以前の歯科医院の患者さんの治療のリコール。
治療してから6年が経過していた。
主訴は長いが以下になる。
6年前に抜髄した右下6(ジルコニアクラウン仮着中)に痛みがあります。抜髄の際、4根管あり残髄していて側枝があるかもしれないと言われました。半年くらい治療が続いてジルコニアを仮着しています。根管治療時はラバーダムは使用してもらえませんでした。治療後も痛みがあり、再度受診しましたがレントゲンでは異常がないとのことで、咬合調整で終了しました。が、痛みが取れません。専門の歯科医院でみてもらいたくて探し回ってこちらの歯科医院でご相談させていただきたいと思い来院しました。
であった。
長い主訴だ。
さらに患者さんに話を聞くと、その歯(#30)は小学生の時に虫歯があると言われてInlay修復になっているという。
その後、Inlayは何度かやりかえて最終的にはHybrid resinでOnlayになったそうだ。
この患者さんは鈍痛が常にあり、痛みのレベルは5/10。
まあまあの痛みである。
そして半年間、痛い!というのでこの治療担当医はJ-Openしていたそうだ。
J-openなどまだやる人がいるというのに正直驚いてしまう。
その話は今週末に東京でもするのだが、全くナンセンスな処置方法だ。
そもそも抜髄する歯には細菌感染はない。
それを何らかの修復治療か、カリエスで歯髄に細菌が侵入する。
その結果、歯髄が壊死する。
そして根管治療になる。
ここで通常は90%が治るはずだが、
保険診療は治療費が極めて安いので、ラバーダムも新品の道具も、Gutta Percha Pointの消毒も、アメリカでしか販売されていないシーラーも使用できないので…という国の都合のせいにして、まともな歯内療法が行えない国が日本だ。
この国の歯科医療に未来があると私にはとても思えない。
今日も至る所で適当な治療が行われているのである。
他人の所為にする前に、それを解決する方法を考えろよ、といつもいいたいがそんな声はもちろん届かない。
黙って税金を受け取った方がいい生活ができるからだ。
そしてもうこれ以上はどうしようもないと匙を投げて抜歯し、インプラントに置き換わる。
このどうしようもない状況が我が国の歯科医療の現場である。
もう一度、
“ヒポクラテスの誓い”を読んだ方が良さそうな歯科医療が日本の歯科医療だ。
まあそんなことしてもたいして変わらないだろうけど。
歯内療法学的検査(2017.9.27)
#29 Cold+2/5, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#30 Cold NR/20, Perc.(++), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#31 Cold+2/5, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#30には強い打診痛がある。
初診時PA(2017.9.27)
このPAからわかることは…
近心根は根管形成不足気味であり、
遠心根はアンダー気味な根管充填だ。
再根管治療で改善できる可能性はある。
が、やってみないとわからない。
治癒しなければ右下6番のM,D両方のApicoectomyという大変な治療になってしまう。
ということで、この時はCBCTは撮影してもらっていたが以前の歯科医院の閉院などでデータが消えてしまった。
ということで再根管治療を提案し、治療へと移行した。
歯内療法学的診断(2023.7.25)
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx:Symptomatic apical periodontitis
Recommended Tx: Re-RCT
☆以下、治療動画が出てきます。不快感を感じる方は視聴をSkipしてください。
が、根充後の画像がない。
なぜか?といえば、私の個人的な健康問題で全てを取り上げられたからだ。
過去の記録はもうないのである。
が、治療後にこの患者さんからは以下のような内容のお手紙をもらっていた。
昨日はとても丁寧に治療していただき本当にありがとうございました。
痛みの原因を特定していただいてほっとしました。
おかげさまで痛み止めも飲まずに過ごしております。
先生の説明もわかりやすく、改めて受診して良かったと思いました。
CTの件、昨日の治療までに先生のお手元に届いておらず大変申し訳ございませんでした。
預かったCD-Rを同封していますのでご査収くださいませ。
次回のRecallにも必ず参ります。
今後ともよろしくお願いいたします。
しかし次回のリコールに私がいなかった。
脳出血で倒れたからである。
ということでそれから時間が経過し、私は娑婆に戻ってきた。
すると患者さんから連絡があった。それがこの日の経過観察である。
患者さんは痛みから解放されただろうか?
歯内療法学的診断(2023.7.25)
#29 Cold+2/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#30 Cold N/A, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
#31 Cold+2/4, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio Probe(WNL), Mobility(WNL)
術前の症状は改善されていた。
いかなる咬合痛や打診痛もないという。
PA(2023.7.25)
根尖病変などはできていない。
安定している。
CBTCも撮影した。
CBCT(2023.7.25)
口腔内検査動画(2023.7.25)
ということでどこにも問題がない。
主訴は完全に解決した。
以下、患者さんの感想。
時間があれからだいぶ経ちましたが、今は全くどうもありません。
本当にありがとうございました!
治療からもう6年経過しているので外科治療へ移行することはなさそうである。
本当に良かったですね。
これからも元気に楽しく、日々を過ごしてください。
我々歯科医師はそれくらいしか患者さんの問題を解決できないのだから。
次回は4年後に経過観察で良さそうである。
またご報告します。