紹介患者さんの治療。
主訴は
左下奥歯がもやっとする。重い感じもする。痛みもある時は pain scale 5/10である
であった。
当歯科医院で検査を行う時は、以下のUSC時代に使用していたEndodontic Diagnostic Recordを用いている。(以下の用紙を参考にされたい)
歯内療法学的検査(2023.5.19)
東京の歯周内科専門医(何だそれは?)のDr.の歯科医院に通っていたという。
そこで、
あなたの歯茎は悪い
あなたは歯周病である
と言われて、4ヶ月に1回メンテナンスに通っていたそうだ。
歯周内科というのは何だろうか?私はそんなものの存在を米国で聞いたことがない。
#18 Cold+20/10, Perc.(+), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL), Sinus tract(+)
#19 Cold++1/24, Perc.(+), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
初診時PA(2023.5.15)
#18には大きな根尖病変がある。
それなのに、Cold+20/10だ。
なぜだろうか?と言えば、
この時点で以下の可能性が考えられる。
①複根管のいずれかの根管の歯髄が死んでいる。その他の生活歯髄がCold testに反応している
②Partial Pulp Necrosisの可能性。歯髄壊死の途中?
詳細な情報が欲しいのでCBCTを撮影した。
CBCT(2023.5.15)
根管形成を行う順番にCBCTを見ていこう。
まずDである。
Dは1根管である。
根尖病変があるので穿通が必要である。
シーラーが出ても事故は起きないだろう。
次がMLである。
MLはMBよりも直線的な根管である。
そしてCBCTを見るとMLはMBと合流しているように見える。
これが、CBCTの歯内療法臨床への応用というやつだ。
もはや、それなしに歯内療法臨床はできないだろう。
MBの下部には大きな根尖病変がある。
ここにシーラーが漏れると…
その下部の下歯槽神経に到達し、重大な事故が生じる。
ここは精査が必要だ。
が、だ。
MBはMLと合流している。
つまり、
MBの根尖孔からシーラーが大量に溢出する危険性はないのである。
この事実から何がわかるか?と言えば、
CBCTはもはや歯内療法臨床にはなくてはならないもの
という事実である。
歯内療法学的診断(2023.5.15)
Pulp Dx: Symptomatic apical periodontitis
Periapical Dx: Chronic apical abscess
Recommended Tx: RCT
推奨される治療は根管治療である。
合流などを頭に入れて根管治療しなくてはならない。
別日に治療へ移行した。
☆根管治療の動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。
#18 RCT(2023.6.2)
この治療の最大のポイントは
近心根管の合流
である。
以下のようにしてそれを確認した。
①MLを当該サイズ(#40.04)まで拡大形成する。(この場合はWL=RIL-0.5mmで18.5mm)
②MLに#35.04のGutta Perchaを作業長まで挿入する。
③MBにC+ File #10を入れて作業長の測定をする。(作業長は実際に測らなくてもいいが、Root Zxにつけてファイルを根管に入れた方が私はやりやすいし、Overextensionした際に把握・理解しやすいのでRoot ZXにつけながら測定することをお勧めする)
④File、Gutta Perchaを取り出す
⑤マイクロスコープでGutta Perchaに傷がついていないか?確認する
するとMBの作業長は以下になる。
そう。
15.5mm(この場合はMLとの合流部が15.5mmなので-0.5mmひかないことに注意する)である。
しかも、#40.04を1回入れれば根管形成は終了する。
これを
時短的根管治療
と私は勝手に呼んでいる。
そして、その窩洞に#35.04のGutta Perchaを入れれば根充終了だ。
これの何が難しいだろうか?
Patency Fileをし、根管充填しPAを撮影した。
術後の偏遠心写真が治療の正当性を示している。
ということで、かかりつけ医にプロビジョナルレストレーションを装着してもらうように依頼して終了した。
この治療で難しかったことは、
患者さんの口が開かない
という事実である。
恐らく日本人は…
世界で一番口が開かない民族だろう。
USCの時にも日本人が来たらほぼ全て私に回されていた。
その時の理由が、
また日本人来たよ。話は長いし、口は開かないし、Akira任せた!
であった…
そしてもう一つの教訓が、
大臼歯の根管治療は専門医に任せた方が無難
というアメリカの格言である。
次回は、#19の根管治療である。
また皆さんにご報告したい。