バイト先での治療。
患者は30代女性。
主訴は
左上第1大臼歯の鈍痛(他の歯とは違う)
歯内療法学的検査を行った。
#13 Cold+3/2, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#14 Cold N/A, Perc.(+), Palp.(+), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
#15 Cold+4/3, Perc.(-), Palp.(-), BT(-), Perio probe(WNL), Mobility(WNL)
PAは以下になる。
前医はここまで丁寧な治療を保険診療レベルで行っていた。
偏近心は以下である。
すると、MB2に根尖病変が存在するのが目に入った。
この部分が違和感が解消しない問題かもしれない。
歯内療法学的診断名は以下になる。
Pulp Dx: Previously treated
Periapical Dx: Symptomatic apical periodontitis
私は患者さんに
①MB2の根尖部に根尖性歯周炎があること
②ラバーダムを使用せずに再根管治療をしていることから、ラバーダムをしてから根管治療しなければならないこと
などを説明し、
再根管治療+Core Build Up w/wo Fiber Post
という治療計画を提案した。
それが今年の2021.9.30の出来事であった。
しかしそれから状況は以下の手紙で激変する。
患者さんは前医と連絡を取り以下のような資料をgetしていた。
それを私も拝見することになったのだ。
以下のような手紙が入っていた。
患者は他院で治療をしていたようであった。
担当医先生御机下
R3.10.11に連絡があり、転医するので経緯のわかるデータや情報が欲しいという依頼があって作成しています。
本患者さんは2019.3.16~2020.3まで〜歯科で治療しています。
主訴は左上の銀歯がとれたでした。
2020.3.3まで通院していましたがその後はコロナ禍で中断となり、来院はありません。
電話では左上6と聞いていますが、現症についてはわかりません。
治療を行なった歯は#11,14,16,17,26,27,34,35,36,37,44,45,46,47で金属は患者さんの希望でゴールドを使用しています。
左上6に関しては、既根管充填歯でした。感染根管治療を行なった後に補綴治療をしております。
以上です。
当時のPAなどのデータも入れておきます。
○△歯科医院 院長〜
以下、患者さんによる追記
○△歯科医院さんから最初にもらったCDにはPAしか入っておらず、CTのデータがなかったので再度依頼して送ってもらい、1枚のCDにまとめています。
CTがない旨を先方に伝えると、
CTは撮影していない
と言われましたが、確認してもらうと
左上の治療のために撮影したCTがありました。それをお送りいたします
とのことで送ってもらいました
とあった。
ちなみに、私は
○△歯科医院 院長〜
と会ったことがある。
ある人が博多で歯内療法の講演会をやるというときに、一緒に懇親会に参加したいとのことで博多での懇親会を一緒に行った記憶がある。
が、どういう人だか全く記憶にない。
酒にかまけて絡まれたか?何も話していないか?記憶がない。
が、治療のデータが送付されていたので早速それを見ることにした。
すると以下のようなPAが封入されていた。
2019-3-16
MBの先端に根尖病変がある。
そして以下のPAがこの患者の治療を決めてしまっていた。
2019.10.15
さあみなさんはこのPAを見て何を思うだろうか?
MB2を発見しかも合流しないタイプである。
こういうふうになる確率はVertucci 1984によれば20%と言われている。
いわゆるKing Caseになる症例だ。
が、それ以上に大きな問題がこのPAには隠されていることにあなたは気づくだろうか?
そう。
ラバーダムのクランプがどこにもない。
この歯科医師はラバーダムなしで再根管治療をしていたのである。
これは大きな問題だ。
なぜか?
根管治療はバクテリアを減らすために行われる。
にもかかわらず、ラバーダムをしないということは口腔内の唾液の中にいる多くのバクテリアを根管の中に封入させてしまう。
しかも昔の論文に従えば、
根管には側枝がある。
ここに入った細菌は再根管治療で除去できるだろうか?
といえば、前医がそれほど拡大をしていなければ除去できるかもしれない。
しかし大きく拡大していれば…
患者のPAをもう一度よく見ていただきたい。
かなり大きくすでに拡大していることがわかる。
これは再根管治療を行なっても意味がないことを示している。
なぜか?
すでに大きく削合してあるのである。
私がゴールドクラウンを除去し、コアを除去し、再根管治療をし、MB2のGutta Perchaを除去し、再根管形成しても既にそこには形成された根管があるのである。
主訴が改善するとは到底思えない。
また同封されていたCBCTには以下のような情報が入っていた。
折角CBCTがこの歯科医院にはあるのに基本に忠実に治療をしなければ何の意味もない。。。
歯科医療は手遊びではないのだ。
そして誰が一番器用か?を競うゲームでもない。
患者は歯科医院に時間を潰しに来ているわけでもゴールドを収集しに来ているのでもない。
病気を治しにきているのだ。
その意味でこの歯科医師の責任は重いだろう。
私はこの話を急遽患者さんに電話連絡をいれて行なった。
そして治療は再根管治療から歯根端切除術に変更されたのである。
そして先日、外科的歯内療法が行われた。
以下、動画でその模様をお伝えする。
(注)以下、外科画像が出てきます。そうした類のものが苦手な方はskipしてください。
歯根端切除をしてメチレンブルーで染色した。
染まった部位を超音波で逆根管形成した。
このブルーの部分が感染源である。
MB1とMB2の距離は比較的近い。
MB1とMB2を合流させた。
口角がかなり硬く、リトラクターがフラップの上に乗ってしまっている。
これは、術後に腫脹が起きる可能性が高いことを示している。
早く逆根管充填がしたかった私は、lid techniqueを用いて逆根管充填を行うことにした。
まずBC sealerを逆根管形成の窩洞の中に充填する。
そしてBC puttyをその上部に置き蓋をした。
いわゆるlid techniqueを用いて逆根管充填したのである。
Advanced Course 2021の中でlid techniqueについては触れている。
逆根管充填後にPAを撮影した。
以下のようになり問題ないと判断し外科治療は終了した。
術後(術中)PA
次回は1週間後に抜糸を行う予定である。
その後は問題がなければ半年後、そして1年後に経過観察を行う。
患者さんは特殊な職業についている方で平日の方が時間が取れるようだ。
いずれにしても、また半年後に経過をご報告したいと思う。