紹介患者さんの治療。
ある日かかりつけ医から相談された患者さんだ。
他院で修復治療を行なった歯が痛くて痛くてたまらないという患者さんがいるのですが、先生、見てもらえないですか?
と連絡があった。
患者さんの主訴は
歯が痛い。冷たいものも熱いものも両方しみる。物が食べれない…
である。
冷たい物がしみる…と聞くだけでCold testを避けようというのはダメだ。
患者さんの主訴を再現できなくては歯内療法の意味がない(効果がない)可能性があるからだ。
ということで検査も行った。
歯内療法学的検査(2023.4.17)
#14 Cold+3/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#15 Cold++1/120, Perc.(++), Palp.(-), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
ということで残酷ではあるが…主訴は再現できた。
#15には何らかの問題があるのだろう。
PA(2023.4.17)
#15にはInlayが装着されている。
その下には直覆を行った形跡が確認できる。
患者さんはちなみに成人である。
ということは、
直覆の成功率は30%程度だ。
そもそもこの歯には患者さん曰く、何もなかったそうだ。
通っていた歯科医院で、
裂溝が黒いからという理由で修復治療になった
そうだ。
神経が出た時その他院では周りに緊迫感が走ったという。
急にアシスタントが忙しく何かをしていたそうだ。
恐らく…露髄して慌てたのだろう。
そして結果がこれである。
とにかく、成功確率が薄い方法を採用したとしか言いようがない。
そもそもだが、治療の必要性があったのだろうか?
また#14の咬合面にも歯髄に近接するCR充填が見られる。
この歯にもAsymptomatic Irreversible Pulpitisの可能性は否定できないだろう。
治療後に再度、検査する必要がある。
CBCT(2023.4.17)
MB
露髄したのはMBのようだ。
が、生活歯髄療法は最近行われているので、根管の石灰化はまだ起きていないようだ。
直覆が失敗していることの証左だ。
こうしたデータがあるにもかかわらず、歯髄保護を叫ぶところに日本の歯科医療の真髄を見た気がする。
DB
DBの根尖部には大きな病変がある。石灰化?も根管口付近はあるかもしれない。
が、どうなっているか?は治療しないとわからない。
ここは予後のGuarded要因となる問題が横たわっている。
最後がPだ。
P
PにはApical Constrictionがあるように見えない。
元々ないのだろうか?私にはわからない。
が、病変はある。
歯内療法学的診断(2023.4.17)
Pulp Dx: Symptomatic Irreversible Pulpitis
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: RCT
選択される治療は根管治療一択である。
根管治療をすれば通常1週間で不快症状は消失する。
したがって1週間後以降に再度検査をするという約束をして治療へ移行した。
また、歯髄の診断はPartial Pulp Necrosis(そんな病名はないが)かもしれない。
露髄した後の歯髄の状態をよくよく確認しなければならないだろう。
それが診断力の向上につながるからだ。
☆この後、治療動画が出てきます。不快感を感じる方はSkipしてください。
#15 RCT(2023.4.15)
DBからは薄く出血が見られた。
ほとんどNecrosisなのかもしれない。
以下のプロトコールで根管形成した。
根管充填した。
DB, Pからはシーラーパフが見られている。
良い根管治療の証左だ。
ということで予約の関係で治療から約1ヶ月後に検査が行われた。
歯髄検査〜#15 RCT後 1ヶ月(2023.5.29)
#14 Cold+3/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#15 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
初診時の痛みは消失した。
#14には抜髄に至るような初見はないのでここまま経過観察することになった。
ということで次回は1年後である。
またその際に状態をお伝えしたい。