

Overextensionである。

DB根

だいぶベベルがついていた。

それを修正して逆根管形成した。

全てリンデマンバーで行っている。

MB根

Root resectionが終われば、逆根管形成である。

GCのMIバーを用いて逆根管形成した。

窩洞を乾燥させ、BC sealerとBC puttyで逆根管充填した。

問題がないか?PAを撮影して確認した。

問題はないと思われる。

抜歯窩へ再植した。

この際、アンダーカットがあるので咬合圧検査のTooth sloothを使用すると容易に再植が可能である、と気づいた。

5分咬合してもらい、PAを撮影した。

問題はないと思われる。

次回は1ヶ月後である。

そこで動揺等がなければプロビジョナルレストレーションを装着する。

さて。

この症例から言える事実は何か?といえば、

ラバーダムなしで根管治療をしないでもらいたい

という事実である。

さもなければこのような治療をしなくてはならなくなる。

これはハードだ。

ということで次回は1ヶ月後である。そこで経過を皆さんにご報告する。

それまで少々お待ちください。