バイト先での治療。

患者さんは40代女性。

主訴は矯正治療を行うが、根尖病変があるので治療してほしいというものであった。

PAは以下になる。

根尖病変が認められる。どこの根管だろうか?

CBCTをいただいており、それを分析した。

M根はおそらく1根管である。しかしながら根尖病変的な透過像が認められる。歯根膜空隙の倍以上あることからこれは根尖病変と言える可能性がある。

ということは、この根管は穿通させなければならない。

続いてD根であるがこれは何個か問題がある。

①根尖病変が認められる。

②根管が長い

穿通が必要である。そしてChugal 2003によれば、根尖部は攻める必要性がある。

そしてこの上の画像を見て、変な根管があるんじゃないか??と気づいたあなた。

あなたは鋭い。

これがなんだかあなたにはわかるだろうか??

Calberson 2003の論文を参照していただきたい。)

そう。Radixである。

かなりの湾曲が強い根管である。

ファイル破折の危険性が高い。

Dangerousだ。しかし、根尖病変がない。

まずは良かった。

ここに根尖病変があれば穿通が必要である。無理なら外科治療も必要になる。しかし、今回はその必要がないのだ。

が、私は某社の方から以下のようにこの歯を治療するファイルを勧められた。

“うちのファイルは絶対に折れないですから使ってください!”

ということでこの症例でそのファイルを使用してみた。

PAは以下になる。

そう。見事にRadixでNi-Tiファイルは折れたのである。

話が違うじゃねえか!と抗議?したくなるだろうが少し待ってほしい。

本当にこれは過失なのか???

Crump 1970

Spill 2005

以上の2つの文献からわかることとして何があるか???といえば、

根尖病変がある場合は、破折ファイルの存在が歯内療法の成功率を下げると記載があるが、

Crump 1970の文献で言えば、破折器具をそのまま根充した2年予後をみているが、

手用ファイルの破折がある→治療の成功率(Success+Uncertain)=48/53=91%

手用ファイルの破折がない→治療の成功率(Success+Uncertain)=45/53=85%

破折ファイルがある方が成功率が高くなっている。

Spill 2005の文献でいえば、

根尖病変がある+破折ファイル(Ni-Ti Fileの破折)なし→92.9%成功

根尖病変がある+破折ファイル(Ni-Ti Fileの破折)あり→86.7%成功

である。

大きく歯内療法の予後に影響するだろうか?

成功率はわずか6%しか下がらない。つまり?影響するのか?

いや、しないのだ。

しかしこの事実を治療後に患者に話すと揉めることは間違いない。

なぜか?聞いてないからだ。(ダチョウ倶楽部状態)

全ての治療は治療前に必ずインフォームドコンセントしなければならない。

例えば、USCのインフォームドコンセントシートには以下のように記されている。

(これはアメリカ時代に治療した歯=Gold Inlay装着歯が痛くなり寝れなくなった、妻の治療を行った時のものである)


訳すと以下のようになる。

私、患者は根管治療が感染、虫歯、破折により生活性を失った歯を保存する治療であるという意義を理解し、別の方法は抜歯であると理解する。

私は担当歯科医師と以下のような項目について話をし、その治療のリスクと合併症が起きることを理解する。それらは以下の通りである。

  1. 根管治療は麻酔と複数回のレントゲン撮影を必要とする
  2. 局所麻酔により時として開口障害や麻痺(一時的もしくは永続的)が起きることがある
  3. 術後の不快症状や主張が数時間〜数日持続する場合があり、必要に応じて投薬される
  4. 薬剤や麻酔によりアレルギーが出る可能性がある
  5. 根管治療中にファイル破折が起きる可能性があり、その際は学生または歯科医師(米国では歯科大生は学生=studentであり、大学院生=dentistである)の判断によりそのままにするか外科的に除去される
  6. 湾曲根管や残存歯質の状況により穿孔(パーフォレーション)が起きることがある。この場合、外科的治療による修復か抜歯が必要になる。
  7. 根未完成歯は根管治療または重篤な歯周疾患により破折を起こし結果、抜歯になる場合がある
  8. クラウンやブリッジを介しての根管治療は修復物にダメージを与える。しかし、その責任は治療者である学生、歯科医師にはない。
  9. 石灰化が進んだ根管、破折器具の存在、歯根や歯冠の破折により根管治療は中断される場合がある。
  10. 根管治療の成功率は 約93%である。(Sjorgren 1990の文献の結果を引用している)
  11. 外科治療を行なった場合、治療後に不快症状、痛み、腫脹、顔面のあざ、過度の出血、開口障害、神経の損傷による麻痺や口唇・頬・歯肉や舌の痛みや麻痺が起きる可能性がある。これは数日、数ヶ月、永遠に続く可能性がある。また上顎の歯の場合、上顎洞が露出する可能性がある。
  12. 生活性を失うため、歯が黒化したり、もろくなったりする可能性がある。したがって我々はクラウンや他の適切な修復物をできるだけ装着することを推奨する。

歯内療法を行う間、投薬による副作用(吐き気、下痢)が起きる可能性があることを承諾する。もし、副作用(かゆみ・発疹・じんましん)が起きれば、私は服薬を中止し学生か歯科医師に連絡する。

根管治療によっても問題が解決しなければ抜歯になることを理解している。その際、彼らの責任を問えない。

クラウンを介しての根管治療は虫歯やクラックを隠すので学生または歯科医師は視認できない。これが原因で抜歯になっても学生または歯科医師の責任は問わない。

根管治療が終了しても適切なクラウンを装着することを守る。

私は上記事項を理解し受け入れることを誓います。

患者氏名 〜

担当歯科医師氏名 〜

指導医氏名 〜


ということで、治療を行うには、

患者

治療する学生または歯科医師

指導医

全員のサインが必要である。

これが無しでは治療は認められない。

しかもこの手の紙は他にもある。

またレントゲンは何回も撮る。麻酔もする。無麻酔での歯科治療は米国では一切認められない。それが嫌ならクリニックには入れない。今すぐ出ていかなければならない。

これをアメリカで非外科を200以上、外科治療を非公式で(症例数には認められないという意味)60以上USCで私は行なった。

したがってあまりこういう言い方はしたくないが、その辺の歯科医師とは根管治療に関しては、訓練度合いが違う。

正直、一緒にして欲しくないのだ。

わかりやすくいうと、外科治療という核兵器を手に入れた軍隊のようである。

これがアメリカに留学した大学院卒の歯科医師の特徴なのである。

あなたが今、根管治療を行なっていても問題が解決しないのであれば、米国歯内療法専門医の歯科医院に行ってみよう。と言っても、日本には6人しかいないが。

さて、上記の患者は現在矯正治療を行なっている。

コルチコトミーを行なっているため、PAが撮りにくいそうだ。

しかし、痛みは全くないそうだ。

デンタルを撮影した。

遠心根の根尖病変は無くなったようだ。

近心根の根尖病変はまだあるのかもしれない。

CBCTを取ればわかるがその必要はないだろう。

なぜか。患者に主訴がないからだ。

ということで次回はさらに半年後の10月に経過観察を行う予定である。

ファイルが折れたからやばい!と思っているあなた。

やばいのはその状況で無く、あなたの頭なんですよ。

早く気付きましょう。