以前の治療の経過観察。
半年前に患者さんはVRFを有する歯牙のApicoectomyを行っていた。
あれから半年が経過した。
患者さんの口腔内は機能回復し問題が出ていないだろうか?
また、オペで見た目もひどくなり、見るに耐えない口腔内になっていないだろうか?
数々の問題は解決しただろうか?
というより、
当歯科医院ではVRF症例に関しては患者さんの希望がない限り保存しない
ようにしている。
なぜか?といえば保存しても数年は機能するが、あるとき突如として機能しなくなることが多いからだ。
まさに文献通りと言える。
私がアメリカで学んだそうした文献は下になる。
Hayashi 2002 Short-term evaluation of intentional replantation of vertically fractured roots reconstructed with dentin-bonded resin
この文献を要約すると、
20本のVRFした歯を抜歯してスーパーボンドでくっつけて抜歯窩に戻し、メタルポストコアを装着しクラウン修復した歯の状況を4~45ヶ月経過を置き、臨床検査、PAを撮影して評価し、VRFした歯の生存率を調査している。
臨床検査は、以下の8つの項目(自発痛の有無、咬合痛の有無、打診痛の有無、歯肉腫脹の有無、Sinus tractの有無、動揺度のcheck、歯周ポケットのチェック、そしてアンキローシスを疑わせるような打診時の金属音の有無)が評価された。
PA検査では、破折片が付着しているかどうかのcheck, 歯根吸収やペリオの問題が発生していないか?のcheckがなされた。
その結果、
1年予後が、83.3%であり、
2年予後が、36.3%であった。
つまり、
短期間(1年)は持つが、それ以上はなかなか難しい…
というのが結論である。
これがSuper BondがMTAに変わろうと、Biodentineに変わろうと、私の経験上、大概はこの文献と同じような結果になることが多い。
つまり、
短期では持つが長期では機能しない
という意味である。
もっと突っ込んでいえば臨床家は、
患者さんが希望するのであれば、短期間で機能するように環境を整備し、それがなされていないのであれば、抜歯を促し別の欠損補綴を推奨した方がいい
ということがわかる。
割れている歯にしがみついてもそこからは何も生まれないだろう、ということだ。
以前の治療を振り返ってみる。
当時(2022.12.27)の主訴は、
再根管治療まで行ったがSinus Tractが消えない、外科治療で問題を解決して欲しい
であった。
患者さんは痛みなどは感じていないが問題は解決したいという考えである。
歯内療法学的検査(2022.12.27)
#18 Cold+4/4, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#19 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus Tract(+)
PA(2022.12.27)
近心根にはJ-shaped状のリージョンが見える。
歯根破折の可能性も考えられる。
が、歯周ポケットはWNLだ。
私の測定方法がまずかったのだろうか?
しかし、
近心の根管口付近の形成量がかなり大きい。
再治療を懸命に行ったことが証明されている。
が、治癒していないのである。
ということは…この状況は外科治療が必要なのが頷ける。
CBCT(2022.12.27)
MにもDにも根尖病変が見える。
が、PAよりもJ-shaped lesionは強くない。
割れていない可能性もあるかもしれない。
つまり…
実際にFlapを開いて内部の歯根を直接見ないと判断できない
という話になる。
M
CEJからApexまでは約10mmである。
日本人の平均的な歯根の長さはあるようだ。
術後に歯根が著しく短くなるということはないと思われる。
3mmで切断すると頬舌的な距離(奥行き)は約7mmであった。
リンデマンバー(全長11mm)の半分強だ。
D
Dは歯頚部より10mm先にApexがある。
しかし、Apexに到達するには歯槽骨(皮質骨)を3mm落とさないといけない。
そして、
歯根を頬舌的に7mm切断する必要がある。
こちらもリンデマンバー(全長11mm)の半分強の奥行きを切除する必要がある。
歯内療法学的診断(2022.12.27)
#19
Pulp Dx: Previously treated
Perapical Dx: Chronic apical abscess
Recommended Tx: M, D Apicoectomy
推奨される治療はApicoectomy一択だ。
再治療は何の意味もなさないことは過去の研究からも明らかだろう。
そして外科時に近心根にVRFがないか?Checkする必要がある。
そこがこの治療の鍵かもしれない。
破折の可能性に関しては術前に患者さんに説明し、破折していればBC puttyやBiodentineで修正するということも伝えた。
論文がないのでどれくらいそれが持つか?は誰にもわからない。
が、長期的な処置ではない可能性があるが、そうも言えない症例が多くあるので何とも言えない。
このような時に、誰が治療の内容を決めるのか?と言えば患者さんである。
歯科医師はアドバイスしかできない。
患者さんは、
破折していてもリペアして保存することを希望された。
もし治療がうまくいけば…
Sinus Tractは消失するだろう。
治療開始時に患者さんに痛みがないことも、この治療がうまくいく可能性があることを示している。
ということでApicoectomyへ移行した。
☆この後、外科的治療の動画が出てきます。気分を害する方は試聴をSkipしてください。
#19 Apicoectomy① 切開・フラップ剥離 (2022.12.27)
口角がかなり硬い患者さんなので、伝達麻酔をして左下2番(#23)の近心に縦切開を入れて治療をスタートさせている。
これがのちのApicoectomyの処置にかなり有効に働くのだが(#19 遠心根を除く)、結論から言えば#23でなく#24の近心に入れてもよかったかもしれない。
顕微鏡の拡大率を上げて、近心根を観察した。
#19 Apicoectomy② 近心根観察+Apicoectomy(2022.12.27)
近心根には…VRFが存在した。
そこであきらめるのではなく、主訴がないので修正を行うことにした。
まず通常通りApicoectomyし逆根管形成時にVRFを除去して逆根管充填しようと試みた。
#19 Apicoectomy③ 逆根管形成(2022.12.27)
この後、VRFの処置へ移行した。
#19 Apicoectomy④ VRF修正(2022.12.27)
頬側へ進展しているVRFの位置を把握すべくlight testを行った。
VRFがある部分はMIバーで削除した。
すると2級インレー窩洞の形成のような形になった。
この時の反省点としては…どうせこのようなPrepになるのであれば、最初からPrepの質(通常のApicoectomyの逆根管形成のPrepの質)に拘る必要がないという事実であった。
それよりも時間を意識してどんどん治療を前に進めていき、2級窩洞を形成した時に内部をCheckすれば時間のかなりの節約になるという事実である。
その後、窩洞をStropko Irrigatorで乾燥し、Lid Techniqueで逆根管充填した。
#19 Apicoectomy⑤ Retrofilling(2022.12.27)
Retro prepした部分をLid Techniqueで逆根管充填した。
この上部にBiodentineを置くか?と言われれば、なかなか現実的に難しいだろう。
ということで私はこのまま終了することにした。
ということでD根へ移行した。
#19 Apicoectomy⑥ D根 Osteotomy+Apicoectomy(2022.12.27)
その後、逆根管形成した。
#19 Apicoectomy⑦ D根 Retroprep(2022.12.27)
問題がないことを確認し、逆根管充填した。
#19 Apicoectomy⑧ D根 Retrofilling(2022.12.27)
PAを撮影し、術後の状況を確認した。
広角が凄まじく硬い患者なので遠心のRetroprep&Retrofillingは遠心に流れてしまっていた。
反省点としては当初の縦切開の位置を#24の近心にしてもよかったかもしれない。
それか#23の縦切開をもっと根尖側まで切開しても(粘膜の位置まで長く切開しても)よかったのかもしれない。
これは次回への反省点だ。
最後に縫合した。
#19 Apicoectomy⑨ Suture(2022.12.27)
パピラベースで切開した粘膜を縫合している。
これも…文句をいっぱい言いたい人がいるに違いない。
何でそんな切開をそもそもするのか?
何でもっと緊密に縫わないんだ!
審美的に問題が出るじゃないか!
そんなことでいいのか?とケチをつけたくなる人がこの世にはいるらしい。
が、何ででも言うが
この治療している患者はペリオの患者ではない。
そもそもペリオの患者がこの世の中には大量に湧いているのか?
うちの歯科医院には今まで患者さんが約300人来ているが、ペリオのポケットが著しく深い患者はほとんどいない。
が、歯科医師はペリオの患者は世の中に90%いると騒いで火をつけている。
そんなことがあるわけない。
あるなら私に証拠を見せて欲しい。
つまり、この患者もそうだが
当歯科医院ではペリオに問題がある患者のオペはできない
のである。
つまり、当歯科医院では術後に歯茎が下がるとかそうした歯肉がらみのトラブルはほとんどないと考えられる。
今日はその”証拠”をお見せしたい。
ということでこの日のApicoectomyは終了した。
この1週間後に抜糸が行われた。
Sinus tractは消えるだろうか?
ペリオの問題はなかったので歯肉縁は安定しているだろうか?
それともズゴんと下がってしまっただろうか?
今日は昨日行われた、抜糸時の模様もお伝えする。
#19 Apicoectomy後 抜糸時(2023.1.4)
#19-20間の縫合糸は既に取れていた。
概ね問題は審美的にはないと言える。
そして懸案のSinus tractは消失していた。
次回は半年後である。
その際に検査、PA、CBCTと再度皆さんにご報告したい。
それまで少々お待ちください。
ということでここから半年が経過した。
患者さんの口腔内はどうなっているだろうか?
#19 Apicoectomy 6M recall(2023.7.15)
初診時に存在していたSinus tractは消失していた。
また、初診時のPalp.(+)も今はない。
検査に対しては全てが陰性であった。
主訴が劇的に改善していたのである。
また外科後の歯肉対する傷跡はあるだろうか?
全くない。
ペリオの患者ではないからだ。
ペリオの患者には歯内療法はできないからだ。
が、#19のジルコニアクラウンの歯肉が退縮している。
が、この部位で誰がそれを気にするだろうか?
患者さんはそんなこと気にもかけていない。
PA(2023.7.15)
劇的に外科後よりも状況が改善しているように見える。
CBCT(2023.7.15)
B
M
D
わずか半年で遠心根の削合した皮質骨は再生していた。
治癒が早い。
そして、VRFがあった近心根もだいぶ歯槽骨は回復している。
治療前後を比較してみた。
そして患者さんは、
この治療がいつまでも持つものではないことを理解している。
ここが重要である。
相互理解のない歯科治療は一方通行になってしまう。患者さんがその意味を理解しないと治療についてはいけない。
その意味で、全顎治療というのは非常に難しいということがわかる。
これからさらに半年後の1yr recallの模様をまたご報告したい。