紹介患者さんの経過観察。

当時の主訴は、

左下奥歯の歯茎を押さえると痛みがあることがある。また、その歯が時々しみる…

であった。

歯内療法学的検査(2021.4.16)

#18 Cold +2/1, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#19 Cold NR/20, Perc.(-), Palp.(+), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#20 Cold+1/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)

#19の近心根の根尖部を押さえると痛みを訴えていた。

ここに問題がある可能性が高い。

またその歯がたまにものが詰まってしみるという。

生活歯なのだろうか?

初診時 PA(2021.4.16)

根管充填は疎であり、根尖病変が近心根、遠心根に見える。

きちんと形成できれば、90%の成功率があるだろう。

が、穿通ができなければ…60%しか成功率がない。

またこの歯にはRadix Entomolarisもありそうだ。

そこに病変があると…頭が痛い。

だが、PAでは正直よくわからない。

また、この歯にはかなり不適合な修復物が装着されている。

遠心はとんでもないことになっていた。

こういうものが装着されていると、失活歯でも歯がしみることがある。(実際は失活歯がしみることはないので鈍痛などと患者さんが錯覚しているだけなのだが)

これはよく覚えておいたほうがいいだろう。

もちろん、そのメカニズムは私にはわからないが。

CBCT(2021.4.16)

MB

ML

D

Radix

私は敢えていうが、

この会社のCBCTはエンドには極めて不向き

である。

なぜか?といえば、

歯軸に沿って歯が回転ができないからだ。

これでは…見たいものが全く見えない。

なのでこの“絵”では正確な状況が掴めない。

が、近心根尖部に病変があることはわかる。

歯内療法学的診断(2021.4.16)

Pulp Dx: Previously treated

Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis

Recommended Tx: Re-RCT

ということで再根管治療を行うことになった。


Re-RCT後 PA(2021.6.17)

再根管治療を行なったが、全ての根管は閉塞していた。

#60.02まで形成している。

#35.04のGutta Percha Pointで根管充填している。

1年後に経過を見た。

#19 Re-RCT 1yr recall(2022.6.17)

初診時に存在していた根尖部の圧痛、しみる症状は消失していた。

PAを撮影した。

差し当たって、問題は見られない。

ここからさらに1年が経過した。

#19 Re-RCT 2yr recall(2023.8.2)

初診時の臨床症状はこの時もなかった。

PAを撮影した。

問題はほぼないことがわかる。

CBCTも撮影していただいていた。

#19 CBCT(2023.8.2)

MB

ML

D

Radix

根尖病変はほぼ消失している。

そして、患者さんにはいかなる臨床症状もない。

AAEのガイドラインに照らし合わせると、HealedもしくはHealing①であろう。

ということで2yr recallは何事もなく終了した。

さて。

なぜ穿通もしていないのに、根尖病変がほぼ消失したのだろうか?

といえば、

術前の補綴物が不適合すぎたから

であろうと私は考えている。

そこで再根管治療を行うと、60%しか成功率はないはずだが、このようにして治癒することが多い。

ここから一つの推論が惹起される。

術前の補綴物が不適合である既根管治療歯の再根管治療の成功率は、たとえ穿通しなくても60%の可能性で治癒する

ということが言えるだろう。

すなわち、

60%の中に入るものは、不適合補綴物を有している歯

である可能性が高い。

この案が事実かどうかはわからないが、私は今後もこのような症例が出れば患者さんを注意深く見ていきたいと思っている。

この患者さんはGuarded治療であったので来年も来院される。

その際の模様はまたお伝えします。