バイト先での治療。
主訴は#18の歯茎の腫脹であった。
術前の診断では症状はなく、歯茎の腫脹が歯頚部に見られた。
しかしSinus Tractは見られなかった。
打診痛や根尖部の圧痛などもない。咬合痛もない。
歯周ポケットは頬側中央が10mmで部分的に深い。
そしてそこからは出血もあった。
術前にPAを2枚撮影した。
しかし、撮影してもどこかが割れているか?とか、どこかに病気があるのか?などわからない。
わかることは歯牙の外形と根尖病変が根尖部にあるということだけである。
エンドの診断は以下のようになる。
Pulp Dx : Previously Treated, Periapical Dx : Asymptomatic apical periodontitis
この術前のデンタルを見て、
「俺はラバーダム使って顕微鏡を使用して治療するのだから成功率は極めて高い!」などと断言できる歯科医師はちょっとどうかしているだろう。
少し根管治療を学習したことがある歯科医師であれば、治療の成功率は極めて低い可能性が高いということがわかるだろう。
ではどういう治療をするか?だが、歯牙を保存したいのであればIntentional Replantation以外の治療の選択肢がない。
冠を除去して意図的再植を行いたかったが、接着修復で冠を最近装着しているため除去することができなかった…
ということで冠を除去せずに意図的再植を行うこととなった。
歯牙をラクスエーターで脱臼させ、ダイヤモンド鉗子で抜歯した。
根尖部3mmを切断し、逆根管形成を行うがその前に歯牙を顕微鏡で観察した。
すると驚いたことに破折線が舌側に存在していた。
ポケットが深いのが頬側中央であるにも関わらずである。
が、破折線はかなり浅く同部を除去すると破折線が消失したため逆根管充填して破折線も逆根充材で埋めることにした。このような時に使用できるのがBiodentineである。
上記写真でメチレンブルーで染まっていない部分に破折線が存在する。
バーで破折線を削ると破折線は浅く消失した。
ここをMTAで充填すると、抜歯窩に戻すと溶けて無くなってしまう。
がBiodentineであればそれはない。12分で硬化するからだ。
(なお、上記の写真は治療後に撮影した。)
説明書には粉と液を1:3で混ぜろと書いてあるが私は1:5が丁度いいと感じている。
1:3だとパサパサすぎるからだ。
Biodentineの特徴といえば歯牙に変色を起こさないということである。
この下の抜去歯牙の絵は1が治療前で2がBioceramic材料(White MTA, Gray MTA, Biodentine, BC putty, MTA Angelus)で充填したものである。
A1, A2は何も充填していない(単純な時間経過。コントロールである。)
さてこの下の絵の中でどれがBiodentineで詰めたものであろうか??
最もA2い近い充填物は???
充填後のA2の色に最も近いのは、D2とF2だろう。
最も変色しているものはE2である。
ではその材料とは???
ということで変色をほとんど起こさない材料で意図的再植、破折部(舌側遠心)のリペアを行うこととした。
PAを撮影した。
問題ないと判断し、抜歯窩へ戻しPAを撮影した。
固定などはしていない。
治癒は動物実験だと2ヶ月で完了する。
咬合の調整を行い、術後の注意を与えた。
治癒までには2ヶ月待機した方がいいだろう。
Biodentineはいい材料であるが弱点がある。
それは1回の使用で全てのBiodentineを使い切ってしまうという点である。
MTAセメントであれば必要とするMTAだけ量を出せばいいが…
もう1つこれは経験則だったが、象牙質の色に同化する。つまり歯の色と違いがなくなる。
補綴の先生からポストが掘れないけれど…と電話がかかってきたことがあったくらいだ。
しかし、アマルガムミキサーさえあればいい材料であるので是非使用を推奨する。