紹介患者さんの治療。
主訴は
外傷で応急処置を行った部分の治療の続きをして欲しい
であった。
が、ここで検査する前に重要な要素がある。
それは患者さんの年齢だ。
何と、8歳(小学校3年生)である。
うちの三男と同い年だ。
そう、つまり…
小児の患者さんだ。
このように当歯科医院には小児の患者さんも多く来院される。
USCの時も毎週1回、PEDO TIMEという名の地獄のローテーションがあったことを思い出す。
小児の患者さんの最大の特徴は、先週末に東京で行われたセミナーでお話しした通りだ。
何が成人と違うか?
と言えば、以下の絵が証明している。
また、小児の根未完成の歯の根尖部には歯小嚢が付着している。
この中の細胞に歯牙の成長を支える幹細胞が含まれている。
つまり、
根未完成の幼若永久歯の治療は基本的に以下のようなプロトコールになる。
<根未完成の幼若永久歯の治療のプロトコール>
①Apexogenesis(という名の全部断髄法)
↓
②Regeneration(という名のApexification)
↓
③Apexification(というの名の1回法 BC sealer+BC putty根充の根管治療)
↓
④Apicoectomy
↓
⑤Intentional Replantation
つまり、この小児の患者さんは何らかの問題で治療のやり直しが必要になった場合、後4回の再治療が可能である。
ここで注釈を入れる。
また、そのついでに用語の説明もしよう。
まず、
Apexogenesis
とは簡単に言えば断髄である。
ただ、その時、治療する歯の根尖部が未完成であるという特徴がある。
つまり、
根未完成の歯の断髄がこの治療だ。
以下のCaseがそれに該当する。
つぎに
Regeneration
である。
この治療が出た当初は画期的な治療法!として業界を席巻した。
が、今はそれほど騒がれていない。
理由は再生は起きないということがわかってきたからだ。
結局、起きていることはセメント質が根管内に流れ込み歯の幅が成長しているように見えるだけである。
そして子供は得てしてCold testをすると手が上がる。
なぜか?
歯科治療が恐怖しかないからだ。
考えてもみてほしい。
行くのも嫌な歯科医院に行って、怖そうなおっさん(もしくはおばさん)が歯にColdを当てるのである。
まさに、
ホラー
だ。
悪い恐怖映画でもみさせられているかのような錯覚を覚えるだろう。
つまり、
“Cold testに反応したから、生活性を獲得した”という結論になる論文のそのCold testはどうやってやったのか?見せろ!
と言いたいが事実上無理である。
つまり、
生活性を回復させたという結論自体が怪しい
ものである。
次が、
Apexification
である。
私は日本に帰国してからこのApexificationだけはしたことがない。
経験があるのはUSC時代でだ。
以下の症例を思い出す。
当時は1visitでApexificationを行うことは御法度であったが、時代が変わり今は1 visitで行っても問題がないという状況だ。
これはRegenerationもそうである。
これでも治癒しなければ、
Apicoectomy、Intentional Replantationへと進む。
もちろん、患者さんが歯を残したいと希望すれば、だ。
ということで、以上の話を背景にして今日の記事を読んでいただきたい。
歯内療法学的検査(2023.7.12)
#8 Cold+1/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#9 Cold+1/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
そう。ここでも上で述べた結果通りになった。
もちろん、それが嘘だ!とは言わない。
Aδ繊維が残っていれば反応が出るからだ。
この時点でPAが撮影されていないのでわからないが、場合によっては髄角にAδ繊維が残存してるかもしれない。
が、得てしてCold Testは、こういううんっ?という結果になることが多い。
そしてそんなことよりももっと重要な情報が、
患者は外傷で露髄している
のである。
虫歯で露髄したわけではない。
つまり、露髄したのはUnluckyな出来事が原因だ。
この手の話で私がいつも思いつくのは、Cvek の論文である。
Cvek 1978 A clinical report on partial pulpotomy and capping with calcium hydroxide in permanent incisors with complicated crown fracture
外傷から90日経過しててもCvek Pulpotomyの成功率が96%もあるという事実が何を意味するか?
といえば、
根未完成の歯であれば、細菌感染で露髄しても、日数が経過しても、生活歯髄保存療法の成功率は高い
という事実である。
つまり、
小児の歯の外傷での露髄と細菌感染の因果関係において、日数は無関係であるという事実
である。
以上より、この子供の歯(#9)が細菌感染している可能性は極めて低いのである。
チャンバーオープンして窩洞の内部を見た時に、
歯髄が生活性を担保しているような状況であれば
根管治療は不要だろう。
では、歯髄が生活性を担保しているような状況とはどういう状況だろうか?
と言えば、
歯髄に血液供給がある状況
である。
つまり、
顕微鏡で窩洞内の歯髄を見て出血してきているもしくは出血が遠目で見えるようであれば生活歯髄として、Apexogenesisを行わなければならない
ということがわかる。
Pre-op PA(2023.7.12)
この絵でいえば、遠心の髄角にAδ繊維が残存している可能性が高いだろう。
が、根尖病変的な透過像がApexの周囲に見られる。
しかしこれは、TABかもしれない。
それをどうやって見分けるのか?そんなことがわかれば私は今頃大金持ちだろう。
さらに詳細をCBCTで判断してみることにする。
Pre-op CBCT(2023.7.12)
#9
患歯の#9は外傷で露髄したようだ。
そして根尖病変が見えている!
などと診断する人は頭が幸せに満ちているとしか言いようがない。
TABの可能性もあるのだ。
では反体側同名歯の#8はどうだろうか?
#8
ここにも根尖病変があるじゃないか!と激怒したいあなた。
これは本当に根尖病変ですか?
上記の検査では#8 Cold+1/1でしたよ?
この時点でその可能性は跳ねられるだろう。
では、そうじゃなくてこれが恐らく、歯小嚢だろうと思われる。
何でそういう奥歯にものが挟まったような言い方かって?
それは、
真実は誰にもわからない
からだ。
#8と#9を比べてみよう。
#8 vs #9
#8に比べて根尖病変的に見えなくもないが、
疑いで治療をスタートさせていいのだろうか?
私はいいと思わない。
歯科医療は保護的に行うべきだと私はいつも考える。
どうせ歯科治療してもダメになるのだから。
あれはGPのときだ。
補綴に保証をつけているという話を、東京の某・歯科技工士Mさんにした時にこう言われた。
何で保証なんてつけてるんですか?先生が400万のベンツ買ったとしますよ、その時に一生保証します!とかあるんですか?ないっすよね?なので、保証つけること自体がナンセンスですよ。
返す言葉がなかった。
その通りだ。
が、歯内療法は補綴治療とは無関係だ。
防湿がきちんとできていれば、
滅菌された器具や道具を使用すれば、
除菌された材料を使用すれば、
予後が担保される。
治療しても治癒しない歯周病治療とはここが違うのだ。
歯内療法学的診断(2023.7.12)
Pulp Dx: Normal Pulp Tissues
Periapical Dx: Normal apical tissues
Recommended Tx: Apexogenesis(もしくはRegeneration)
である。
ApexogenesisかRegenerationか?はチャンバーオープンしないとわからない。
患者さんの父親が治療内容に納得して同日、治療が始まった。
☆以下、治療動画が出てきます。気分を害する方は視聴をSkipしてください。
#9 Apexogenesis(2023.7.12)
そう。プルンプルンの歯髄である。
また、歯髄の中には血液も見えた。
どこにあるのか?マイクロスコープでももちろん見えないし既に形成をしてしまっているので、わからないが、恐らく、Aδ繊維もあったのだろう。
これがCold testに反応した原因かもしれない。
CHXで洗浄し、EDTAで洗浄し、再度CHXで洗浄し、窩洞をBiodentineで全て埋めた。
治療後にPAを撮影した。
問題ないと思われる。
次回は1年後である。
再度、その様子を皆さんに報告したい。
それまで少々、お待ちください。