紹介患者さんの治療。

北九州から来院されていた。

主訴は

左下奥歯の咬合痛

である。

歯内療法学的検査(2022.5.16)

#17 Cold+2/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#18 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(-), BT(++), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#19 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#18,19に打診痛と咬合痛がみられた。

#18,19が患歯である可能性が高い。

PA(2022.5.16)

#18,19の根尖部に病変がある。

この2歯が問題だ。

#17,18,19 CBCT(2022.5.16)

最も症状が強かった#18,そして#19,最後に#17の状況を見てみよう。

#18 MB

D根はJ-shaped lesion的な模様で破折が疑われる。

M根の根尖部にも病変がある。

#18 ML

#18 D

D根に大きな病変がある。

次が#19である。

#19 MB

根尖部には病変がある。

#19 ML

根尖部に病変がある。

#19 D

D根の根尖部にも病変がある。

この歯にはRadixもある。

そこに病変があると頭が痛い…

#19 Radix

Radixには病変はなかった。

これはある意味ラッキーだろう。

最後に対象歯である、#17もどのような模様か見てみた。

が、術前の検査から問題があるにしてもそれは、少ないと思われる。

#17 M

#17 D

やはり問題がない。

ということで、診断は以下である。

歯内療法学的診断(2022.5.16)

#18,19

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Re-RCT

と言うことで#19,18の再根管治療へ移行した。

が、

#18は歯牙の破折(VRF)が存在し、保存が不可能であった。

これが咬合痛の原因であったのだろう。

そこで私はこの歯にこだわるのではなく、

①#18にImplantを埋入する

②#17を根管治療して#18を抜歯し、GBRして自家歯牙移植する

③抜歯してそのままにする

3つの案を提示した。

患者さんはImplantが嫌いな人で、かといって抜いてそのままにするのも気持ち悪いということで、②を選択された。

この日は#18を抜歯し、GBRを行った。GBRにはCerasorbを使用した。といっても専門家でないので何のことか?全くわからない。

材料屋に勧められるままに、保険適用?の材料を選択しただけである。

PAは以下である。

#19 Re-RCT, #18 Ext+GBR後 PA(2022.5.16)

#19は全ての根管は穿通しなかった。

その後、別日に#17の根管治療を行った。

#17 RCT(2022.6.30)

さて。

私は現在、自家歯牙移植を行っていない。が、当歯科医院では行っている。

この言葉の意味は、

現時点で、私はImplantのように移植歯牙を顎の骨にドリルで穴を開けて、埋入することは不可能であるが(といっても、かつてGPの時にはしていたが)、できる誰かに来てもらってその人が埋入することは可能である

ということである。

Implantをするということは補綴まで責任を持たなくてはならないからだ。

が、当歯科医院ではそれはそもそもが無理である。

ということで、その後、知り合いの口腔外科医を呼んで私の代わりにAutotransplantationをしてもらった。


☆この後、外科動画が出て来ます。気分を害する方は視聴をSkipしてください。


#17→#18 Autotransplantation(2022.8.31)

抜歯窩の#18にはCerasorbで十分な骨が生成されていた。

その後、

脱臼させて

#17を抜歯する。

抜歯後は生食に浸しておく。

60分までは問題がないと言われている。

さあここからが重要な局面に移行する。

歯槽骨に穴を開けて歯牙を埋入した。

その後、Super Bondで暫間固定した。

防湿が甘くなっているのは外科治療中なので仕方がない。

最後にPAを撮影した。

問題はないと思われる。

ここから時間経過を追っていく。

#17 Autotransplantation 6M recall(2023.2.27)

歯牙の動揺は全くみられない。

固定を長くするとアンキローシスを起こしかねないという文献を読んだことがあるが、やはりここでもそれは当たらなかった。

が、Super Bond固定は既に外れていたが…

ということで、かかりつけ医に最終補綴を依頼した。

さあここからさらに半年、自家歯牙移植して1年、この歯はどうなっただろうか?

#17 Autotransplantation 1yr recall(2023.8.8)

歯内療法学的検査(2023.8.8)

#17(18)Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#19 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

全ての臨床検査に対して陰性であった。

動揺度も歯周ポケットも問題がない。

日常生活にも全く支障がないという。

既に最終修復はかかりつけ医で装着されていた。

PA(2023.8.8)

PAで問題を惹起される所見はなかった。

CTも撮影した。

CBCT(2023.8.8)

#18(17) M

根尖病変はない。

#18(17) D

Dにもない。

ということで問題は全くないと思われる。

#19 MB

根尖病変はない。

MLとMBも再根管治療時は穿通しなかったが、合流は再現できていたようだ。

#19 ML

MLにも問題はない。

再根管治療時にM根はMBもMLも穿通しなかったのに、だ。

ちなみに、D根もRadixも穿通していない。

が、全ての根管を#40.04まで形成し、#35.04で根管充填している。

#19 D

Dの根尖部には僅かに根尖病変が残っている。

が、患者さんにはいかなる臨床症状もない。

これは、AAEの成功の基準で言うところの”Healing”と言えるのでApicoectomyへ移行する必要はないと思われる。

が、

予後は”Guarded”であるし、治癒まであと3年は経過を見なければならないだろう。

その中で、Apicoectomyへ移行する可能性はある。

#19 Radix

Radixには新しく病変はできていなかった。

このことからも、

根管治療(再根管治療)にはラバーダムをはじめとする可及的無菌的処置が重要であると言う事実が示唆されている。

もはやそこに言い訳は通用しないだろう。

#19は治療前と治療後を比較してみた。

近心根尖部の病変は消失した。

遠心根尖部の病変は縮小傾向だ。

Radixは以前として病変がないままである。

問題が生じなければ、このままいくだろう。

また生じても、Apicoectomyをすればいいので問題はない。

以下、患者さんの感想。

先生ありがとうございました。長く使えるようにこの歯を管理していきます。本当にありがとうございました。

ということで1年の経過は終了した。

次回はさらに1年後の2yr recallである。

その際の様子をまたご報告します。