紹介患者さんの治療の経過観察。
治療は今から約1年前に行われていた。
主訴は
下顎前歯の痛み。歯茎が腫れてズキズキ痛い。鈍痛もある。ブリッジ(冠)は(某県の)美容歯科で最近(去年)行ったものであるので外したくない
であった。
歯内療法学的診断(2022.6.27)
#22 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(?)
#23 Cold NR/20, Perc.(++), Palp.(+), BT(+), Perio Probe(WNL), Mobility(?)
#24 Cold NR/20, Perc.(++), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(?)
#25 Cold NR/20, Perc.(+), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(?)
#26 Cold NR/20, Perc.(+), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(?)
#27 Cold+5/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(?)
主訴は再現できた。
補綴した歯の内部に問題がある予想である。
生活歯髄歯と既根管治療歯が混在しているようだ。
#22~#27まで連結されているので動揺度が全くわからない。
これだけでもGuarded案件の治療だ。
PA(2022.6.27)
下顎前歯#22,23,24,25,26,27(右下犬歯〜左下犬歯)には、某県のいわゆる審美歯科でオールセラミッククラウンが装着されている。
しかも連結でだ。
なぜ連結にするか?と言えば、1本1本治療すると面倒だからだ。
患者さん曰く、クイック?矯正治療だという。
そんな治療、アメリカで聞いたことがない。
そして、動揺もない可能性が高い(患者談)のに下顎前歯は全てが連結されている。
これでは清掃ができない。
そして、動揺があるかどうか?の検査も不可能だ。
しかもこの補綴の適合が悪く、オーバーカントゥアなクラウンである。
この治療は審美?治療だけで機能は何も果たしていない。
多くの?このブログを見ている患者さんへ。
これが日本の補綴治療の現状だ。
歯牙を破壊するだけで長持ちする治療は行われない。
1本15万程度で治療して、6本で90万。
仮歯代も入れれば約100万だったという。
が、根管治療は保険診療であった。
こういう治療を
混合診療
という。
日本では、混合診療は禁止されている。
医科では全くそう言う治療は行われない。
が、歯科ではそういう治療を多々行なっている。
そして結果がこれだ。
人の劣等感につけ込み、とんでもない治療を試みて高額な治療費をボッタくるという、この日本の歯科治療の現状は何年経っても変わらないだろう。
つまり、
そういう治療を受け入れると不幸しか待っていない
ということである。
このことからもわかるように
補綴治療は機能回復の治療以外は人を幸福にしない
ということがわかるだろう。
CBCT(2022.6.27)
#23
#24
#25
#26
補綴治療のために根管治療をした#22,23,24,25には根尖病変ができている。
診査も不完全であるが、治療のために外せ!とは言えない。
したがって、
動揺度が強い歯であれば歯周病の疑いが強いので治療をしても無駄であるという説明になるが、歯内療法学的検査の結果を見てほしい。
どの歯もPocket ProbeはWNL=Within Normal Limitである。
つまり正常の範囲内である。
ということは問題はないはずだとして治療に取り掛かれる。
このように、術前検査のない歯内療法は予後を担保できないということがわかるだろう。
歯内療法学的診断(2022.6.26)
#23,24,25,26
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Re-RCT
推奨される治療は再根管治療である。
遠方からの患者さんなのでこの日に全ての歯の再根管治療を行った。
#23,24,25,26 Re-RCT(2022.6.26)
術後にPAを撮影した。
ということで全ての前歯の再根管治療が終了した。
根管充填で使用されたGutta Perchaはもはや完全には取れないことは有名な話である。
が、根管形成ができれば根尖病変は治癒する。
レントゲン的な “差” が出るのは半年〜1年である。
1年後に経過観察を行う約束をした。
#23,24,25,26 Re-RCT 1yr Recall(2023.5.22)
痛みは無くなったという。
が、たまに歯が痛む時があるそうだ。
これは神経を取らずに補綴治療を行った#22か#27の所為かもしれないし、補綴物周囲の歯肉炎の影響かもしれない。
米国であればこれだけでも訴訟案件だが、ここは安らぎの国?日本だ。
争うよりも労りの国である。
が、その自称?審美歯科医師がしでかしたことは深い傷としてこの患者さんにいつまでも残るだろう。
そしてこの患者さんはそこのクリニックを誰にも薦めないと言っていた。
これが現状だ。
歯内療法学的検査(2023.5.22)
#23 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#24 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#25 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#26 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
検査で主訴は再現できなかった。
PAを撮影した。
#22の病変かなり小さくなっていた。
その他も問題がなさそうだ。
が、まだ1年である。
4年は経過を見なければならない。
CBCTも撮影した。
#23
#23の根尖部の大きな病変はかなり縮小している。
#24
#24の病変は消失したようだ。
#25
#26
#25,26の根尖病変も消失したようだ。
術前と術後を比較した。
根尖病変のかなりの改善が見られている。
が、時々痛みがあるそうだ。
これは治療済み歯から来たものか、補綴から来たものか、はたまた無抜髄の#22,#26から来たものかは現時点ではわからない。
ということで予後はいいが、経過観察は続けて行わなければならない。
これこそ世に言う、
AAEの”Guarded”の状態
である。
次回は1年後である。
また皆さんにその際の予後をご報告しよう。