紹介患者さんの治療と経過観察。

当初は昨年にアップしようとした記事であるが、経過を追ってからアップしようということになり今日のブログ記事に至る。

お盆休みは当歯科医院も休診するのでそれまでの間はこの記事を参考にしてください。

主訴は

#8の歯根の途中に病気があると言われた。専門の歯科医院でみてもらった方がいいというので来た

であった。

歯内療法学的検査(2021.12.23)

#8 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)

#9 Cold+2/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

Sinus tractがあった。ということはすでに歯髄は壊死しているのだろう。

またSinus tractがあり、同部を押さえると圧痛が見られた。

初診時 PA(2021.12.23)

近心部に歯髄にかなり近い窩洞を有するレジン充填がなされている。

そして、歯根の中央にもしゃもしゃした影が見える。

外傷の既往がないか?聞いたがそういった類のものは一切ないという。

Invasive Cervical Root Resorptionを疑わせる絵だ。

根尖病変を疑わせる絵も見れる。

Cold NR/20からこの歯の神経は死んでいる可能性が高いのかもしれない。

CBCTで詳細を把握するよう努めた。

初診時 CBCT(2021.12.23)

Invasive Cervical Root Resorption(侵襲性歯頸部外部吸収)だ。

根尖病変もある。

分類等をここで説明してもいいが、実際にどういう治療をするか?が最も重要だ。

これを難しく考えずに、まずは虫歯だと考えてみよう。

ただこの虫歯は歯髄までは到達しないという性質がある。

が、歯髄まで近づいた部分を削合すれば露髄するだろう。

ということはそこで血まみれになり、治療不能になる。

であれば…

まず根管治療をして根管充填し、それから外部吸収を引き起こす細胞(虫歯)の削除を行った方がいいだろう。

物事はなるべくシンプルに考えてアプローチした方がいいのだから。

ということは治療法は2回に分かれる。

ただ、この虫歯をどう取るか?だ。

近心隣接面にあるこの虫歯をあなたはどう取るだろうか?

私になら、この歯を一度抜くだろう。

そして口腔外で虫歯(外部吸収を起こす細胞)を除去するだろう。

そんなことをして吸収細胞が完全に取れるのか?という人がいる。

では逆に聞くが、

あなたは虫歯をどんな時も完全に削除できるのだろうか?

もしそうなら…

私はあなたに全ての患者さんを紹介するだろう。

歯内療法学的診断(2021.12.23)

Pulp Dx: Pulp necrosis

Periapical Dx: Chronic apical abscess

Recommended Tx: RCT→Intentional Replantation

ということで、

まずは根管治療、その後Intentional Replantationへ移行することになった。


☆この後、治療動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。


#8 RCT(2022.1.5)

内部の出血がすごく何もできなかった…

恐らく、今なら1回目に抜歯して、口腔外で全ての処置=根管治療、外部吸収の細胞の除去、吸収部位の充填、Intentional Replantation 等を行っただろう。

が、当時は?そういう考えが及ばなかった。

この日は水酸化カルシウムを貼薬して別日に根管治療することになった。

#8 RCT 2回目(2022.1.19)

支台築造して、別日にIntentional Replantationを行うことになった。

アンダー根充したのはどうせApicoectomyで3mm切断し、3mm逆根管形成+逆根管充填するからだ。

何も問題はない。


#8 Intentional Replantation(2022.1.29)

Flapを開けて歯牙を確認しながらIntentional Replantationを行っていく。

CBCTとの違いはなかった。

ここから歯牙を脱臼させて抜歯していく。

ちなみに根尖部の病変は除去していない。

除去しなくてもいいのか?という問いには後で結果を証明して見せよう。

ここから口腔外での作業に移行する。

まず根尖病変を治癒させるためにApicoectomyを行う。

次に外部吸収の除去に移行する。

これで全てを完全に除去できたのか?と言われてもそれは誰にもわからない。

PAを撮影した。

問題はないと思われる。

口腔内に再植しFlapを閉じた。

パピラベースできちんと縫ってないじゃないか!というあなた。

これがこの後どうなったか私と一緒に見ていこう。

ここから経過を追っていく。

#8 Intentional Replantation 2M recall(2022.3.31)

術前の臨床症状

BT(+), Sinus tract(+)は消失していた。

この時点で患者さんは大満足であった。

ここから時間経過をさらに追う。

#8 Intentional Replantation 8M recall(2022.9.14)

臨床症状は以前、ない。

さらに時間が経過した。

#8 Intentional Replantation 1.2yr recall(2023.3.25)

安定している。

口腔内を検査したが、BT(-), Sinus tract(-)であった。

その際の動画は下。

1年前の術直後は以下であったが、1年経過して審美性は改善されている。

というより何も変化していない。

Flapオペ時の傷跡がどこに残っているだろうか?

ではなぜ残っていないだろうか?

といえば、この患者さんは

ペリオの患者ではないから

だ。

もう何度も言うが、

歯周病の患者にエンドの治療はできないのである。

エンド−ペリオ病変であるから

だ。

エンド-ペリオ病変の治療の仕方は、

①歯内療法をする

②歯内療法外科をする

③意図的再植をする

それでも治癒しなければ、歯周再生治療を行う(ものの、歯周組織が再生する再生療法はない)

のである。

この辺りの話は、またAdvanced Courseでご説明します。

CBCTも撮影した。

この症例から何がわかるのか?であるが、

①歯周病患者の歯内療法外科はできない

②歯周病患者ではないので、審美的問題はApicoectomy後には出ない

③再植時に不良肉芽を全て除去しなくても歯槽骨に置き換わる

の3点である。

それでもおかしいじゃないか!と疑うあなたは、“知識”が足りない。

Advanced Courseでお待ちしています。

術前・術後を比較した。

ということで次回は1年後である。

また経過を皆さんにお伝えしたい。